第7話 第三章 困惑

 雨の日も、風の日も、何故か皆は他のクラスメートが登校する次の日の朝、僕はいつもより早く登校する事にした。仲間達に昨日起きた出来事を早く伝えたかったからである。


 遥か前から登校しており、いつか「お前もたまには早く登校してみたらどうだ?」と皆に言われていたのだ。


 昨日早く寝ていた訳で、とてつもなく早い時間帯に爽快な目覚めを遂げてしまった。


 ふと窓際に立ち、朝焼けに照らされる中『遂にその日がやって来た。』と思えて、早朝の登校へと至ったのである。


 登校の足取りは軽く、いつもより二倍くらい早い時間で学校へ到着できたと思えた。

 僕は急いで教室へと走っていき、勢い良くドアを開けた。


「おっはよぅ!」


 予期せぬ時間帯の僕の登校と、あまりにも勢い良くドアを開けすぎた為に起こった爆音で皆は皆灰色となった。


「あれ?どしたん?もしもーし!」


 時が止まっている皆を激しく揺さぶらせ、ようやく気がついた。


「どしたん?バリ早いやん。」


 ひょろっとした体格であるが、やたら高い背を揺らめかせて、高島文雄(通称 フミ)が話しかけた。


「いやな、昨日色々あってな。皆に聞いてもらおか思て早よ来たんよ。実はな…。」


 昨日起こった出来事を事細かく語った。

 全部話し終えると、皆は腕を組み、少し考える風に眼を閉じた。


 朝の爽やかな光が教室内を包み込んでいる。部活動の朝練習を終えたクラスメートがワイワイと何名が教室へ入ってくると、神妙に話し合っている僕達の姿を見て、一瞬息を呑んで黙って席へと座った。


「じゃけん言うたろ?妙に気にする必要もなかったんじゃって。まぁ、良かった事にせな。」


 タクが優しく僕に言った。

 穏やかな話の内容であると思ったのか、他のクラスメイトがほっとした表情で他の友達の所へ向かおうと席を立った瞬間、頼さんが用兵の様な顔をより強張らせて席をバンっと叩いた。


「しかし面妖な話ぞ。いくらメンバーに唆されたとて、友人を欺き、誘き寄せるなど言語道断。岡田はこの先どうするのだ?」


 叩いた机の音と、頼さんのドスの効いた声に他のクラスメートはまたもや動けなくなり、自分の席に座りつくしていた。


 その先の事を深く考えないまま話してしまった為、正直その問いには少し困ってしまった。


 皆は早く答えを聞かせろと言わんばかしに僕の顔を覗き込んでいるので、目を泳がせながら答えた。


「実はまったく考えてないんよ。バンドやりたくないと言や、嘘になるしなぁ…。トースには他のメンバーに話聞くって言ってもーたしなぁ…。他の人らがどんな人かもまだわからんしなぁ…。」

「でた、いつもの優柔不断モード…。」


 フミが静かに呟くと、それに合わせて他の皆は深くため息をついた。またそれに釣られて他のクラスメートもため息をついた。


 只ならぬ雰囲気の中、まだ高校生なのに深みのある渋い声の持ち主である宮川勝夫(通称 かっちゃん)が僕に話しかけた。


「とにかく、この先どうするかは君次第だ。今ここで話し合っていても埒が明かないという訳だ。トースの報告を待っていたまえ。」


 皆もかっちゃんの言葉に然りと頷いて僕の顔を見た。僕も頷いてこの先の事を自分なりに深く考える事にした。


 朝早く登校し、事の相談をできてよかったと正直思え、仲間達への感謝の気持ちに包まれた。


 そうこうしている内に他のクラスメートが雪崩の様に押し寄せてきて朝礼のチャイムが鳴った。

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