第11話 女優

 警察署の休憩スペースで露守、酒田、京本の三人が話をしていた。

「――ということで、久崎が狙われたのは警察の情報が漏れたのが原因と見て間違いない」

「いったい誰から……」と、露守は眉間にシワをよせて考え込んでしまう。

「身内を疑いたくはないよな」

「でもこれ守秘義務違反ですよ。もし情報の見返りに金銭を受け取っていたなら贈収賄罪です」

 若い酒田は不正が許せないのか腕組みをして怒っている。

 休憩スペースで捜査内容を話していることも漏洩なのだが、気付いてはいないようだ。

「だよなあ……。二課に伝えておくか」

 捜査第二課は詐欺や横領などの知能的犯罪を担当している。

「仏の京本さんは甘いです。なぜ一課にいるんですか」

「そう言ってくれるなよ、僕も不釣り合いだと思っているんだから」

「裏切者探しは二課に任せましょう。で、予想通り久崎は博士に助けられた被害者だったのよね」

「一緒に誘拐された小井戸さんの証言を信じるなら、ね。二人が交際していて何らかの理由で久崎を庇っている可能性は残るけど」

「ありえません。あんな可愛い子が彼女なんて」

「私も交際しているとは思えないわ。小井戸さんは嘘をついていそうなの?」

「あくまで印象だけど嘘とは思えないね」

「そう……。久崎はどうかしら、自白剤を打たれたんだから嘘じゃないわよね」

「鑑識が言うには、採取した血液から自白剤の特定をしたけど、まあ一般人には抗えない薬らしい」

「久崎は白で確定ね」

「甘いぞ君たち」

 砂金いさご研究員があらわれた。

「私たちが話しているといつも来ますけど、もしかして尾行してます?」

「刑事の職業病だね。私は割と人気者なのだよ、絶えず鑑識の依頼が舞い込んでくるぐらいね。ここの自販機が一番近いんだ偶然会うのは必然さ」

「それでー、甘いってそのジュースのことですか?」

 砂金は自販機で買ったミルクティーを開けると一口飲んだ。

「疲れた頭には糖分が一番だね。さて、君たちは誰を相手に捜査をしているのかな?」

「久崎ですが」

 砂金は酒田を指さしながら、

「不正解! 散歩程度の気軽さで宇宙へ行ける博士が相手なんだ。現代の科学力よりも一世代、いや二世代先にいる。自白剤の対抗薬を持っていても不思議じゃないね」

「そんなことを言い始めたら捜査なんてできませんよ」

「正解! 不可能なんだよ。科学捜査研究所で扱う証拠品、それらは科学力で分析され犯人を特定する手助けをしているよね。なぜ可能か。それは犯人よりも科学力が優れているからなんだ。指紋やDNAが偽装されたケースは今のところない。けれど私たちよりも科学力の高い博士ならば可能なんだよ」

「そんな……」

 酒田が悲しそうな表情でうつむいてしまう。

「ふっふっふ、若いな君は。三十年ほど前は科学捜査なんてなかったんだ。その頃に戻ったと思えばいい」

「それは何十時間も取調室に監禁して自白を迫った時代ですよね。今やれば問題になりますよ」

「ほんとに現場の刑事は野蛮だね。現行犯逮捕があるだろ」

「それこそ無理じゃ?」

「囮捜査や潜入捜査、他にも手はある。科学力で対抗できないのなら知恵を出すしかないよね」



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 週刊誌を刊行している出版社。その応接室でフリーカメラマンの樽野公哉たるのきみやと編集長が話をしていた。

