第5章 Yの敵、ディザイア


 翌朝10時、5人はいつも通りに第5広場に集結した。


 「G、B、Rの敵を見事に屈服させた諸君の

素晴らしい実力を見せてもらった。

 今日はYの敵に、5人で協力して対応してもらいたい。

 敵の情報を提示する。以上」


 5人の前に、微粒子映像が提示された。

 『desire(ディザイア)』

と字幕が表示された。


 「わっ、腹出てる~」

「『打ち出の小槌』を持ってるぞ」

 「日本の神様の『七福神』の『大黒天』のようですね」



 5人を取り巻く環境が一変した。


 足元が、ぐらついた。

 「うわっ!地震だ!」

 5人の足元がグラグラと揺れている。

 「ん?ここは船上のようだ」

 5人は木でできた小舟に乗っていた。


 「あ、太ったおっさん発見!」

 「『打ち出の小槌』も持ってますね」


 5人の目の前に、

Yの敵、ディザイアが現れた。

 「誰じゃ?無断で『宝船』に乗り込むとは」

 「なんだなんだ?」

 ディザイアの背後から、

4人の男たちがわらわらと出てきた。

どうやら、『七福神』のメンバーらしい。


 「Yの敵とのことですが、『七福神』が悪党とは

到底思えないですね」

 「敵ってことにしてるだけで、

悪人じゃないんじゃない?」

 「今まで出てきた奴らも、悪い奴なんか

1人もいなかったしな」

 「悪い奴じゃないのに、攻撃しなきゃならないの?」

 「ここはまず、交渉してみよう」


 ザーッ!

 「ぷはーっ。いきなりなんなんだ!」

 5人の上に、いきなり何かが降ってきた。

 「・・・米だ」

 「私の名前は『毘沙門天』。五穀豊穣の神じゃ」

 「ああ、この神様のお陰で米がたくさんとれるんだな」

 『毘沙門天』は、大きなタライを用意すると、

手から、次から次へと米を出してタライに入れ、

水で軽く洗うと炊飯器のようなものでご飯を炊きだした。


 「甲板から釣り糸を垂らしているのは『恵比寿天』、

横でギターのような弦楽器を弾いているのが『弁財天』、

大きな袋を担いでニコニコしているのが『布袋尊』じゃ」


 「『福禄寿』と『寿老人』はまだ寝ているのか?」

 「無理に起こさんでええ」

 『七福神』たちは、和気あいあいと『宝船』で暮らしていた。


 「・・・どうやってディザイアと戦おうか」

 「この神様たちが、人類を脅かしているのか?」


 Bが、『宝船』に乗り込むことになった事情を話した。

 「んー、よくわからんな。

なぜ、わしら『神様』を屈服させる必要があるんじゃ」


 アウトオブコントロールと同じように疑問を持たれた。


 「わしらは人々に恵みをもたらしておるのじゃぞ。

そうじゃ、おぬしら、お金が好きじゃろう?」


 ディザイアは、『打ち出の小槌』を振り出した。

 すると、小槌から小判がザクザク出てきた。


 「うわ~、小判だ~!」

 「す、すげー」


 ディザイアは、5人に向けて小槌を振って、

次から次へとザクザク小判を出した。


 Gの足元に小判が転がってきた。

 Bが注意深く小判を見る。

 ・・・・・ジー、ジ、ジジジッ、ジジッ、ジー・・・・

 「何か、ジージーと音がしていますね」

 「・・・逃げろっ!」

 BがGを抱えて高くジャンプした。


 ボンッ!


 小判のように見えたものは、爆弾だった。


 「うわ~!爆弾だ~!」

 GとBが船上に降りた。

 「危ないところでした。ありがとうございました」

 「いえいえ。それにしてもあの爆弾、

甲板に穴はあけないようだな」


 爆発した場所には、傷ひとつなかった。

 「甲板も特殊な素材でできているようだな」


 ボンッ!ボンッ!ボンッ!

 5人の目の前で、小判型爆弾が次々と爆発した。

 5人は、ジリジリと後ずさった。

 ディザイアは、笑顔でこちらに近づきながら、

次々と小判型爆弾を出し続けている。


 「このままだと海に落ちるぞ」

 「『空中浮遊』だ!」


 5人は高く飛んで、『宝船』の5メートルほどで浮遊し、

上から様子を見守った。


 「お金が好きなんじゃろう?」

 ディザイアが笑顔で上を向いて、

5人めがけて、小槌を振った。

 Rの横を、小判がかすめて飛んで行った。

 「あぶねえ」


 「どっこらしょっと」

 『恵比寿天』が海から釣り竿を上げると、

下に垂れ下がっていたのは、

釣り糸ではなく、長すぎる鞭だった。


 「うわっ!」

 『恵比寿天』の鞭がW&Bの頬をかすめた。


 『弁財天』が、ギターのような弦楽器を

大音量でかき鳴らし、さきほどの心地よい曲ではなく、

奇妙な超音波を発し始めた。

 「うう・・・頭が割れるようだ」

 Bが両耳を押さえた。


 Yには、飛んでくる小判が『大判焼き』のような

焼き菓子に見えた。

 「うまそう~」

 「だめだっ!これは、爆弾なんだぞ!」

 手を伸ばして小判を取ろうとしたYの手を、

Rが制した。


 「『弁財天』のギターの音には

幻覚をもたらす作用があるらしい。

みんな、これをつけろっ!」

 Rがホログラムの耳栓を出し、

メンバー全員の耳に向かって投げた。


 「僕たちは『脳内対話システム』で

会話をしているから、

外部の音が聞こえなくても

コミュニケーションできますね」

 GがRの機転を称えた。


 ボンッ!ボンッ!ポチャッ!バシャーン!

