第9話 第三章 困惑

 最後の授業が終わり、放課後となった。


 クラスメート達は息つく暇もなく参考書に目を通しながら、講義の担任が来るのを静かに待っている。


 時は中間テスト直後、どこのクラスも一緒なのだろう。放課後だというのに学校中がやけに静かである。


 一つ物音を立てようものなら一斉に睨みつけられると思うほどクラスは静寂に包まれていた。  


 いつもの様に最後の授業中に帰り支度をさっさと済ませていた僕は、皆の殺伐とした雰囲気をバシバシ感じながらそそくさと教室を後にした。


 今からトースの家へ早急に向かわなければならないのだが、どういう訳か心は暗雲が立ち込め、足取りはかなり重かった。


 今朝の僕というと、近年まれに見ない程の上機嫌で学校へ向かい、仲間達に昨夜起こった突然の出来事を大いに語った。


 僕とトースの間にはまだまだ問題ありきだが、少しは皆も安心しただろう。

 しかし昼休みに今度は周りを巻き込んでの事件が起こった。


 いきなり疾風の如くトースが僕らの集団へ乱入してきて、不可思議な行動を次々と繰り出し、呆気に獲られている隙に放課後トースの家でバンド加入の面接を受けると、半ば強引に承諾させられてしまった。


 周りが騒ぎ出す前にトースはさっさととんずらをかましており、皆が困惑しているのを必死に、慎重、尚且つ大胆に宥めてなんとか事無きを得た。

 そして一息ついた心地もせぬまま、午後の授業へと突入した。


 いつも通り受ける何気ない授業中、僕の中にふと得体も知れぬ不安がふつふつと込み上げてきた。


 何に対しての不安なのかは分からないが、とにかく戦慄きが止まらないのだ。

 初めは余り気にしないでおこうと自分に強く言い聞かせていたのだが、時間が経つにつれ、まるで風船の様に膨張していき、やがてそれは巨大で鋼鉄の様に硬い物体と化し、僕の心の中に居座ってしまった。


 普通に考えればあの様な事があった後なので、戸惑い隠せない自分がいるのではないかと思うのだが、それにしてもこの戦慄きはどう考えても異常である。


 一体なんなのかと考えても、一向に不安要素が見当たらない。


 訳が分からず感情の整理もままならない状態で今に至っているのである。

 思考は停止寸前で、目の前の物体全てが無機質に映る。

 まさに『我、心此処に在らず』とスポーツバッグをずるずると引きずりながらなんとなく前へ進んでいた。


 気かつくと僕は自転車置き場の手前にある中庭に立っていた。体を揺らつかせながら中庭の真ん中にある池まで進んで行き、力なく池の側にしゃがみこんだ。


 暇な時は用務員さんに変わり放課後餌を与えていたので、僕の姿が見えたと同時に  鯉どもが一斉に寄ってきて一生懸命口をパクパクさせている。そんな姿を何も考えず、ただ見下しているだけであった。

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