「特ダネがあるからってんで、わざぁ~わざぁ~応接室まで来たんだ、もしクズネタだったら叩き出すぞっ」

 編集長の越前明彦えちぜんあきひこ

 スキンヘッドにラウンド髭、どう見てもカタギには見えない迫力がある。

 出た腹はタヌキのようだが顔は熊のように強面こわもてだ。

 今回のネタに自信のある樽野。

「まあそう言わず見てください。決定的瞬間なんですから」

 茶封筒の中から印刷した写真を数枚取り出し机に並べる。そこには久崎たちが拉致される現場が撮影されていた。

「これが何だ?」

「誘拐事件の現場です!」

「バカにするな、そんなの見りゃわかる。だから何だと聞いている」

「えっ?」

「説明するのも面倒だなぁおい。お前ぇえ、何年カメラマンやってんだ。こいつは芸能人かぁ~? 大企業の社長の子息かぁ~?」

「いえ、普通のサラリーマンです」

「そんなヤツが誘拐されたって誰も気にしないだろうが! お前、俺をバカにしてるのか! 写真だけで記事になるとでも思ってんのか!」

 予想とは違う反応に樽野がパニックになる。

「あっ……、あっ……、あ! 違うんです。こいつ今話題の博士の関係者なんですよ!」

 樽野は銀行強盗の不審者を追っていた。しかし編集長の怒りは銀行強盗程度のネタでは鎮まりそうにない。なので咄嗟に思いついた言い訳が口から出てしまったのだ。

 嘘から出たまこと。だが樽野は真実を知らないのだ。

「なんだよ樽野ちゃ~ん、それならそうと早く言ってくれないと~」

 てのひらがねじ切れるほど態度が豹変している。

「で、どんな関係なのよ?」

「まだ秘密です。時の人ですからね易々とは明かせませんよ」

「つれないこと言うなよ~、俺と樽野ちゃんの仲じゃないか~」

 凶暴な熊が愛想笑いをしているのはきみが悪い。

「俺の予想ではこのマスクの男たちは他国のエージェントです。そいつらが誘拐するほどの関係性とだけお伝えしますよ」

「いいねいいね『エージェントの狙う男の正体は!』。ん~イカス見出しになるじゃないか!」

「そうでしょ?」

 編集長は財布を取り出すと十万円取り出し机の上に置く。

「これ当面の取材費ね、足りなくなったら言って追加するから。博士の名前や住所その他パーソナルデータは全て買い取るよ。記事ができたらすぐ持ってきて最低百万は約束するからさ」

 編集長は笑顔で樽野の肩を揉んでいる。しかし彼の額からは冷や汗が止まらないのだった。



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 ボロアパートの一室。フリーカメラマンの樽野公哉たるのきみやが頭を抱えて悩んでいた。



 なんであんな嘘をついてしまったんだ。

 いや理由なんてはっきりしてる、編集長が怖かったんだ。

 あのタコ野郎、短気すぎるだろ。

 誘拐事件の現場がゴミネタ? あいつ頭おかしいんじゃないか。

 あんな写真が撮れたの世界で初だろ! 誰にでも撮れる写真じゃないんだ!

 ……そうだ、そうだよ、仕返しすればいいじゃないか。

 取材費だと言ってアイツから金を搾り取ろう。

 行先は……、そうだな、海外がいい。博士に取材するとか言えば疑わないだろ。

 日本は狭すぎたんだ。狙うはピューリッツアー賞。週刊誌なんて低俗な媒体、俺には似合わないんだよ。



 クックックと不気味に笑う父を、息子の和隆かずたかが心配そうに見ていた。

「お父さん、大丈夫?」

「心配いらないよ、お父さんなスクープを手に入れたんだ」

「凄ーい!」

「い~っぱいお金が手に入るからな、こんど海外へ旅行に行こう」

「うん!!」

 息子の頭をなでると嬉しそうに笑っている。

 その笑顔で濁っていた心が少し浄化されたのだった。



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 大学生の牛久保悟史うしくぼさとしはシャニーグループに雇われた探偵だ。

