第15話 死神探しの少女 弐
山の中、道無き道を首無しの馬が二頭駆ける。
その背にはそれぞれ、アキトさんの後ろに僕、リュウキさんの後ろに女の子が乗っている。
「うぉぉぉーーー」
「しっかり掴まっててね」
「きゃーーー、はーーやーーいーーーー!」
「あまりキョロキョロするな!落ちるぞ!?」
僕達は地獄からチューリップの館へと全速で帰っていた。
___少し前のこと。
女の子が取り出した殺人依頼書、通称『 殺頼書』を見て、アキトさんは女の子に歩み寄った。
「それは、あなたのお母さんのものなのね?」
「うん」
「私たちにその紙を見せるってことは、依頼ということになるけど、大丈夫?」
「………」
その問いに女の子は躊躇って目を伏せた。
「その紙に書いてあること、少し読ませてもらってもいいかしら?」
「うん、いいよ」
そう言って女の子は黒い紙を差し出す。
けど、その紙を受け取る訳にはいかない。
アキトさんは申し訳無さそうに、両手を振った。
「ごめんね、私たちがその紙に触ってしまうと契約が成立しちゃうの」
そう、僕達死神は個人から殺人以来を受ける場合、殺人依頼書を依頼主から直接受け取ることで契約が完了するのだ。
「あ、そっか」
僕たちに見えやすいように、女の子は紙を顔の前に掲げる。
アキトさんの肩越しに殺頼書を覗き込む。
そこに書いてあった内容は異常なものだった。
ギョッとする心情が表情に出そうになるのを必死にこらえる。
依頼人と対面しているのに、僕がネガティブな感情を表に出すわけにいかない。
訓練校で教官に叩き込まれたことだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
殺人依頼書
藤原ゆう子
上記人間の命日に、その魂を鎮魂し、送魂することを依頼する。
残時間 17:42.51
希望者数 1
尚、失敗した場合において故人の記憶の一切を封じ、その後の全ての処理について全権限を委託する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
黒地の紙に書かれた文字は名前以外は全て赤色で、藤原ゆう子という鎮魂対象名だけが違う色で書かれている。
名前が書かれている色は、そのまま鎮魂対象の魂が悪霊となった場合の危険度を表している。
危険度が低く鎮魂が容易な場合青色に近く、危険度が高く鎮魂が困難な場合赤色に近くなる。
そして、この殺頼書に書かれた名前は、黄色。
イエローネーム…
色としては赤と青の中間に位置するが、その難易度の分布は中間では無い。
名前の色の分布はピラミッド型になっており、赤色に近づくほどにその割合は著しく低下していく。
そのため、イエローネームはピラミッドの頂点から20%以内に属しており、当然その依頼を完了するために求められる死神の実力も死神全体で上位20%以上となる。
僕はもちろん死神の実力ピラミッドの1番下だから、この依頼を受けるなんてとんでもない。
「これはあなたのお母さんの?」
「うん、そう」
女の子は頷いた。
殺頼書は対象の人物の命日の1週間前に、その人間と最も近しかった人間の元に現れる。
そして、その殺頼書をどうするのか、つまり協会に委託するのか、個人的に会社に依頼するのかを決めなくてはならない。
その最終決定権は殺頼書が届いた人間が握っているのだが、こんなに小さな女の子が殺頼書の最終決定者になることはほとんどないのだけど…
でも、今回の殺頼書にはその理由もありありと書いてあった。
希望者数 1
これは鎮魂を希望している黄泉の国にいる魂がいくつあるのかを表している。
希望者数が多ければ多いほど、死神としての徳を積むことが出来るため、この数字は一言で言ってしまえば僕たちにとって報酬の量ということになる。
希望者数1は、この女の子だろう。
つまりこの子は、母親の鎮魂の最終決定権を委ねられ、一人で鎮魂してくれる死神を探すしかなかったのだ。
「依頼、受けてくれますか?」
女の子は殺頼書を胸元にまで下げて、上目遣いで聞いてくる。
その健気さには二つ返事でイエスと返したくなるが、そうも出来ない。
イエローネームで難易度が高いことや、希望者数が1で報酬が少ないこと、これらは条件としては非常に厳しい。
でも、この二つはなんとか出来る範囲だ。
僕は刻一刻と変化を続ける文字列をもう一度確かめる。
残時間 17:42.35
残時間、この時間が 0 になった時、その人の死体の上に魂が疑似悪霊として顕現する。
もしこの時間を逃したら完全に悪霊となってしまうため、僕たちが鎮魂するのは基本的にこの時間の間だけだ。
「……」
僕はアキトさんとリュウキさんを見る。
この女の子の殺頼書に書かれている残時間はもうすでに18時間を切っており、緊急依頼に該当する。
企業は残時間が3日前までの依頼しか受けないのが一般的だ。
チューリップがどんな条件で依頼を受けているのかは分からないけど、この依頼を受けることは…
「あなたのお名前を教えてもらえる?」
アキトさんは少しの沈黙の後、優しく尋ねた。
「…藤原めい」
女の子はこちらを窺うように恐る恐る名前を言った。
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