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環
第1話
春。
新学期を迎えられた高校2年の春。
「待てっ!
相変わらず、俺は担任と鬼ごっこをしている…。いや、担任から逃げているワケではなく、ただ単に追いかけて来るモノには逃げたくなる…。
「バイトがあるので、また今度っ」
出席日数と単位数がギリギリな俺は、担任にとって早くケリをつけたい相手なのだろう…。
「そのバイトのことだっ!」
ちゃんと学校の許可取って働いてますよ…。
「俺が働かないと生きていけないって言ってるでしょうがっ」
父の仕事上、転勤が多くて母の実家近くに母と一緒に定住していたが、俺が高校進学すると同時に、その母は父のところへ行ったので、いつ帰って来るかもわからない家に一人いる。正直、生活には困ってない。だが、一人でいるのは何か嫌だ…。
「そうか…」
それを言えば、担任も諦めて去って行く…。俺がもう少し成績を良くすればこんなやりとりをしなくて済むのだが…。元々、勉強はあまり得意ではない…。
この廊下を過ぎれば、もうすぐ外に出られる…。
「あ…」
何となく、そう呟いた方を見たら、
「ん…?」
本当にキレイな顔立ちで、すらっとしていて…。同級生にこんなヤツいたのか…。知らなかった…。もっと真面目に学校へ来ればよかったと少し後悔した…。
「
長く感じた一瞬が、その言葉で動き出した。
そう先生に呼ばれて、俺に向かって軽く会釈して行ってしまった…。
「はぁ…」
多分、もう会わないんだろうな…。その後ろ姿を見てはたと気付く。
「マジか…」
アイツの制服が見えてなかった…。男じゃねぇかっ
「何が、マジなの…?」
いつの間にか隣にいた幼馴染みの
「何でもない…」
近永くんとは真逆だけど同類な真柄に言っても、それっていい迷惑と言いそうなので言わない…。
「そう…」
本当に興味ないんだな…。俺に。
「そうだよ…」
そういう俺も、真柄に何の興味もない…。お互い様、か…。
「近永くんって、昔、近所に住んでたよ…」
そう言い残して去って行く真柄の背中を見ながら、
「嘘…」
俺、憶えてないんだけど…。真柄が幼い頃よりイケメン(男ではないが…)だったくらいしか憶えてない…。近永くんのような可愛らしいコがいたのだろうか…。いたのならば忘れる筈がない…。でも、真柄が嘘言うワケないし…。
「あ、あの…」
そんな考え事をしていると、頬を赤らめている可愛い女子が目の前にいた…。ネクタイの色で、1年生だと知る…。俺には全く面識がない…。
「真柄センパイとは、お知り合いですか…?」
どう答えるべきが悩んでいると、
「彼氏さん、ですか…?」
しょぼんとした姿に、
「違うよ」
思わず、言ってしまった。確かに彼氏ではないから否定するところだが…。
「そうですか…」
笑顔になり、
「ありがとうございましたっ」
深々とお辞儀をして、去って行った…。
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