 入院している父親の代理として探偵事務所を開きつつ大学との二足の草鞋わらじを履いている。

 とはいえ探偵の主な仕事は浮気などの素行調査、物や人の捜索、企業の信用調査などで、どれも時間を要する案件ばかりだ。とても副業感覚でできる仕事ではない。

 今かかえている案件を片付けた後は探偵事務所を休業しようと考えていた矢先、シャニーグループからのダイレクトメールを受け取ったのだ。

 とりあえず話だけでも、と軽い気持ちで参加した説明会で、まさかの報酬一億円。大学の授業を放り出し捜査に没頭していた。


 午後三時頃、TV局から出てきたタクシーの後ろを牛久保はバイクで尾行する。

 三十分ほど走った先のマンション前でタクシーが停車。ニュースキャスターの牧嶋絵里佳まきしまえりかが下車した。

「牧嶋さん」

 急に声をかけられビクッと反応する。

「すみません驚かせて、私は牛久保探偵事務所の牛久保悟史うしくぼさとしと申します。お聞きしたいことがありまして、少しお時間宜しいでしょうか」

 彼女は牛久保の差し出した名詞を受け取るが警戒は解いていない。

 ハンドバッグを胸の前で持ち盾替わりにする。

「少しなら」

「ありがとうございます。以前、TV局が襲撃されましたよね。放送はされませんでしたがあなたがコスプレをした不審者に襲われたという噂がありました。それは事実でしょうか」

「事件についてあまり人には話さないほうが良いと警察から言われていますので」

 彼は彼女から視線を外さずじっと観察している。

「なるほど襲われたんですね」

「えっ?」

「TV局のスタッフから同じデザインの赤い服を着た人がいたと伺いました。牧嶋さんはその人も見ましたよね」

「ですから事件については話せないと」

 体の中を見透かされているような感覚。彼女は一歩後退りした。

「そうですか二人に会った、と」

「あのっ?!」

「自慢じゃないですが僕は女性にもてるんです。数えきれないほどの女性と交際しているうちに、その娘が隠し事をしているのか、何を話そうとしているのか、だいたい理解できるようになったんですよ。ですから牧嶋さんの態度を見れば僕の質問を肯定したのか否定したのかぐらい簡単に見抜けるんです」

「えっ?!」

「驚かせてすみません。でも安心してください、牧嶋さんから聞いたなんて誰にも言いませんから。それで、その不審者の二人は会話をしましたか?」

「……」

 警戒して彼女は返事をしなくなった。

「なるほど、会話を聞いたんですね」

 彼女はビクッと反応する。

「あのっ、本当に私の考えていることがわかるんですか?」

「イエス・ノーの二択なら九割は当てる自信がありますよ」

 彼は爽やかな笑顔で答える。

 芸能人など嫌と言うほど見慣れている牧嶋まきしまだが、彼もまた芸能人に引けを取らないほどの美形。さらに芸能界でスレていないぶん初々しさがある。

 彼女は溜息を漏らすと、

「ずっと二択の質問をされるのも困ります。いったい何が聞きたいのかしら」

 手を腰に当て彼を睨む。しかし牛久保は怯むことなく質問を続ける。

「不審者二人の会話を、できるだけ詳しく伺いたいのです」

「牛久保さんがどうしてその話を聞きたいか、クライアントは誰か、教えてくれたら対価としてお話するわ」

 含みのある笑みで彼を挑発する。

「なるほど、探偵が依頼者を明かさないと知っていて無理難題をふっかけるんですね」

「そういうこと。じゃ、サヨナラ」

 彼女はきびすを返しマンションに入ろうとする。

「依頼者はシャニーグループです、アーガルを作った博士とコンタクトを取りたいそうなんですよ」

 彼女が足を止め振り返る。

「アナタ、プロでしょ? プライドはないの?」

「天秤に乗せた物が重すぎて、プライドとは釣り合いません」

 悪気のない顔。彼女は彼が憎めなくなっていた。

「いいわ詳しく話してあげる」



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 芸能人や政治家がお忍びで訪れる隠れ家的な喫茶店に、牧嶋絵里佳まきしまえりか牛久保悟史うしくぼさとしが来ている。

 客席は完全個室になっており他の客に会話を聞かれることはない。

 座敷の部屋で二人は座布団の上に座り高い日本茶を注文していた。

「――と。これが会話のすべてよ」と、牧嶋は襲撃犯の会話を牛久保に教えた。

「なるほどね……」

「どうして襲撃犯と博士に関係があると思ったの?」

「ここ一年ぐらいの新聞やニュース番組の情報を調べてね、高い技術が使われていそうな話を集めたんだ。その中から興味深い未解決事件が数件ヒットした。空き巣の捕獲、銀行強盗の捕獲、そしてTV局襲撃犯の捕獲」

