これってうつるんです!
紗織《さおり》
第1話 これってうつるんです!
「まずい!もう17時になってた!」
2階からバタバタと試験勉強をしていたはずの
「お母さん、今から休憩するね。15分位だからいいでしょ?」
質問をしながら、母の答えを聞くより早く、既に彼女はテレビの動画チャンネルを映し始めていた。
毎週水曜17時。そう、この時間は、彼女の推しアイドルグループが動画をアップする時刻なのだった。
「お母さんも一緒に見る?
今日は対決だから、お母さんも絶対に面白いって。」
母に声掛けをしつつも、彼女は公開された動画をワクワクしながら見始めていた。
「えっ、そうなの!?
でも今は、あなた達の夕ご飯の準備中だよ。
…う~ん、やっぱり一緒に見ようかな。ちょっとだけ待ってて。この野菜を切ったらすぐにそっちに行くから。」
「りょうか~い。じゃあ待ってるね。」
娘が一時停止を押して、待っていてくれる。
そして私は、人参を急いで切り終えると、娘の隣に座って一緒に動画を見始めた。
今日の動画は、アイドル達が青い不思議なメガネを掛けながら、ペットボトルに水を入れたり、シッポ取りゲームをやったりしていた物だった。
「いやぁ、こんな面白い眼鏡あるんだね。掛けると上下さかさまに視界が見えるって、どんな感じなんだろうね?」
娘は、再生中もずっと笑いながら色々な感想を言っていた。そして私ももちろん、一緒に笑って見ていた。
ちなみにこの動画は、この後帰宅してくる姉の
思い返せば去年の4月。翔子の好きなアイドルの初の冠番組が地上波で始まった時から、我が家に異変が起き始めていた。
それまで娘は、主に自分の部屋の中でパソコンを見たり、CDを聞いたりして、そのアイドルの推し活を一人でやっていた。
もちろん、私達も娘からアイドルの話を聞いたりしてはいたけれど、実際に見たり聞いたりする機会が少なかった家族に、それ程の変化は無かった。
それが、夕食の時に冠番組の録画を一緒に見るようになると、やがて車内の音楽としてアイドルの曲が流れるようにもなっていった。
そして今では、姉の照も妹と一緒にそのアイドルグループをかなり嬉しそうに見ているのである。
男性アイドルグループには、基本的に否定的だったはずのパパまでもが、
「グループの仲が良くて楽しそうに番組をやっているのは、見ていてこっちまで楽しくなるね。」
と好印象。
もちろん私もパパと同感。というより、むしろパパより娘達の方に気持ちが近い位、番組を娘達と一緒に見るのを楽しみにしている程。
翔子は、アイドルの情報を何か仕入れる度に、
「すごいんだよ!聞いて、聞いて。
今月号の雑誌の表紙になるんだって。」
とか、
「映画に出るんだって。」
とか嬉しそうに興奮しながら何でも報告をしてくれる。
娘が嬉しそうに話す姿を見ていると、不思議とこっちまで一緒に楽しくなってくる。
そうして気が付くと、娘には及ばないながらも、家族全員が世間の人よりはそのアイドルに詳しくなっていて、彼らへの好感度も自然と上がっているのである。
明るく・楽しく・元気よく翔子が推し活をしていると、その周りにいる家族も一緒にアイドルの情報に染まっていく…
そうです、これは
これってうつるんです! 紗織《さおり》 @SaoriH
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