あなたのために

たいら はやと

第1話 はじまり

これは、今もまだ終わらない二人の深く先の見えない愛の実話。

書いているのは2022年3月6日。


2020年7月、世の中はコロナウイルスで行動が制限され生きにくい毎日だった…。

急な電話で

「来月から来れますか?」


「あ、はい…」


同業社による引き抜きで転職をしてきた男が一人。

名前は、平 隼人。28歳。結婚もしていて子供はいない。妻は2つ年上の専業主婦だ。どこにでもいるような結婚二年目の普通の夫婦だ。

転職の為に引越しもした。会社から徒歩15分程度のとこで、交通の便も程良い住みやすい街だ。


「いってきます」


眠そうにそう言い玄関を開け出勤すると


「いってらっしゃい」


表情は分からない。妻の聞こえるか聞こえないかの声が聴こえる。これが、いつも通りの日常。

天気は晴れ。川沿いを真っ直ぐ歩くと新しい職場だ。


「仕事事態はやる事は変わらない。でも、緊張する…」自己紹介が嫌だった。


人間不信、人見知り、人間関係は限りなく狭く深くのタイプだが、容姿は遊んでそうな顔の細身で180センチメートルはあるからそうは見えない。会社に着き着替えを済ませ、新しい環境での毎日が始まる。


「平 隼人です。他事務所で四年程度経験があります。よろしくお願いいたします。」


やる気のない自己紹介で、おそらく全員には聞こえてないだろう。

机に置かれた伝票の束がある。期日までには終わらせてと聞かなくても分かる。

所長とは話すがそれ以外とはほぼ話すことはない。経験者とはいえ外回りの仕事だから道が分からないと話にならない、二ヶ月はかかるだろう…。


九月上旬


おそらく誰にも聴こえてない。毎日定時で帰る事が当たり前になっていた。


「歩合制は自分の事だけすればいいから楽だー」と毎日足早に帰っていた。


前の職場は月給制だったからだ。ましてや、周りはほぼ50代自分のような20代はこの業界には珍しく体力的にも多く稼ぐことが出来る、ものすごく充実していた。


そんな毎日が続き、冬になりたまに帰りが遅くなった時に数か月に一度、自転車で横切る女性がいた。同じ事務所の恵さんという女性。

会社内でも断トツに美人で結婚もしていて見た目は30代半ばぐらいの小さめの女性。今はまだこのぐらいしか分からない。いつもママチャリに乗っているから色々想像はつくが…。半年以上同じ職場にいたが殆ど話したことがないから何も知らない。


「お疲れ様でーす」


恵さんがママチャリで横切りながら挨拶をしてくれる。


「この人は誰にでも笑顔で楽しそうにいつも挨拶をするなぁ。」と思い

「お疲れ様です。」


首から上しか動かないいつも通りの声のボリュームで挨拶を返した。

3分ぐらい歩くと先の方でママチャリから降りて電話をしていた。


「すみません。はい…。お願いします。」


この人の口癖だ。会社では誰とも話さないが人が話してるのを聞くのがすきだったからどこか聞き馴染みのある声と言葉だった。

無言で通り過ぎた。話すこともないから。


「はぁ、はぁ、お疲れ様です。」


今度は少し疲れた様子で後ろから追いついて来て挨拶された。それでも笑顔だった。


「あ、お疲れ様です。」


それでもいつもと変わらない。

ただ、よく分からないがママチャリを押して途中まで一緒に帰る事になった。


「さっきの電話何だったんですか?」


2人きりなら会話は出来るタイプだ。


「メルカリの配送先の住所が間違っていたようで電話がかかってきて…」


「そうだったんですね。メルカリで出品してるんですね」


「使わない化粧品を主に出品しています」


「へー…」


化粧品の事もメルカリの事もは分からなかった。

ただ、何故か話をしていて楽しかったから、仕事の話をしながら途中まで帰った。


過ちを犯すまでに数回だけ一緒に帰ったが、これがその最初に帰った日。

今となっては忘れられない日。

















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