「そのニュース覚えているわ。確かに続報は入っていないわね」

「これらの共通点は身体能力の高い人が武器も使わずに犯人を無力化してるんだ。まるで特撮ヒーローみたいにね」

「あのコスプレが本物の装備だと言いたいのね」

「そう。青ヒーローが『あの女から石を受け取った』と言ったんだよね。それが博士である可能性が高いと僕は思う」

「へぇ~、アナタ凄いのね」

「ありがとう、褒めてもらえるのは嬉しいよ。でもこのくらいの推理なら遅かれ早かれ気づく人はいるだろうね」

 牧嶋には彼がまるで尻尾を振るゴールデンレトリバーのように可愛く見えていた。

 もてると自慢していたのは間違いではないようだ。

「シャニーグループに報告して仕事は終わり?」

「いや、博士との交渉の場をセッティングするまでが仕事なんだ」

「ね。その仕事手伝わせてよ」

「それはニュースキャスターとして特ダネが欲しいってことかな。ライバルが多いから仕事が終わるまで情報は流したくないんだけど」

「違うわ。あの事件で私は赤い人に助けられたの。だからお礼を伝えたいわけ」

「それ嘘だね」

 牛久保は悪意のない笑顔をしている。

「あなた、女性の敵ね。心を読めるのは反則よ」

「僕はもてるけど特定の彼女はいないんだ。すぐ別れるからね。みんな自分の嘘で自滅していくんだ。女性は嘘なしでは生きられない生き物なのかな」

「女性の嘘を笑って流せるくらいの男になればいいじゃない」

「牧嶋さんは嘘をつかないとは言わないんだね」

「芸能界は生き馬の目を抜く世界よ、嘘なしで生きるなんて無理だわ。私が視聴者に何て呼ばれているか知ってる? 素人キャスターよ。無感情でニュース原稿を読むのなんて誰でもできる。感情的に読んでいるのは人気を得るための演技なのよ。どう? 軽蔑した? アイドルみたいな顔して腹の中は真っ黒なのよ」

「凄いな。あなたみたいな女性、尊敬しますよ」

 年下の男の子に褒められて頬を染める。

「天然のジゴロね……。仕事を手伝いたいのは純粋にアナタに興味があるからよ」

「ありがとう。芸能人の恋人は初めてです」

「どうしてそうなるのよっ!」

「キスして欲しいって体が叫んでますよ」

 自然と触れ合う二人。個室の喫茶店でなければスクープ写真を撮られていただろう。



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 夜の七時頃。スーパーマーケットで食材を買い込んだ牧嶋絵里佳まきしまえりかが自宅マンションに帰ってきた。

