第15話 第六章 始動

 空を見上げると雲ひとつない青空で、今朝学校に行く前に見た朝のニュースで7月に入っている事を知った。


 色々あって…というのは言い訳がましいが、中間テストも見るも無残な結果に終わり、両親の前では今までが真面目ぶっていたというか、なんというか…。ともかく僕は結果こそ全てと豪語する両親にこっぴどく叱られた。


 高校生には高校生の事情が在るというのも両親はすっかり忘れ去ってしまっているらしい。


「次はちゃんと勉強して結果を出します」


 という約束を半ば強引にさせられて、なんとか両親の怒りを納める事ができた。これからの出来事を予想すると、本当にちゃんとお勉強できるかどうかは自分でもよく分からないのではあるのだが…。



 あの対談からというと、僕は正式にバンド加入を果たし、それから何度集まったのか分からないくらいミーティングを繰り返し、バンドで練習がてら演奏するクレイズの曲を数曲と、リーダーが作ったというオリジナルソングを一曲聞かせてもらい、『オオサカ堂』の二階にある俗に言うスタジオなるところで数回音合わせもしていた。


 僕にとっては全てが初めての事で、毎日が今までと打って変わって充実感に満ち溢れ、まるで光に包まれた満足感に包まれていた。


 仲間達にもこれからバンドを始める事により、少し付き合いが悪くなる事を告白すると「お前の夢の為なら俺たちは応援する」と皆が口を合わせて僕の新たな門出を祝福してくれた。本当に良い友人に恵まれたと心の底から思えた。


 しかし、今度飯を奢る約束を何故かさせられた訳なのだが…。


 メンバーともようやく心打ち解け始めていて、かなり芯の通った集団である事を心で感じ取れた為、初め会った時の第一印象から大きく変化し、今や心からいい同志だと思う事ができる。


 先入観とは恐ろしいモノだと再度確認できたとも言ってもいい。まあ、過去の事だ。もう語るまい…。


 リーダーであり、リードギターの宇高智安は皆が親しみをもって『智さん』と呼んでいるから僕もそう呼ぶ事にした。


 そんなリードを支えるサイドギターである岩崎大輔は、好きなアーティストに「ダイ」というバンドマンがいるらしく、それに合わせてからなのか皆に「大ちゃん」と呼ばせていた。


 彼はギターリストなのに、その「ダイ」というアーティストはキーボードリストなのが少し疑問を感じざるを得ないのだが、人の思考にとやかくいう筋合いではない。


 ドラムを担当している井川正は、皆が苗字と名前をくっつけて「イータダ」と呼んでいた。


 誰が名づけたのかは等本人も分からないらしいが、どこか風の変わったネーミングで少し笑えた。


 対談の時に彼も言っていたのだが、楽器はどうも始めて間もないらしく、素人から聞いても少し覚束ない感じではあるが、ドラミングに彼の誠実なる性格を感じられて、僕は彼の叩くドラムが正直心地良く好きだった。


 しかし練習の合間リーダーに、幾度となく叱られている彼の姿が少し痛かったのだが…。


 高島徹はやはり皆に「トース」と呼ばれていて、スタジオに入って彼のベースプレイを聞いた瞬間、やはり本来僕が知っているチャラけた雰囲気の彼じゃなく、認めたくはないが普通にカッコいいベーシストの姿がそこにはあった。


 いつも卑猥な会話の内容を、猥褻な表情で吐き続けている彼からは想像もできないくらい男前の佇まいで、イータダと共にバンドの底辺を支えている縁の下の力持ち。


 いわゆる兄貴的な存在を醸し出していて、大げさかもしれないけど僕は畏怖してしまい、今までの彼が何だったのかと考え直させられてしまうぐらいだった。


 音楽とは人の人格さえ変えてしまう程の魔力を持っていると確信に迫る一瞬であった。


 そして、最後にこのバンドに歌い手で新加入した僕こと岡田校季は、元々トースが岡田さんと呼んでいた事もあり、皆も自然にそう呼ぶようになっていた。


 最近になり智さんだけが僕の事を「岡田」と呼んでくれる様になったのだが、このバンド内のネームを「コウキ」と下の名前にしようと思っていた事もあり、細々ながら自分なりに考えていた事もあるが、憤ってもしょうがないと悟り、潔く諦めた。

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