 ウイ~ン、ギュイン、ギイー、ギュッギュッ、ウイ~


 「くっ、小判型爆弾をよけるので精一杯か」

 「『恵比寿天』の鞭の動きにも注意しろ!」


 

 Gが、巨大ドローンのホログラムを現出した。

 W&Bが、バットを持った野球選手のホログラムを現出した。

 ドローンの下に野球選手を括り付けて飛ばした。

 「がんばれよ~!」


 カキーン!

 カキーン!

 

 ディザイアの小槌から出てくる小判型爆弾を

次々とバットで打ちまくる野球選手。

 『神様』たちは慌てた。

 しかし、爆弾ごときで挫ける面々ではない。


 「わしらがこの地球を支配するのじゃ!」


 ディザイアを始め、5人の『神様』たちは

『空中浮遊』をし出した。

 『宝船』が下の方に見える。


 「ちょっと、ヤバくねーか?」

 「どうやら彼らは『世界統括電脳』の敵

である可能性があります」


 「ふっふっふ。何を言っておるか。

 わしらは日本の伝説の神様、

『七福神』じゃ!『神様』なのじゃよ!」

 「違う!日本の『七福神』は、

小判型の爆弾を、人間に投げつけたりはしない!」

 

 Bの頭に付けられていた輪が点灯した。

 「B、頭のコスチュームが光ってんぞ」


 「・・・彼らは私たちに嘘をついているようです。

『世界統括電脳』からの伝令です。

彼らは『七福神』に成りすまして、

人々を騙し、傷つけている、

『世界統括電脳』の敵、で間違いないようです」


 「わしらはわしらで『宝船』の上で

楽しく暮らしておるんじゃ。

 邪魔しないでもらえるかの!」

 

 「何故、人間たちを騙して傷つけるんだ」

 「愉しいからじゃよ」

 「どういう意味?」


 「わしらのように、

食べたいときにはいつでも自分の身体から

食べ物が出てきたり、

愉快な曲を奏でたり、酒を飲んだり、

好きな時に好きなように

欲を満たすことだけで生きてくるとな、

ちょっとやそっとのことじゃ、

満足できなくなってくるんじゃ」


 「人間騙して傷つけたり、

殺したりするレベルでないと、

愉快な気持ちにならないし、満足できないのよ」

 『弁財天の成りすまし』が口をはさんだ。


 「地球上にはまだまだ殺せる人間たちが

数百億人もいるではないか。

わしらが愉しみのために、虐めたり、騙したり、

傷つけたり、殺したりしても、

かまわんじゃろ?大勢いるんだから」

 「数の問題じゃねーだろ!」

 「許せませんね」


 「欲は満たせば満たすほど、

残虐を好むようになるのか・・・」

 高校生のW&Bは、ショックであった。

 

 欲を満たすために生きていくわけではないが、

何のために勉強をしているのか、と言えば、

勉強ができればできるほど、成績が良ければ良いほど、

大人になった時に満たせる欲の種類や数が多くなる、

ということもまた真実のような気がしているからだ。


 欲を満たし過ぎて、頭が狂ってしまうのなら、

最小限の欲だけを満たして、

なるべく大欲は満たさないように生きた方が

心身ともに健康に生きられるのではないか。

 W&Bは漠然と、そのように考えた。



 ビーッ!


 「なんだ?ビームか?」

 どこかから、ビームのようなものが発せられた。


 ビーッ!ビーッ!


 「『弁財天の成りすまし』のギターからだ!」


 超音波が光を帯び、

より細かく強い波動の光線となった。

 光線が、飛んでいたカラスに命中した。

 カラスは焼け焦げ、落下した。

 「かなり強力な殺傷力を持った光線のようだ」

 「カラスさん、お気の毒に・・・」


 「Mirror(ミラー)!」

 Bが魔法を使った。


 ホログラムの鏡とは違って、

強力な電磁波を含む地上のあらゆる物質の

衝撃を跳ね返す能力を持っている大きな鏡だ。

空中に現出した。


 ビーッ!

 ギターの穴から出た光線がBをめがけて

突き進む。


 ピキッ!


 ミラーで跳ね返された光線が、

斜め前方に上がっていった。

 「B、ミラーを全員の前に出してくれ!」

 「ああ」

 5人全員がミラーで守られた状態で戦闘態勢に入った。


 「wonderful stroke(ワンダフルストローク)!」

 Rが魔法を使った。


 『七福神の成りすまし』達めがけて、

 放たれたボクシングのグローブが、

目にも留まらぬ速さで、成りすまし達を攻撃してゆく。


 「う、うわっ!」

 「痛い、痛い」


 バシッ!

 ワンダフルストロークに

サンドバッグにされながらも、

 『恵比寿天の成りすまし』の鞭は

スルスルと伸びて、Yのミラーを打った。


 ミラーが鞭の衝撃を跳ね返し、

鞭が斜め上方に上がっていった。

 鞭が跳ね返った位置に引かれるように

身を移した『恵比寿天の成りすまし』が、

斜め上からYに向けて再度鞭をしならせた。


 「ミラーの位置と角度を変えて!」


 ミラーへの指令が遅れた。

 鞭はYの頭を強打した。


 「いてえーっ!」

 電気を帯びた鞭だった。

 「あいててて、気を付けて!

あの鞭は、電気を帯びているみたいだよ!」


 「ミラーの位置は、イメージした位置になる。

盾のように角度を決めて使ってくれ」

 Bがミラーのトリセツをした。


 ワンダフルストロークに

強打され続ける成りすまし達。

 ギターからの光線と長い鞭の

攻撃をよけ続ける5人。


 『布袋尊の成りすまし』が、

グローブでバシバシ打たれながら

背負った大きな袋から何かを出そうとしている。


 ホログラムのような微粒子映像だが、

質感があるかどうかまではわからない。


 金塊の山、お札の山、美味しそうな匂いを伴ったステーキ、

山盛りのフルーツ、派手でカッコイイ空陸両用車、

高級菓子などを、次々と空中に浮かべてくる。


 「あの空陸両用車、欲しいなあ」

 Yがボーっとなってしまった。


 バシッ!

 「うわあっ!」


 「Y、油断するな!」


 「欲望を掻き立てて

混乱させているようですね」



 「『世界統括電脳』を屈服させるために

俺たちを倒して、世界を支配するつもりなのか」



 「支配者って一番上の位置にいますよね。

これから、

世界で一番上に連れて行ってあげますよ」


 Gが気合を入れるポーズをとった。


 「higher & higher(ハイアーアンドハイアー)!」

Gが魔法を使った。


 「これからあなた達を、

世界で一番高いところ、

大気圏ギリギリのところまで、

連れて行ってあげましょう」


 ギュイーン・・・


 どんなエレベーターよりも速く、

どんどん上昇していく成りすまし達。


 「成りすまし達の様子は、

このモニターで観察できます」

 空気があれば、空間座標の映像と音声の

受信が可能なモニターである。


 「うう、だんだん、酸素が薄くなってきた」

 「打ち出の小槌からは小判しか出ないしな」

 「酸素!誰か出せ!酸素を!」

 「く、苦しい・・・」


 「こちらと『脳内対話』もできます」

 「おい、『七福神の成りすまし』、

世界一になった気分はどうだ」

 「世界で一番上っていうのは、

酸素が少ないらしいな」

 「このまま、世界で一番上で居続けるか?」


 「うう・・・酸素をくれ!」

 「酸素というのは、

地球の地表に近いところ程、濃度が濃いのですよ」


 「地表に降り立ちたければ、

生かされていることに感謝して

『足るを知る』心を

身に付ける必要があるようですね。


 「ゲホッ、ほ、ほんとに、苦しい・・・」

 「限界なようですね。魔法を解きましょう」


 

 『宝船』の船上に戻ってきた

『七福神の成りすまし』達は、

少し反省して意気消沈していた。


 「know enough(ノウイナフ)!」


 Gが必殺技を出した。

 この必殺技は、

その欲があるせいで苦しめられている場合に、

不要な欲を無くさせることを目的とする技である。

技を掛けられた後、なぜそれが必要なのか、

欲しいと思ってしまうのか、一人で思考させ、

『足るを知る』境地にさせる。

 波動は第4チャクラから放出されている。



 「世界を本気で乗っ取るつもりじゃった。

『世界統括電脳』のことは、

目の上のたんこぶのように思っとった」


 「『世界統括電脳』は、人間ではないのです。

人間は、誰一人として、世界の支配者などには

なってはいけないのだと私は思います」


 「欲を満たすことを追求しても、

外側から見た感じ豊かに見えるだけで

本当の満足感は得られないって解っただろ?」


 「いや、まだそこまでは・・・」



 グ~・・・・。


 「腹減ったな」

 「さっき『毘沙門天』の成りすましが

炊いてたご飯が炊けたみたいだよ」

 「よし!カレーでも作るか!」

 Yが張り切った。


 『七福神の成りすまし』達と5人は、

仲良くカレーを食べた。

 「『福神漬』もありますよ」

 10人は、笑った。


 「ご馳走様。とても美味しいカレーじゃったよ」

 「『満足』したよ。はっはっはっは。ありがとう」

 そう言うと、『七福神の成りすまし』達は、

黄色の粒子になって、消えた。


     



 


 



 



 

 

 

 


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