 牛久保悟史うしくぼさとしは彼女とベッドの上で運動をした後、疲れて寝てしまった。博士の情報を探すため根を詰めていたようだ。

 玄関から音を立てずキッチンへ行き食材を置く。

 まだ牛久保は寝ているのだろうかと寝室を覗くと、そこには目出し帽をかぶった男性が四人いた。

 悲鳴をあげる直前、背後にいた男性が目の前にナイフをちらつかせ

「声を出すな」と脅し口を押える。

 牛久保も口にガムテープを貼られ首筋にナイフをあてられていた。


 彼らは久崎を誘拐した犯人だ。

 博士に繋がる情報を探した結果、牛久保と同じ推理に辿りつき、牧嶋の話を聞くためここへ来たのだ。

「牧嶋さん、今から口を押えている手を放しますが声を出してはダメです。もし声を出せばベッドが彼の血で染まります。理解できたなら頷いてください」

 覆面の男は片言の日本語だ。

 牧嶋がコクリと頷くと、ゆっくりと手が離れていく。

「いくつか質問します。嘘はダメです。アナタは博士と呼ばれる女性を知っていますか?」

「にゅ、ニュースで報道した程度には」

「嘘はいけませんよ」

「ホントです」

「TV局が襲撃された事件で、アナタは犯人同士の話を聞いたそうですね」

「はい」

「それはどのよう――、なんだ、これは――」

 寝室にいた全員が深い眠りについてしまった。



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 牧嶋の自宅マンション前にパトカーが四台止まっている。

 警官が牧嶋から事情を聴いていた。

「――なるほど、買い物から帰宅すると見知らぬ男たちがガムテープで縛り上げられていたと」

「はい」

 既に犯人たちはパトカーに乗せられている。

 寝室では鑑識班が証拠を探していた。

 TVの収録スタジオで同じ光景を何度も見てきた牧嶋だが、まさか自分の部屋が舞台になるとは予想外だった。

 俳優ではなく本物の鑑識官が、耳掃除で使う綿毛のような棒でポンポンと指紋を採取している。その姿が何だか面白くて心の中で笑っていた。

「何か盗まれた物などありませんか」

「どの部屋も荒らされていませんから、たぶん無いかと」

「五人で活動する空き巣などいません。別の目的で侵入したと考えられます。お心当たりはありませんか?」

「さあ……、見当もつきません」

 この女性は何か知っていそうだと警官の直感がそう告げる。

「TVでご活躍のあなたなら恨みを買うことも多いでしょう」

「そのような些事さじ、いちいち気にしていたらカメラの前に立てませんよ。襲われた経験は一度や二度では済みませんから」

 牧嶋は牛久保と口裏を合わせ、彼がいたことや犯人と会話したことを警察には秘密にすると決めた。

 牧嶋は男性と一緒にいたとマスコミに知られればスキャンダルだし、牛久保は博士の情報を彼女が握っていると他の探偵に知られたくないのだ。

 警官は腑に落ちていないが、犯人でもない女性をこれ以上追及できないので諦める。

 鑑識が指紋や遺留品のチェックを終え帰り支度を始めた。

「それでは我々は引きあげますが、何か気づいたことがありましたらご連絡ください」

「ご苦労様です」

 警察が引きあげた後、彼女は大きな溜息を漏らしペタリとその場に座りこむのだった。



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 牧嶋がTV局で青スーツに襲われたのは久崎たちの責任と言えなくない。なので、罪滅ぼしの意味をこめ、彼女の窮地に手助けすると決めていた。

 ノミは彼女の携帯に予め盗聴器を仕掛けておいた。

 牛久保が何者かに襲われているのを聞いたノミが急行したのだ。


 潜水艦の風呂場で体を洗いながらノミは久崎と思念伝達していた。

 スポンジにたっぷりの泡をつけ、円を描きながら肌の上を滑らせる。

『――なるほど、警察には話さないようじゃ』

 盗聴器から得た情報を久崎に伝える。

『女優でも食べていけそうだ。やっぱ女は怖いよ』

『探偵の彼氏のためじゃろ、けな気よのう』

『違うな、スクープを避けたんだ。人気ニュースキャスターが恋人でもない男を自宅に連れ込んだと知られれば大ダメージだろうからな』

『純粋な女心がわからぬとは、主殿は心がすすけておる』

『純粋な女は初対面の男をその日のうちに連れ込まないだろ』

『言い得て妙』

『しかし、あの男たち、いったい何だと思う?』

『単純に考えれば他国の諜報員じゃろう。もちろん狙いは美少女のワシじゃ』

『あいつら以外にもいるだろうな。このままだと牧嶋は狙われ続けるのか』

『その可能性は大いにあるじゃろう』

『マズイな何か対策しないと……』

『そうじゃ、第三者を巻き込んだのじゃ、いつ神罰が下るやもしれぬのう』

『俺の考えが読めるのか』

『主殿の思考はマンネリじゃからな。ありもしない神罰に怯えるが良いハッハッハ――』

 ドンという音とともに潜水艦が揺れボディーソープなどが倒れる。

 特殊な形をしたバスチェアからノミが落ち倒れてしまう。

『地震じゃ!』

『は? 揺れてなんて、あ、今来た、そっちが震源に近いんだな』

『神罰じゃ!!』

『バカか単なる地震だ』

『なぜそうなる? ワシらの会話を聞いておった神様がお怒りになられたのじゃ』

『おまえはインチキ占い師か、都合よく解釈するんじゃない』

『そっくりそのまま、今の言葉を主殿に返すわい!』

『神罰がこの程度で済むわけないだろ、いいから被害者がいないかニュースをチェックすんだ。救助に行くぞ』

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