第二話 北へ③

なんでこうなった……


もう一度言う、なんでこうなった・・・・・・・・っっ!!



いつものように、俺、その右側を歩くアセウス。

……の後ろから、ガチャガチャと鎧の音をたてながら黒い男がついてくる。

そう、黒い男!!

なんてピッタリな形容詞!!

何もかもが「黒い」男、ジトレフ・ランドヴィーク。

オッダ部隊第二分隊長。

奴が、何故か、俺たちの旅についてくることになったのだ……。



あの日、オッダを発とうとして、オッダ部隊に連行された日。

俺がムチ打ち患者みたいに首と顔を固まらせている間に、アセウスは全部ペラってしまったのだ。

人が良いというのは、他人に対してやましいことがないということ、つまり、隠し事など基本しないのだ。

説明しろと請われて、知ってることを全部説明した。正直に。いぇーい。


といっても、アセウスが知っているのは、球体スフィアに閉じ込められたところから、俺が来てジャンピングアタックをかけたあの瞬間まで。

その後は、のしかかるアセウスあいつをどかそうとした、俺に蹴り上げられて目を覚ますまで、アセウスあいつに記憶はない。

アセウスあいつが知ってるのは、目覚めて聞いてきたアセウスあいつに、俺がした説明だけだ。



――寝ていると、突然鳥肌が立つような魔力に目が覚めて、周りが真っ暗だったんです。

夜の闇とは違う、漆黒の闇。

すぐに異空間だと気づきました。

空間展開出来るような魔物モンスターに俺が敵うわけがないので……

あぁ、エルドフィンと俺は戦闘魔力のない戦士なんです。

なので逃げの一手しかないと思ったのですが……

すぐに凄まじい魔力の球体に閉じ込められまして。

浮き上がらされたと思ったら……

イーヴル・アイ、知ってます?

そう、あの伝説レジェンドクラス魔物モンスターの。

あいつの目の前に……

あは! 目玉相手に目の前とかちょっと笑えますね。

ふざけた訳じゃないんです、すみません。

イーヴル・アイの面前に……

うぅむ、やっぱり目玉しかないのに面前って変ですね。

いいや。イーヴル・アイの目の前で、たぶん、あれが噂の「邪視」ですね。

完全に魂抜かれまして。

殺されるのを待ってたところに、エルドフィンが駆けつけてくれて。

そんな強くないんですけど、俺、魔剣を持ってて……これです。

たまたまエルドフィンに預けてたんです。

こいつがこの剣の魔法使って球体壊してくれて。

そしたら、イーヴル・アイもいなくなってしまったって。

これがジトレフさん達がお知りになりたい顛末です。

エルドフィンや宿屋のご主人と町の皆さんの話を合わせると、球体を壊したのと、イーヴル・アイがいなくなったのと、町を襲う魔物モンスターがいなくなったのがほぼ同時らしいので……

俺を狙った襲撃だったんじゃないかって……結論にいたりました。

まったく心当たりがありませんし、かといって狙われ続けても困るので、俺の家系のことに詳しい親戚に狙われる理由を知らないか聞きに行くことにしました。

北方にいるんです。

それで、俺個人の問題にオッダの町の皆さんを煩わせるわけにはいかないので、何も言わずにすぐ町を発とう……としたところなんです。

ご迷惑をかけてすみませんでした。

え? 球体を壊した時のことですか?

バリバリバチバチバシュシュッッて言ってました。

はい。球体の表面に剣先が触れて、バリバリバチバチバシュシュッッ!!

う~ん、正直この剣の魔力で勝てるとは思えないんですよね。

しかも、俺じゃなくてエルドフィンが使ったので、効果は明らかに落ちますし。

でも、実際壊れて俺が助かってる訳なので、なにかがハマったんでしょうか。

魔力ってたまにそういう理解不能なことありますし。

そうです、球体がバシュシュッッて壊れたら異空間がパッと無くなって、浮いてた家具とかがゴドゴトゴトッッで、あれ? イーヴル・アイいなくね? だそうです。



…………いい奴なんだよ……。

前世でバリバリぼっちだった俺が、二人だけで旅出来るような奴だからな。

全てが嫌になって自分で終わらせちまった俺が、こうして一緒に時間を過ごしてる奴だからな。

アセウスこいつだから成り立ってるんだと思う。

そう、俺のあんなふざけた説明で納得してくれちゃうアセウスおまえだから。

いや、逆にいうとさ、あの説明はアセウスおまえ用なんだよ!

普通はそんなのあっさり納得しないからぁぁァァァアア!!



予想通り、ジトレフは納得しなかったと見える。

そもそも、向こうの持ってる情報を聞く前に、俺の適当話をした時点で終わってる。

唯一救いだったのは、ジトレフが「黒」かったことだ。

ジトレフあいつは腹の中も「黒い」やつだったらしく、アセウスの人の良さを信じなかったらしい。

アセウスの言葉を信じていれば、嘘をついてるのは、隠し事をしているのは、俺だってことになる。

俺しかない。明白だ。

だが、ジトレフはアセウスも疑った。

人の良さを下手な演技だと思ったんじゃねぇかな。

人を信じれない可哀相なやつだ。あんないい奴アセウスを信じられないなんて、終わってんな。

アセウスの説明を聞いた後、「説明感謝する」なんて社交辞令言っておきながら、あからさまに俺ら二人を疑いの目で見始めやがった。


「黒」には「黒」返し!!

関わることで被害しか生まれなさそうな人間やつは、適当にあしらって、追い払って、関わらないようにするのが得策。

品行方正なアセウスには出来ない、24年の年の功だ。

固まらせていた身体を解放し、身を乗り出した俺は、頼まれてもいないのに二人の会話に参入した。

ジトレフへの嫌悪感を封印して、誉めて、おだてて、すり寄る。

「後ろに引く時ほど徹底的な好意」

俺の鉄板ルールでさっさとお愛想振ってずらかろうと思ったら、「黒い分隊長様」は旅について行きたいと言いやがった。

町の部隊の分隊長がダメだろ?! て散々ご遠慮してみたが、追行・・するの一点張りで負けた。

なんでも、アセウスが狙われたのはオッダこの町でのことだから、その理由を判明させるのも部隊の任務だそうだ。

まぁ、確かに、理由がアセウスになかった場合、オッダがまた襲撃される可能性がないともいえない。

向こうの任務と言われると、こちらには思い止まらせる理由がない。

むしろ、布石しまくったお愛想が、逃げの手筋を封じる形になってしまった。

ジトレフとかいうやつこいつ……若造の癖に、俺の鉄板ルールを逆手にとったのか?

コミュ力まで持ってる・・・・っていうのか?!

整った顔は無表情のまま、俺の問いに答えなど見せはしなかった。

……ぐっぐぬぅぅぅっっ…………っっ


そうして、俺らの気楽な旅は、「黒い」男に疑いの目で監視される旅になってしまったのだ……


Noooooooのぉぉぉ waaaaaaaaaaaaaayうぇェェエエエエイイ!!!!!!






―――――――――――――――――――

【冒険のアイテム】

 アセウスの魔剣

 青い塊

【冒険を共にするイケメン】

 戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス

 オッダ部隊第二分隊長 ジトレフ

【冒険の目的地】

 北






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