第10話

 翌日、チカちゃんに会った…。かえこさんの家で…。

「キレイでしょう…」

「はい…」

 本当にキレイで、今にも目を開けて「きょうちゃん…」と言って、抱きついて来そうな…。そんな…。

遠矢とおやくんに、って…」

 そう言って、かえこさんから手紙を渡される。

「ありがとうございます…」

 今、読んだらきっとダメな気がするので、読まずにいると、

「告別式の後にでも読んであげてね…」

 かえこさんは微笑んで、

太志たいしもきっと、今、読まれると恥ずかしいから…」

「はい…」

 そして、玄関から誰かが呼んでいるので、

「じゃあ、俺はこれで…」

「来てくれてありがとう…」

 かえこさんと一緒に玄関先に向かうと、

「かえこ、いたのか…」

「いるわよ」

「太志は…?」

 俺なんて見えてないのかと思えば、俺の手を握って、

「戻ろうか…?」

 かえこさんは大いに笑って、

「ヒトリじゃ怖いのよ」

「そう。俺、怖がりだから」

「キレイに眠ってますよ…」

 だから、大丈夫って言ってるのに、グイグイとチカちゃんの眠ってる部屋に連れられて、またチカちゃんを見る…。

 しかし、担任の手…。熱いな…。

双樹そうじゅ、いつまで遠矢くんの手、握ってんのよ。離しなさい」

「やだ」

「やだって…」

「怖いもん」

 面倒かも知れない。この担任。

「太志…」

 俺の手を握ったまま、チカちゃんに近付くので俺も近付く羽目となる…。

 生きてたら、めっちゃ怒りそうだな…。

京輔きょうすけくんは俺のモノだからね…」

 チカちゃんに向かって、笑っている…。

「いや、先生のモノじゃないです…」

「双樹って呼んで…」

 展開が早過ぎて、俺の思考回路がついていけない…。

「先生、落ち着きましょうか…?」

「落ち着いてるよぉ」

 いやいや、全然興奮してらっしゃるから。

「落ち着けって!」

「はい…」

 苦肉の策で、俺から抱きしめたら落ち着いてくれたようだ…。

「遠矢から抱きしめてくれるなんて…、それって」

「先生のモノではないですから」

 はっきり言い切った。

「もう…ちょっとさぁ…、慰めてくれないかな…」

 ははは。と乾いた笑い声で、

「これでもショックなんだぞ…?」

「そうは見えないですけど…」

 ケツを触ってるヤツに、そう言われても…。

「触らないでください…」

「いや、触るでしょう…」

 優しく微笑んで、

「こうやってたら、また起きそうな気がしてさ…」

「先生…」

 俺から目を逸らした瞬間に、涙がこぼれ落ちた…。担任もまだ、チカちゃんの死を受け入れられないでいるのか…。

「太志…」

 ごめん。と泣きながら繰り返し謝っている担任の腕を掴んだ…。見ていられなくて…。

「先生は…、双樹さんは…、悪くないよ…」

 チカちゃんも悪くないって言ってるよ…。きっと…。

「遠矢くんっていいコだね…」

「そんなことないですよ…」

 だって、今、泣いている双樹さんを抱きしめているから…。いいコじゃない…。

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