第2話

「いらっしゃいませぇーっ」

 いつもと同じように出迎えてくれるかえこさんに、

「いらっしゃいましたぁーっ」

 いつものように答える。俺も…。

「あら…?」

 かえこさんとは、近所のコンビニを経営するオバ…いや、お姉さんで、ココは俺のバイト先でもある…。

「明日、じゃなかった…?」

 確かに、明日がバイトの日…。

「そうですよっ」

 ご飯は作る気になれなくて、最近ずっとバイトの日じゃなくても来てる…。

「1食くらいは自炊しなきゃ、ダメよっ」

 言われなくても、わかってますよ…。

「そうですねぇ…」

 空返事をして、惣菜を見る…。

「成長期なんだから、少しは…」

 さて、今日の夕飯は…。

「ただいま…」

 バックヤードから出て来た店員さんが驚いている…。いや、店員じゃない…。

太志たいし、おかえりっ」

 今朝出会った運命のヒトかと勘違いした近永くんだった…。

「あら…?」

 かえこさんは、不思議そうに俺を見る。

遠矢とおやくんとは、もう会ったの…?」

 近永ちかながくんは頷いて、

「学校で、ね…?」

 俺を見て、それ以上何を言うワケでもない…。整った顔でそんなに見つめられると、恥ずかしいんだけど…。

「あ、…あぁ…」

 返事が曖昧になってしまったのを、かえこさんは聞き逃さない。

「よそよそしいわね…」

 そんな目で見つめないで…。かえこさんのその鋭い眼光から目を逸らした。

「そんなことないですよ…?」

 そんなことあるんだけど…。

「…ん?」

 ヒトの気配に気付いて、振り返ると困った顔で笑顔な近永くんがいた…。

きょうちゃん…」

 その呼び方と、

「ん…?」

 遠慮がちに少しだけ服の袖を引っ張る…。

「ただいま…」

 近永くんが俯きながら、距離を縮める…。

「おかえり…」

 昔と変わらないな…。

「チカちゃん…」

 思い出したのは、それだけじゃないけれど…。

「男だったんだな…」

 幼い頃の近永くんことチカちゃんは、肩まで髪があって見た目は今以上にとても中性的なコだった…。

「知らなかったの…?」

 声変わりして、やはり男だったんだと…。知らなかったワケじゃない。ただ、憶えてなかっただけ…。

「いや、知ってた…」

 俺の記憶から消されていたのは、俺自身に思い出したくないことがあったから…。

「思い出したよ…」

 だから、距離は取らないといけない…。

「そう…」

 ちょっとだけ距離を取った俺に、

「でも、もうあのヒトはいないよ…」

 そう言って、すたすたとかえこさんの元へ向かった…。そして、かえこさんは何か思い出したかのような顔をした。

「遠矢くんっ」

 かえこさんの笑顔に、何故かほっとした…。悪い知らせではない気がしたから。

「たぃ…、いや、近永くんが今日から来てもらえるようになったのよっ」

 そんなに遠くない距離だけど、大声で言ったかえこさんに向かって、

「それはよかったですねっ」

 同じくらいの声量で返事した。

 従業員が足りてないとボヤいてましたからね…。いいことだ。いいことだ…。

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