第18話 第七章 調練
八月三十一日に行われるイベントの内容を智さんから聞かされていた。
『場所、松山サロンキティー。1ステージの持ち時間三〇分。バンドの入りは午後十四時。会場は十七時で開演時間は十八時。』との事である。
リハーサルは音出しついでに二曲だけという事で、智さん曰く非常に厳しいものらしい。とりあえず僕も釣られて渋い顔を作って相面してみたのだが、やはり今の僕には何が厳しいのかがさっぱり分からなかった。
選曲はクレイズのコピーが二曲で、残り三曲は智さんが作ったオリジナルソングを演る事で決定した。
クレイズの二曲はやはり皆が好きな『ネイキッド ブルー』と『リスキー』どちらとも激しく熱いナンバーである。
オリジナルの三曲はというと、智さんは兄様が二人ほどいるらしく、その兄様に影響を受けてなのか、少し昔に流行ったビートロック調の曲が二曲で、もう一曲はミドルテンポのしっとりとしたポップバラードだった。三曲とも何故か名前が決まっていないらしく、曲名欄は空白のままで歌詞だけ印刷した用紙を渡されていた。
『これが俺達のオリジナル曲…。』
そう心に思うと、渡された時の感動は忘れがたいものだった。家に帰ってからその日はずっと繰り返して聞き続けた。すっと心に入り込む曲でメロディは単調だが耳に残りやすい。単純にいい曲だなと僕は思った。
とにかくスタジオの日までには全曲歌えなければ話にならない。ここまで来れば後には引けないと一人でぐっと拳を握り、歌詞を取った。
僕の家は親が仕事を理由になかなか帰ってこない。よって僕一人しかいない時が多い。隣近所も離れている訳で騒音対策も完璧。自分だけしか存在しない我が家は最高の練習場所であった。僕は夜通し夢中に唄い続けた。自分の未来を掴み取る為に…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます