第二話 北へ①
「昨夜はありがとうございました。この近辺の住民一同からのささやかなお礼です!」
イーヴル・アイを倒したのとほぼ同じ頃、町を襲っていた
まるで
昨夜の急襲は余程恐怖だったのだろう。
「量もだけど……内容がヤバいな……。これ、本当に無償で受けていいんだろうか、エルドフィ……」
「ぁむ? へあぃはばっぱぁっ、ぎゃふにはりぃだお」
「もう食ってんのかよ。なに言ってるか分かんねーよ(笑)」
(ん? 下手に支払ったら、逆に悪ぃだろ)
「ぅむんっ(ごっくん!) 生肉! ちゃんと俺とアセウスの分と二人分用意してくれてるから、1つずつな。ヤバいけどさ、せっかくのご馳走ふるまってくれてるんだ、出来立ての美味いうちに専念して味わおうぜ! 俺、しばらく簡易領域発動するっ」
香ばしく焼けた皮に串を刺すと、プツリッッと何かが弾けるような感触。
ぅわぁはっっ! その後、串の先は滑らかに肉の中に吸い込まれていき……ぁあぁ、なんて悩ましい。
ゆっくり、そっと、口に運ぶ。
炭の香りがする。
んむんんぅ~っっ ドーパミンが大量分泌される……、いまっっ!!
お前変なクスリでもやってんじゃねぇよな、大丈夫かって?
俺はしっかり
生肉は滅多に食べられない高級食材なのだ!
この歯ごたえ、弾力、肉汁、うぅっ泣けてくるっ。
朝からこんなに食べてる自分が驚きだった。
年齢の違いもあるだろうけど現世の俺は、前世の俺とまるで違って健康的だ。
前世の朝なんて何も食わないでエナジードリンクばっか飲んでた。
ふ……と昔の記憶がよみがえって、俺は口に入れた肉を噛み締める。
正直、肉の味が強すぎる、粗雑な調理だった。
この世界は万事がそうだ。
前世は美味いものがたくさんあった。
コンビニでもスーパーでも、ファミレスでも穴場食堂でも。
あの多様な味に比べたら、この肉なんて原始人だ。それでも、のみこむのが惜しいほどの
……○ァミチキ食いてぇェェェェェ……
「気持ちの良い食べっぷりで、ありがとうございます」
アセウスと競うようにご馳走をたいらげると、宿屋の主人は嬉しそうな顔で礼を言いながら食器を片付けた。
こんなにご馳走になっておいて、お礼を言いたいのはこっちの方だ。
「とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
俺とアセウスはお礼がわりに、そう、心からの言葉を返した。
思わぬ待遇を受け、連泊しづらくなってしまった俺達は、今日宿を発とう、と今後のことを話し合うことにする。だが、お互いに言葉がなかなか出てこない。
そりゃそうだ、今後のことよりも、気になることがある。
昨夜の
つまり、狙いはアセウスだった。
今まで3年旅をしていて、アセウスが特別
これは一体どういうことか……
俺には思い当たることが1つだけあった。
「なぁ、あの青い塊、まだ持ってるか?」
「あ? あぁ……」
アセウスは懐から塊を取り出してテーブルの上に置いた。
「お前、あの夜もそうやって持っていた?」
「……俺があんな目にあったのはこれのせいだって?」
「わっかんねぇけど……可能性としては高くねぇ? 他に、お前何か心当たりある?」
深刻な表情のアセウスと目が合った。
…………
ん??? まさか、あんのか?
俺はアセウスの目を見返しながら言葉を待つ。
…………
え??? なに、そのちょっと照れたみたいな気まずそうな顔!
こっちが恥ずかしくなるから止めてくれっっ
「何か、あるのか?! 俺が知らない……俺に言えないような恥ずかしいことで……っっ」
「えっ?!」
「あ! いや、俺に言えないようなことで……ほら、お前んち一応領主貴族だし、魔剣伝わってるくらいだし……」
ヤバイヤバイ……
言えないような恥ずかしい
アセウスには、ゴンドゥルのことや契約のことは話していない。
だって、いろいろ恥ずかしすぎるもんっ!
え? 恥ずかしくね? 俺はすっげぇ恥ずかしいっっ
「実は……思い当たることがまったく無い訳じゃないんだ……ただ、現実味がないっていうか、代々伝えられたおとぎ話みたいなもので……」
アセウスは組んだ両手に頭を落として、俺とは目を合わせないようにして答えた。
「どんな話?」
「……人間と魔物の戦いが始まったくらいの、昔の話」
「まぢか。えっっと……あれだろ? 昔々、知的好奇心の塊の巨人族、オージン様が自分達に似せた生き物として人間を創って人間社会を造らせた。人間達とその神になったオージン様が面白おかしく暮らしていることを気に入らなかった巨人族が、南の魔山に魔物を呼び寄せて人間を滅ぼそうとした、てやつ」
「あぁ……だいぶエルドフィン解釈が入ってるけど、まぁ、それだ。……その時に人間対魔物の大戦争があって、決着がつかなかったから今に至る……て皆知ってる神話なんだけど……」
「うん」
なんでこれが恥ずかしいんだろ。
俺は不思議に思いながらアセウスを見た。
アセウスは手で隠れてるのに、まだ足りないのか顔をあからさまに背けた。
「大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたものだって。神から貰った神器だって話なんだけど、祖先の名前も神の名前も、失われていて俺らは知らない」
「すげー。そんな話あったのか」
俺は心底ビックリした。この18年そんなこと全然聞かなかった。
そんな話あったら、
「わざわざ言わないよ。誰でも知ってる神話だぜ。『祖先が参加してた』って、誰だって言えそうなネタじゃないか」
そう言われてみると、そうでもある。
有名人の出身地の人が、俺同郷! 実家知ってる! とか言うのと同じくらいショボいかも。
あぁ、それで恥ずかしかったのかな?
「でも、魔剣があるんだから、結構信憑性あるんじゃね? その言い伝え、もっと詳しいこと分かんねぇの? お前が狙われるような理由とかさ」
「ここから……北に行った町に、当時の仲間の一人って言われてる人の一族がいる。俺は親戚だって聞いたけど。その一族なら、もっと詳しいことを伝え聞いて知ってるかも」
「お! いるんだ! じゃあ、聞きに行くか?」
「え?!」
アセウスは驚いた顔で俺を見た。
「え? ダメ? なんかマズい?」
「……いや、まずくはないけど……」
「もともと宛のないブラリ旅じゃん? また狙われてもビビるしさ、理由分かるなら聞きに行った方が良くね? まぁ……俺はまだ
「……つきあって、くれるのか?」
「え?」
「いや、ほら……俺んちの話だし……」
「なに言ってんだよ。一緒に町を出た3年前から俺たち一蓮托生って決めたじゃん。死ぬ時は別だけど、たぶんまだまだ死ななそうだし!?」
俺は心配そうなアセウスにニカッと笑いかけた。
チートなゴンドゥルがついてるんだ、余程のことがなければ死ぬこたない。
危険がないと分かっていれば、どんな冒険だってむしろバッチコーイだ!!
たぶん、(チートに裏づけられた)俺の力強さにアセウスも安心したんだろう。
アセウスはいつもの明るい笑顔で言った。
「よし、じゃあ、次の
その時、黒い甲冑の一団が俺達の居る宿を取り囲んでいたことを、俺達はまだ知らなかった。
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【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス
【冒険の目的地】
北
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