第二節:職人ドワーフと魔族商人に、俺が首を突っ込みにいく
第16話 依頼主は気弱なヒョロ男
さて、クイナが個別の仕事を見つけたのだから、俺もその間に別の仕事をやるべきだろう。
という事で、週に2回のキャロの所へのお手伝いの日に合わせ、俺も自分の仕事をしにやって来た。
一体どこに来たのかというと、だ。
「おぉ、なんかちょっと威圧感がある、か……?」
ほとんどが木造のこの街には珍しい石造りの家、俺の恩恵を必要としている場所というのはココらしい。
――依頼には、確か『頑固な人達の仲裁』と書かれてた筈。
『調停者』の恩恵を持っている
息を大きく吸い込んで、その全てを吐き切った。
ちょっと抱いてしまっていた緊張も一緒に吐き出して、やっとドアをノックする。
「すみませーん。冒険者ギルドから限定依頼を受領して来た者なんですが……」
中にそう呼びかけると、少しの沈黙の後、奥から「はーい」という男の声が聞こえた。
しかし。
「ち、ちょっと待ってくださいねー……って、うわぁーっ?!」
ガラガラガッシャーンッ!
「え、中でなんかすっごい音がしたんだけど大丈夫かな……」
思わずそう呟かずにはいられない。
と、やっとドアがガチャリと開き、中から男が顔を出す。
「すみません、お待たせしました」
「だ、大丈夫ですか?」
「えぇまぁいつもの事なんで」
そう言ってハハハッと笑った彼は、ヒョロッとした金髪で何だかとても気弱そう。
俺と同年代くらいだと思うが、どこか苦労性そうな人だ。
「とりあえず中に入ってください」
あまり綺麗にはしていませんが。
そう言って眉をハの字にして笑う彼に、すぐに「これはきっと『話は中で』というだな」と理解した。
招かれるままに中に入ると、そこにあったのは少し散らかったリビングだった。
おそらく先ほど倒したやつだろう、箱が倒れて床に零れている石塊たち。
しかし散らかりっぱなしなのは、何もソレだけじゃない。
食卓にも使うのだろうテーブルには、どこやらの広告が今にも崩れそうなバランスで重ねれているし、棚には――家族写真が飾られている一角を除いて――さも「押し込みました」と言わんばかりに物が詰め込まれていて、整頓のカケラも見られない。
その他にも、多分洗濯済みなんだろう。
ハンガーが付いたままの衣類がソファーに投げ出されている。
総合すると、多分『色々な事が行き届いていないのが良く分かる部屋』と言ってもいいんじゃないだろか。
「すみません。何分男所帯なもので」
そう言いながら、書類が積まれたテーブルの椅子――四人掛けのテーブルの内一応書類が避けられている側の椅子を引いて、勧められた。
素直にそこへと腰を下ろすと、俺の向かい側へと座り彼は微笑む。
「僕はマックス。鍛冶屋の一人息子です。ちょうど貴方のような人を探していた所でして。来てくれるとしたら『交渉』の恩恵保持者辺りかなと思っていたのですが、最適な方が来てくださって、本当に運が良い」
表情を綻ばせてそう言った彼は、俺に希望の光を見出している様に見えた。
が、残念ながら俺の能力は万能じゃない。
だからこそ、今まで何かと『残念な王族だ』と、城で一部からしきりに揶揄されて来たのだ。
「俺の『調停者』は、簡単に言えば『人と人の仲介をし、緩衝材としての役割を果たす為の補助的なもの』です。効果が第三者の目に見えるようなものではありませんし、当人同士の気持ちが無いと中継ぎだって出来ないような力です」
この能力は、誰かの精神に干渉したり捻じ曲げたりできる類のものではない。
ただ単に「話していると両者の落としどころが何となく分かってくる」というだけの力である。
そして、幸いというべきか。
力それ自体もそれほど強いものではなく、意識して聞いてないと気付けないレベル。
これに至っては、一般的に
つまり何が言いたいのかというと、そもそも小さな力だし、最初から譲歩する気が無い相手の仲立ちは無理だろう――という話を、この依頼を受ける時に、彼には前もってギルドが伝えている筈なのだが、覚えてくれているのか。
彼の期待のし様を見て、ちょっとそんな不安に駆られた。
が、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「分かっています。それでもやはり聞いていただきたくて」
そう告げてきた彼の瞳には動揺も無く、ちゃんと落ち着きに凪いでいた。
それに少し安堵して、俺も「分かりました」と頷く。
「では、一応依頼内容について詳しくお話してみてくれませんか?」
依頼内容についてはギルドから前もって教えてもらっているのだが、状況が変わったかもしれないし、話していると新情報も出るかもしれない。
そう思っての問いかけに、マックスはコクリと頷いた。
そして、語り始める。
「事は、鍛冶師である父と商人の『仲違い』に端を発するんです」
と。
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