第二話 北へ②

「オッダ部隊までご同行願いたい」

誰だお前……みたいなバリトンボイスが俺の耳に響いた。


宿を出た俺とアセウスを待ち受けていたのは、いかつい黒の鎧兜に身を包んだ《冷たいグズル青布ブラール》達だった。

丁寧な言葉とは裏腹に、20人ほどに取り囲まれる。

各町に設置される戦士達による戦闘集団。


この世界では、だいたい10歳を目安に、希望する人間ものは「戦士」の認定審査を受ける。

一定基準の戦闘力を認められれば、「戦士」と認定され、あかしの『冷たいグズル青布ブラール』を首に巻くことになる。

俺とアセウスも、他の子どもたちと一緒に「戦士」になった。


戦士、特に雑兵モブクラスの戦士は、町を基本とした部隊に属して任務に当たる、というのが常だ。

主たる任務は対魔物の警備とか突発の戦闘とか、人間同士の治安維持とか。

それによって安定した身分と経済力を得る。

5年間は戦士としての教養や訓練を受けながらの研修期間、その後、部隊に就くか、それぞれの道に進むかを選ぶのだ。


彼らはこの町に生まれ、この町で戦士となり、この町の部隊員として、町とともに生きる道を選んだ者達だ。

(一部例外はいると思うけど)

俺たちとは、たぶん、合わない連中だ。


……よろしくないな……よろしくない。


俺はアセウスにチラリと目をやった。

アセウスは「仕方ない」という顔で頷いた。


「分かりました。何のご用件か分かりませんがお供させていただきます」


アセウスが答えて、俺らはリーダーらしき男の後に従った。


おいおい……大人しく従ってるのに、取り囲んだまま行くのかよ。

戦闘時でもないのに、面頬を下ろして顔を見せていないというのも穏やかではない。

こんなことも三年間旅していて初めてだ。

不穏だな……


俺はアセウスの様子を伺った。

平然と歩いているように見えるが、やっぱり、額に変な汗をかいている。

こいつ、良い意味で坊っちゃんだからな、優等生にはこういうの、キツいんだよなぁ。

俺はアセウスの脇腹を大袈裟にどつくと、動揺したアセウスと、同じく動揺してる回りのオッダ部隊に聞こえるように、大きな声で言った。


「お前デケェんだよ!!ぶつかるからもっと離れて歩けよ」


突然なにごとかと唖然としたアセウスを、周囲の部隊員が堪えきれずクスクスと笑う。

気づいたリーダーらしき男は、振り向いて部隊員をたしなめると、距離を取るように指示をした後、


「失礼をお詫びしたい」


そう一度頭を下げた。

どうやら中の人は落ち着いた年長者のようだ。

途端に場の雰囲気が柔らかくなった。

部隊員にはりつめていた緊張感は失せ、俺たちは取り囲まれるというより、ただ並んで歩くことになった。

俺とアセウスもゆったり距離を取って、いつものように気楽に歩けるようになった。

これは予想以上の効果だ。


『大・成・功♪』


俺がアセウスに目で合図すると、アセウスは嬉しそうに笑った。


ふふん、結構やるじゃん、俺。



オッダ部隊のある建物についた俺とアセウスは、リーダーらしき男の部屋に案内された。

部屋に着くと、そいつはやっと兜をはずし、俺らに椅子を勧めてから自分も腰かけた。


「私はオッダ部隊第二分隊長ジトレフ。ジトレフ・ランドヴィークだ。突然のことで…しかも、余り友好的な対応だったとは言えないところを、ご協力いただき感謝する。ここなら他の目もない、気楽にくつろいで貰えるとありがたいのだが……」


下手したでに出ているようでいて、なんか偉そうなこの男。

黒い短髪、黒い切れ長の瞳、薄い唇、整った顔立ち

落ち着いた年長者どこ行った!? 俺らと変わらねぇような若造じゃねーかよ!!

イケボ詐欺!!

しかもイケメンで来やがった……

加えて、雰囲気が強そうだ……

こいつ、魔力結構あるんじゃねーか? この年齢で分隊長だもんな。


俺は、明らかに、ジトレフに良くない第一印象を持った。

イケメンはイケメンってだけで嫌いなんだ。アセウス以外はノーセンキュー!!

偉そうなやつもノーセンキュー!!

更に強いとか、もー消えて!


俺は「よろしくっっ」とアセウスに目配せすると、

ジトレフの対応を全部アセウスに任せて、部屋を観察して時間を潰すことにした。


ふぅーん。俺たちの町と大して変わんないかな。

物が少なくて殺風景なのは……ジトレフこいつの性格だろーな。


「私は、アセウス・エイケン。セウダの町出身で……幼馴染みのエルドフィンと旅をしています。こいつが、そのエルドフィン・ヤール。昨日行商目的でこの町に来て、あの宿でひと休みさせていただいたところです。……ご用件というのは……?」

「昨夜の魔物急襲のことだ。オッダの町であのような襲撃を受けたことはこの百年以上ない。我々部隊の調査によると、あの夜、町を襲った魔物達とは桁違いの魔力があの・・宿から感知されたと判明している」


げっ………これは……アセウスに丸投げ出来ない案件かも……


俺は部屋の関係ねーところを眺めてる顔と首のまま、固まった。


急に反応見せたらまた、めんどくせぇことになりそうだし……

……うぅぅ~ん……



「あの日、あの宿に宿泊していた《冷たいグズル青布ブラール》はお二方のみだ。急襲の連絡を受けて、お二方の指示誘導により、宿屋の主人と他の宿泊者が避難していることも確認している。あの宿屋に残っていたのはお二人だけだ」


「…………」


アセウスは案の定黙っている。


うむむむむむむ……


「ご説明いただきたい」


物凄い重低音で俺たちは問い詰められた。




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