第2話 トロイト連邦共和国へ
パリス砂漠を越え、クリシュナ帝国市街を行商人として通行した一行はクリシュナ帝国とフォルテア王国の国境となっているエルドーラ山脈に到着していた。
「バークス、エルドーラ山脈を越えフォルテア王国を越えれば我らの祖国だ」
「トロイト連邦共和国に到着したらサルドニュクス兵学校で訓練の日々となる」
「今のうちに沢山食べて体力をつけておけ。」
ジャコメッティは焚火の上で温めていたブラドク(ブッファローに似た生物)の乳にブラドクの干肉とマイタス(トウモロコシに似た作物)とパパス(ジャガイモに似た作物)を木の椀に入れバークスに渡した。
バークスはいつものように何も話さず黙々と食べ始めた。
「ロドリゲス。トロイトに着くまでにバークスに我らの言葉を教えてやってくれ。」
「大佐。20日ほどですので片言ぐらい話せる程度には教えておきます。」
「それでいい。それと魔法の適正も調べておいてくれ。宜しく頼む。」
ジャコメッティは必要な話を終えると焚火に薪をくべ炎を見つめながら想いにふけり、少佐であるブラウリオ・ロドリゲスは拳銃の手入れを始め、もう一人の同行者であるイグナート・パヴロ大尉はエアストテラにおける一般人の凡そ30倍以上ある視力"ハイパーヴィジョン"で周囲を監視し続けた。
数日を費やしジャコメッティ一行がエルドーラ山脈を越えフォルテア王国領内に入ると一人の男が馬車数台を引き連れ一行を待ち構えていた。
「ジャコメッティ様。王国内は私達バロア商会の者として横断頂きます。」
ジャコメッティは不機嫌な顔を男に向けた。
「これはこれは私としたことが大変失礼いたしました。」
「父よりバロア商会会頭の座を引き継ぎましたエコラス・ブルナーでございます。」
「以後お見知りおきを。」
エコラス・ブルナーは20代後半とこの手の仕事をするには若いが、表向きは宝石や装飾品を取扱う商会であるが裏の顔は武器や奴隷を取扱う闇社会の顔役であるバロア商会の会頭とあって、凄みと冷徹さが混ざった重厚感ある雰囲気を纏っていた。
エコラス・ブルナー率いる20名ほどのバロア商会の店員達に紛れ込みながらジャコメッティ達は20日をかけてフォルテア王国を横断した。
バークスは日が出ている間は幌馬車の中から王国内の様子を眺め、夜になるとロドリゲスからトロイト連邦共和国の言語である『ミケーラ語』をパヴロより軍用体術を叩き込まれた。
バークスは寝る前に必ず夜空のレーネ(エアストテラにおける月)を見ながら鉄格子から解放され、これまで見てきた砂漠や街並みを思い起こし、これから起こる未来に思いをはせた。
『世界はこんなにも広く、美しいのか』
『こんなに人が多いとも思っていなかった』
バークスはレーネの光に照らされグレーの瞳とブリュネルの髪が妖しく輝く。
するとバークスを囲みこむように多くの蠍が出現し、あたかもバークスに頭を垂れているような姿勢をとった。
『僕は一人じゃなかったんだ。』
数日後、ジャコメッティ達はトロイト連邦共和国とフォルテア王国の国境に到着するとジャコメッティはエコラス・ブルナーに書簡を渡した。
「ニコラス・ブルナーこれまでの協力に感謝する。」
「約束通り。バロア商会がトロイト連邦共和国内で商売を行うことを許可する。」
「御許可感謝致します。アガルド・ジャコメッティ最高評議会副議長様。」
ジャコメッティはロドリゲス、パヴロ、バークスを引連れ緩衝地帯を越えトロイト連邦共和国に入国するためフォルテア王国国境検問所に向かった。
バロア商会の私設諜報部隊長であるハンスはニコラス・ブルナーに話しかけた。
「あの方がTFRISS(トフリス)、トロイト連邦共和国情報保安局を創設した黒き森のアガルド・ジャコメッティなのですね」
「そうだ。エランディア大陸はおろかガリア大陸を含め、この世界最高といっていい諜報機関を誕生させた英傑であり、かつ商売敵でもあり今後はお得意様になる御方だ。」
光を取り戻しつつあるバークスのグレーの瞳は未来を切り開こうと国境検問所の先にあるトロイト連保共和国を見据えるのだった。
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