第14話 第四章 対話
そのアルバムを聞いた後、他のメンバーとも何言か言葉を交わした。
そして、とりあえずそのアルバムをダビングして貰い、しばらく考えさせてと一言だけ告げてトースの家を後にした。
頭の中がまるで空っぽになったかの様に、方針状態のまま、とぼとぼと歩き、何とか家にたどり着けた。
そしてベッドに身を投げて強く目を瞑った。
アルバムの音を聞いた瞬間、僕の中で何かが弾け、心に大きな波動が押し寄せたのだ。
「これは…なんだろう…。」
今まで受けた事も感じた事も無い。ただただ始めての感情の波が僕の心身を捕らえていた。
それはまるで僕の今まで過ごしてきた人生の根底を大きく覆す様な得体の知れないもので、強く、そして大きく貴重なモノであるという事だけは漠然と感じていた。その感情にただ気持ち悪さを覚える程であった。
しばらくは自分の何もなかった人生をぼんやりと想い、ふとダビングしてくれた盤をプレーヤーに入れ、ぼんやりと聞き初めた。確かこのアルバムの二曲目のワンフレーズに心奪われたのだ。
「泣くな泣くなこの魂…か」
このフレーズを聞いた後になんとなく一人呟いてみた。
別に泣いてなんかいなかった。ただ、今まで自分の魂が熱く振るえた事などなかった為、少し自分の置かれている境遇を考えさせられているのだ。
外から入る街頭や車の光が暗闇と入り混じる中、スピーカーから流れるこの音ががやたらと心に染みる…。
しばらく何も考えないまま、ただ音に身を委ねさせてていると、行き場のない混沌とした感情を掻き消すかの様に一本の電話が鳴った。
電話の音に助けを求めるかの様に僕は急いで電話を取った。
「…もしもし。」
「岡田か?俺だ…。」
声の主は頼さんだった。いつもの力強い声に何故だか本気で助かったと思えた。
「頼さんどしたん?」
「いや、お前が泣きべそかいてるんじゃないかと思ってな。」
彼には全てお見通しの様だ。全ての不条理を鋼の肉体と熱い誇りで笑い飛ばす漢。それが頼さんなのだ。
「正直どうすればええんかわからんくなっとるんよ…。」
僕はまるで蚊が飛んでいる様な力のない声で呟いた。すると彼はいきなり大声で笑い出した。
「はーっはっはっは!お前がどう進むかなど俺には分からん!ただ自分の人生は自分自身でしか決められないのだ!お前がどうしたいか、どう望むかでお前の人生は変わる!それを自分自身で拒否すれば想いは想いのままで終わるのみ。そんなもんだ!」
彼は力強く言った。僕はその言葉に想いが詰まってしまった。
「うぅ…。想いは想いのまま…。俺は思った通りに生きていいん?間違いじゃないんかな?」
その問いに対して泣き出した僕を笑い飛ばすかの様に彼は答えた。
「間違いかどうかはやってみて分かる事だ!お前も男だろう?今はお前の想う様に行動してみろ!」
「頼さんはなんでそんなに優しいん?」
どうして人の為にこんな事を言ってくれるのだろうか…?僕はありったけの想いで彼に言葉を発した。すると彼はまたもや強く、そして笑いながら答えた。
「優しいのどうのではない!俺はお前の事を仲間だと信じているから敢えて意見しているまでだ!今のお前とこれ以上問答しても埒があかん!後は自身で考えて行動しろ!さらば!」
彼はぶっきらぼうに言い飛ばして電話を切った。それが僕に対する彼の優しさだと分かっているから不快には思わない。寧ろそんなざっくばらんな彼の性格が大好きだった。
彼との電話を切った今、混沌とした心が嘘の様に晴れ晴れしい大空の如く澄み渡っていた。頼さんの言葉に感謝し、想いをかみ締めながらトース宅の電話番号を押した。
これから起こりうる出来事に夢を抱いて…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます