第3章 Bの敵、アウトオブコントロール

 十分に休憩をとった翌日。


 飛行物体内の時計が午前10時に

初顔合わせをした

第5広場に集合することになっていた。

 予定時刻に、5人は集結した。


 突然、5人の頭部に

透明で球形のカプセルが被せられ、

色は同じだが、

スイムスーツにコスチュームが変わった。


 「おはよう諸君。よく眠れたかな。

諸君の頭部のカプセルは『酸素カプセル』だ。

外部の水分から酸素を素早く取り出し、内部に供給する。

 カプセル内の呼気からも

素早く炭素を分離して酸素を取り出す。


 諸君にはこれから、海中で戦ってもらう。

 諸君が戦うのは、Bの敵である。

 5人で力を合わせて、Bの敵を屈服させて欲しい。

 殺してはならない。和解すること。

 それでは敵の情報を提示する。以上」


 5人の目の前に微粒子映像が現れた。

 5か国語で名称が表示され、

『out of control(アウトオブコントロール)』

という名の大きなタコの映像が表示された。



 5人を取り巻く環境が一変した。

 海底である。


 5人は『脳内対話システム』で脳内会話する。


 「おい、いきなり海の中じゃねーかよ」

 「沐浴してる海より、青くてキレイだなぁ」

 見渡す限りの海底である。

 遠くの方を、見たこともない深海魚が泳いでいた。

 「おや?大きなタコがいますね」


 前方に頭の大きなタコがいた。

 タコは、編み物をしていた。


 「タコが編み物してるー!」

 「大きな魚の骨2本を持って、

コンブやヒジキなどの海藻を使って

編んでいますね」

 「何を編んでいるんだろうね」

 「話しかけてみましょうか」


 「すみません。

アウトオブコントロールさん、

でよろしいでしょうか。

 一体、何を編んでいるんですか?」


 『脳内対話システム』は、地球上の全ての生物の

心内言語も翻訳可能だ。


 アウトオブコントロールは、5人をチラ見した。

 「エサを効率よく取るための、網を編んでいるのさ」

 アウトオブコントロールは、

模様にするためのワカメとモズクを、

残りの6本の足のうちの2本でたぐり寄せた。


 編むスピードが速くなってきた。

 「できた」

 アウトオブコントロールは、

2本の足を100メートルほど伸ばして、

編み上げた網を

100メートル先まで広げて、仕掛けた。


 「こんなに大きな網なら、

たくさんの魚が掛かるんじゃないですか?」

 「好物のヒカリモノが掛かることを期待したい。

ところで私に何の用だ」

 「あなたを屈服させるよう、

この世の支配者である『世界統括電脳』から

ミッションを頼まれたのです」

 「屈服?何のために。どういう意味で」

 「えーっとぉ・・・」


 ミッションの意味について、5人は聞いてはいない。

 ミッションをクリアした後、計画を伝える、

と言われたので、意味もわからずに遂行していた。


 「何故私を屈服させなければならないんですか」

 「うーん、何故って・・・」


 「理由なき攻撃をしようとしているのですか」

 「えーっと・・・」


 「理由なき攻撃について、何の疑問も持たないのですか」

 「僕たちは、あなたを倒そうとはしていないのです」


 「倒さなければ、攻撃はしても良いのですか」

 「ダメージは少なめにしますので、その・・・」


 「攻撃理由があるとすれば、どのようなことですか」

 「もう少し、海の生き物を・・・」


 「食物連鎖に則って、食べていかなければなりません」

 「そんなにたくさんのお魚が必要なのですか?」


 「私が魚を大量に捕獲することを非難しているのですか」

 「いやぁ、それは・・・」


 「私はさほど大食漢ではないと思いますよ。

 一度に大量に捕獲するのは、

タコ壺に篭る時間を増やしたいからです。

 漁に出るのは、手間ですので回数を減らしたい。

 外敵に狙われる可能性もありますのでね」


 「・・・どうする?」

 「頭良過ぎて、太刀打ちできねえや!」

 「話しかけるんじゃなかったかな」

 「だけど、問答無用!と先制攻撃をしたら

それこそ、何をされるかわかりませんよ」

 

 「私に任せてください」

 Bにアイデアが浮かんだようだ。


 「アウトオブコントロールさん、

外敵に狙われる可能性があるから、

一度に大量捕獲をしているのですか」

 「いや、理由はむしろ、

 タコ壺に篭る時間を増やすためです」


 「何故、タコ壺に篭る時間を増やしたいのですか」

 「孤独を愛しているからです」


 「その気持ちは、私にもわかります。

煩わしいことは、極力減らしたい」

 「わかっていただけますか」


 「ん?なんかザワザワしてるぞ」

 Gがヒカリモノの集団の会話の様子を

ホログラムスクリーンとスピーカーで

視聴できるようにした。


 「タコのおじちゃんが、また網を作って

僕たちを食べようとしてるよ」

 「そうね、あの網には近寄っちゃいけないよ」

 「あの化けダコ、はやくくたばっちまえばいいのに!」

 「この前、お兄ちゃんが、引っかかって・・・」

 サバの女の子が泣き出した。


 アウトオブコントロールは、下を向いた。

 「私は、彼らにとっては、悪者なのですね」

 「・・・」

 「俺たち人間だって、牛や豚や鶏を殺して食べている。

それは食物連鎖だから、仕方ないんだよ」


 「閉じこもっていると、立場の違う者たちの気持ちが

わからなくなるものなんだな」

 「アウトオブコントロールさん・・・」

 

 「manifest(マニフェスト)!」


 W&Bが必殺技を出した。

 この必殺技は、本当は何がしたいのか、

自分の言葉で自分の口から宣言させ、

自己覚醒させ、自己実現に向かわせる電磁波だ。


 「私は、頭も回るし作業が早い、と自負している。

この能力を活かして、この広い海の『主』のような

存在になりたい、とずっと思っていた。

 その為には、海の生き物たちの気持ちに耳を傾け、

海の生き物みんなが、安心して仲良く暮らせる

環境を作り出さねばならない。

 いつしか保守的になり過ぎて、

タコ壺に篭る時間を増やそうとしてしまっていた。

 しかしこれからは、海のみんなと共存していることを

常に念頭に置き、彼らにとっても生息しやすい環境を

整える活動をしていくことを誓います」


 アウトオブコントロールは、植物性プランクトンが

生息しやすいよう、サバやイワシやアジの家族たちが住む

集落付近の海底のバクテリアを増やしてもらうよう、

Bに頼んだ。


 Bはアウトオブコントロールに案内してもらい、

ヒカリモノ家族たちが住む集落に辿り着くと、

ホログラムのバクテリアを現出し、

海底の土壌に大量に埋め込んだ。


 「植物性プランクトンが発生すれば、

動物性プランクトンも増えて、

ヒカリモノの幼魚たちのエサが増えることになる。

 たくさん食べることのできる、幸せな幼魚時代を

過ごして欲しい」

 そう言うと、アウトオブコントロールは、

青色の粒子となって、消えた。


     ◇ ◇ ◇


 「アウトオブコントロールとの戦いは、

W&Bの必殺技しか使いませんでしたね」

 「いや、ほとんどBのお陰だよ。

俺は、あんな頭いい奴を説得することなんてできない」

 「説得というより、むしろ『共感』したのだよ」

 「孤独を愛する、とか言って、

結局、寂しかっただけじゃねーか」

 「美味しいものをたくさん食べたい気持ちは

わかったけどなぁ」

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