第26話 第八章 会談

 この状態をいち早く切り抜けたのは先ほどの話でタヌキという疑いのある大ちゃんだった。


 彼は神妙な面持ちで部屋を飛び出していき、一分も立たないくらいで帰ってくると、未だ放心状態である智さんの肩を揺さぶらせた。


「智さん!分かった!分かったって!!」

「んあ…。あ、大ちゃん…。明けましてこんにちは…。」


 未だ自分の正体を掴めてないように彼は呟いて、一口お茶を飲んでは口元から零していた。


「智さん!!しっかりして!!分かったんだよ!メニュー表の謎が!?」


 大ちゃんの焦った声と自分の口から滴り落ちたお茶で胸元が濡れている気持ち悪さで彼は完全に意識を取り戻した。


「あぁ…。俺は何をしていたんだ…。」

「智さんっ!?」


 頭を抱えながら項垂れる彼を嗜めるように大ちゃんは彼の肩を強く叩いて叫んだ。


「騒々しいな…。一体どうしたんだ?」

「だから!さっき店主が言ってたメニュー表の謎が解けたんだって!!」

「な、なんだってぇ!?て言うか君、早すぎじゃないか!?ミステリーとはもっとじっくりと皆で考えるというのが定説なのではないのかっ!?」


 彼の訳の分からない言葉に大ちゃんは呆れた顔をして息を吐いた。


「ミステリーも何も…。言われて注意して見たら分かる事だったよ…。」

「何…!?」


 納得のいかない表情を浮かべた彼の手を引いて、入り口にあるメニュー表の所まで引導した。


「ほら…。これっ!」


 大ちゃんは『オススメ 店主の独断と偏見定食』の『オススメ』と書かれた所を指差していた。


「ん……?ああっ!!」


 よく見るとそこには『オススメ』と書かれているはずが『オヌヌメ』と書かれていて、しかもご丁寧に赤文字で書かれてあった。


『オヌヌメ 店主の独断と偏見定食』これも多分店主のただの気まぐれなのだろう。


 まともに読めば読むほど、真面目に考えれば考えるほど段々と馬鹿馬鹿しくなり、言葉なく二人並んで項垂れた。


 オオサカ堂とこの店を挟む道はこの街のメインストリートであり、時間帯的に社会人の退社時間と被っているのだろう。絶えず通り過ぎる車のライトが電気をつけているにも拘らず何故か暗く感じる店内を映しては二人の消沈している影をより深めているようだった。

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BAND☆やろう是 岡崎モユル @daggers39280

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