第4話、反復


 反復には大きく分けて三つの種類があります。一つは押韻――決まったところで同じ「音素」を繰り返す技法です。二つ目は対句――パラレリズムと言った方が適しているのですが、同じ「文構造」を繰り返す技法のことです。三つ目は反復――完全反復と言うべきでしょうか、それともリフレインの語を借用すべきでしょうか(それはともかく)、同じ「言葉」を繰り返す技法を指します。

 どれも詩に「周期的な」音楽性を与えます。押韻は決まった間隔で同じ音が訪れますし、対句は同じ文構造をぐるぐると回すわけですし、反復は同じ音、同じ言葉を巡らせるわけですから。

 ここからは反復の様々な種類を説明していきましょう。

 まず、一言に押韻と言っても三つの観点から分類することができるのです。一つは「音節のどこで押韻するか」、一つは「詩のどこで押韻するか」、最後の一つは「どのくらいの量で押韻するか」。

 まず「音節のどこで押韻するか」――これは日本語の音節に適応させた形で説明させていただきますが、日本語の、平仮名をローマ字に分解すると「bunkaisuruto」という風に子音と母音に分けることができるでしょう。また「ん」はそれ単独で一音を形成します(ややこしいことを言うと、一音節、ではなく一音、なんです)。

 これで押韻はまず四種類に分けられます。子音だけを押韻する「頭韻」、母音だけを押韻する「類韻」、子音も母音も押韻する「完全韻」、子音だけの音を押韻する「半韻」。

 次に「詩のどこで押韻するか」という観点から見てみましょう。一行の中で見て行けば、行末で押韻する「脚韻」が有名ですが、行頭で押韻する「頭韻」(子音だけの押韻と名称が被っているので注意してくださいね)もあり、行内で押韻を完結させてしまう「中間韻」もあるようです。

 また、詩全体から見て行けば、隣接する行で押韻する平坦韻、一行開けて押韻しつつ開いた行でもまた別の押韻をする交差韻、二行開けた押韻の中に平坦韻を包む抱擁韻などがあります。他にも三韻句法テルツァ・リマやソネットなどのより複雑な押韻の配置の仕方はあるのですが、説明しきろうとすると終わらないので割愛させていただきます。ネットで「押韻構成」って調べたら色々出てくると思うので、試してみてください。

 なお、押韻はヨーロッパ詩に特有のものではなく、漢詩でも(注18)、アラビア語詩でも(注19)、スワヒリ語詩でも(注20)厳然とした体系が整備された技法であります。

 最後に「どのくらいの量で押韻するか」について少し。押韻は、押韻する音数が増えるほど「豊かな」押韻と呼ばれます。不自然にならない範囲でやってみるのも一興かも知れませんね。

 さて、押韻についての話も一区切りついたところで、対句について語っていきましょう。「対句」と言ってしまえばそれまでなのですが「文構造を繰り返す技法」という意味なら、別に対でなくともいいわけです――三つでも、四つでも。つまり、様々な楽曲に見えるような「一番、二番、ラスサビ」の形式にもまた対句――パラレリズムを使っているものが見られるのです。一番のサビと、二番のサビ、そしてラスサビの歌詞が同じ文構造に統一されている曲、時々見かけませんか?

 また、対句と一言に言っても、文構造だけでなく意味内容までも揃えて対にするものは多いですし、トリヤッド(注21)のように文を並べる順番を一定の法則に従って決めるものもあります。ただ単に「青い空が見える。うるさい音が消える」と言ったように文構造だけ合わせてりゃいいわけじゃないんですね。「白い雲が消える。青い空が見える」とかの方が対句として分かりやすいように。

 一方反復にも、中原中也の『汚れつちまつた悲しみに』(注22)のように行単位で反復するものもあれば草野心平の『誕生祭』(注23)のように最初の言葉だけを繰り返すアナフォラ、アイヌ民族の口承文芸にも見られる「美しい山/山の上で」(注24)のような行末の語を行頭で繰り返すアナディプロシスを始め沢山の種類があります。


(注18)注9に同じ

(注19)編訳者 塙治夫「アブー・ヌワース アラブ飲酒詩選」(岩波書店 1988年1月18日 第1刷発行)

(注20)京都大学大学院人間・環境学研究科 小野田 風子「スワヒリ語詩の社会志向性― 19 世紀初頭モンバサの詩人ムヤカ・ビン・ハジに着目して ―」http://web.kyoto-inet.or.jp/people/keiko-ku/Africa/onoda45.pdf(2022年3月9日参照)

(注21)W・S・モーム著 訳者 西川正身「世界の十大小説(下)」(岩波書店 1997年10月16日 第1刷発行)

(注22)注13に同じ

(注23)注6に同じ

(注24)注10に同じ


その他の参考

 渡辺守章 訳「マラルメ詩集」(岩波書店 2014年11月14日 第1刷発行)

 「押韻 - Wikipedia」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%BC%E9%9F%BB(2022年3月9日参照)

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