第2話、詩の要素


 詩の要素は大まかに「修辞技法」と「内容」の二つに分けられます。

 5W1Hで表すなら、修辞技法が「How」つまり「どうやって書くか」、そして内容が「What」すなわち「何を書くか」ということです。「When(いつ書くか)」「Where(どこで書くか)」「Who(誰が書くか)」については大して触れるつもりはありませんが、「Why(何のために書くか)」ということついてには後々解説していけたらなと思っています。

 この詩論においては、修辞技法のうち詩にリズム的、――言い換えれば周期的な音楽性を与えるものを「韻律」、それ以外を「あや」と呼んでいきましょう。――さて、ここでまた「音楽性」という言葉が出てきましたが、前話でも「定型的な韻律以外の方法によっても詩に音楽性をもたらせる」と主張した人々がいたように、やけに詩人というものは「音楽性」に拘ります。なぜでしょうか?

 理由として、詩が文学と音楽の間の子であることが挙げられます。再びアリストテレスの『詩論』(注8)からの引用になるのですが「リズムと言葉と音曲によって再現を行う」のが詩なのです。つまり当時、詩の実演は楽曲の演奏と共に行われていたということ。また、中国の『詩経』に収められている詩も本来は歌謡――つまり音楽でした(注9)。他にアイヌ民族の口承文芸にも、節をつけてメロディに乗せて語る「サコイェ」があります(注10)。百人一首の時、上の句を読む人がやたら声を引き延ばして読んでいた記憶がある人もいるでしょう。このことから分かるように、元来詩というのは音楽と混じり合ったジャンルであったのです。この視点から見れば「歌詞」や「ラップ」というのも詩の一種類に加えることができるでしょう。このことから、詩は文学にのみ属する芸術分野ではなく、音楽にもまたがるジャンルであることが分かります。

 また、詩は文字によって「書かれる」場合、視覚的な要素も有します。草野心平の『天気』や『遠景』が分かりやすいでしょう(注11)。「Q」という文字で絵を描いたり「駱駝」という文字をラクダそのものの記号として扱ったり。ここまで極端な例でなくとも、文章を書く際にその見た目を気にして書く人は多いのではないでしょうか。例えば「夕焼け」と書けば文章が夕焼け色に染まったような錯覚に陥ったり、画数の多い漢字を濫用すれば字面が詰まってしまうように。こういったことを意図して書けば(または作者が意図していなくても読者が気付けば)それは「修辞技法」のうちの「あや」になります。

 では「内容」とはどういったものを指すのでしょうか? 例を挙げるとすれば『ロランの歌』(注12)という叙事詩は物語を扱った詩と言えます。また「ロランという騎士が報連相をしっかりしなかったせいで死に、皇帝シャルルマーニュがその弔い合戦をする」内容の詩だとも言えます。他にも、中原中也の『汚れつちまつた悲しみに……』は「苦しい気持ちを歌った抒情詩」だと言えるでしょう(注13)。

 このように、叙事詩、抒情詩、叙景詩のようなジャンルは勿論、題材とする事柄や感情、その物語としての面白さ、展開なども「内容」のうちに含まれるのです。

 さて、ここらで詩の要素に関する導入を終えましょう。次話では「韻律」について詳細に取り扱っていくつもりです。ようやく実際のテクニックについての話になりますね。


(注8)注1に同じ

(注9)小川環樹 著「唐詩概説」(岩波書店 2005年9月16日 第1刷発行)

(注10)中川裕「アイヌの物語世界」(平凡社 1997年3月15日 初版第1刷)

(注11)注6に同じ

(注12)有永弘人 訳「ロランの歌」(岩波書店 1965年1月16日 第1刷発行)

(注13)「汚れつちまつた悲しみに 中原中也詩集」(集英社 1991年1月25日 第1刷)

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