第19話 第七章 調練

 数日が過ぎ、スタジオによる練習日となった。


 その日は日曜日だったのだが、何故か夜明けの光と共に眼を開けた。緊張により眠れなかったと言ってしまった方が適切なのかもしれない。しかし頭の中はやけに冴えていた。


 リビングに行くと早朝なのにも拘らず家族の気配はない。多分昨日は帰ってこなかったのだろう。僕は特に何も思わずにコーヒーを注いだ。こんな朝は我が家にはそう珍しい事ではない。


 そういえばスタジオに入る度、メンバー達に「喉の具合はどうだ?」と聞かれたのをふと思い出し「あーっ。」と声を何気なく出してみたのだが調子が良いのか悪いのかやはり分からない。もしかするとこのしゃがれた声が夏風邪のせいか、はたまた歌いすぎなのかと心配しての事かと今思った。ご心配をお掛けしているならば大変申し訳ないのだが、悪いがこれは地声である。


 本日の練習時間は十四時から十六時。事前に智さんが予約を入れていたらしい。


 ふと時計を見ると針は午前五時を少し廻った所だった。起きている事がもはや意味不明だが、しかしながら眠れそうにもない。とりあえずコーヒーを口にしながらテレビをつけると一日の天気予報がやっていた。どうやら今日は極めて暑くなるらしい。


 時間も腐るほどあるという事で、復習を兼ねて歌おうかとも思ったのだが、皆が言う『喉のコンディション』を整える為に、とりあえず歌う事は止める事にした。しかし何もしないというのも落ち着かない訳で、歌詞を見ながら頭の中で歌っているイメージをする事にした。イメトレだけでも良い練習になるらしい。頭の中で歌って踊る自分の立ち様を想像しながら眼を閉じた。


 気がつくと時計の針は十一時に差し掛かるくらいになっていた。その間パジャマのままずっとリビングでイメトレをしていたという事になる。自分の集中力に半信半疑のまま残っていたコーヒーを口にすると、生水のように温い。それでようやく僕は現実へと引き戻された。


 室内はサウナの様に蒸し暑く、パジャマが汗でまみれている事に気がついた。先ほどから雷鳴の如く迸る腹の音も征さなくてならない。冷凍庫の中にある大量のストックから適当に選んで解凍し、心のままに貪った。後はシャワーでも浴び、スタジオに向かう身支度をしていたら頃合の時間になるだろう。


 しかし…暑い。否!熱い一日になりそうだ。

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