第2話 序章 告白

 トースとは昔から馴染みのある友達で、小学生の時は近所にあったゲームセンターで、とあるゲームにいつも心を焦がしていたゲーセン仲間。


 中学生の時は一緒にテニス部に入部をし、入部から卒部に至るまでずっとバディとして僕が前衛、彼が後衛を受け持っていた。


 僕達が志願してそうなった訳ではなかったが、入部当初からいつも二人で行動していたので顧問の独断と偏見でそうなったらしい。


 特に努力もしていなかったので常に補欠の位置を決め込んでいたのだったが、最後の大会で、何故かベスト8という好成績を残して周囲の部員を沸かせた。


 ここまではよかったのだが、高校入学と同時に彼との行動にずれが生じだしたのだった。


 ようやく高校生活にもだいぶ慣れてきた五月下旬に事件は起きた。


 彼とはクラスが別だったのだが、休み時間によく廊下で立ち話をしたり、帰宅する時もよく行動を共にした。


 温かい日ざしが僕らに降り注ぎ、平和という感情をとふつふつと感じていた。スナック菓子を頬張りながらのんびり家路を進んでいく。


 彼は自宅にたどり着く少し手前で、いきなり笑顔になり、希望に満ち満ちた表情で足を止めた。


「俺な、楽器でもやってみよか思とるんよ。」


 彼の突然の告白に少し驚いたが、ゲーム以外の新たな趣味を持つ決意をした彼に喜びを感じた僕はその意見に大きく賛同した。


 彼はうれしそうに家へと入って行く姿を確認し、その出来事に喜びをかみ締めながら一人で家路を急いだ。


 その夜一本の電話が鳴り、風呂上りだった僕は髪を拭きながら電話に出た。その電話は中学の時テニス部で一緒だった同輩の石井菊次郎(通称 菊ちゃん)だった。

 彼は少し焦った様子で僕にこう尋ねてきた。


「なぁ、高島最近なんかあった?」


 何故か焦る様子の彼に思わず僕は首を傾げた。


「今日も一緒に帰ってきたけど何もなかったと思うで。楽器始めるとかなんかしらん言よったけどな。」

「楽器始める言よったんじゃな?今日な、高島見かけたんじゃけど…。」


 菊ちゃんは目撃してしまったトースの妙な行動について語り始めた。


 どうも塾帰りだった菊ちゃんは寒空の下、自転車で帰宅していた。


 丁度この街で唯一楽器を販売している店『オオサカ堂』の横を通りかかった時、ふと飛び込んできた場面があった。


 それは急いで自転車を飛び下り、店に入っていくトースの姿だった。


 話かけようと彼も店の中に入ると、トースはエレキベースが置いてある場所で息を切らせ、蒼白した面持ちで立ち尽くしていた。


 その後ろ姿に違和感を覚えた菊ちゃんは思わず声を掛けようと手を差し伸べたその時、トースは吐息を軽く漏らしながらいきなり一本のエレキベースを手に取り、完全に沈黙した。


 どきどきしながらその姿を見つめていると、遂に沈黙を破ったかの様にカッと眼を見開いてカウンターへと走って行き、商品を差し出した。


 会計を済ませて店員さんにへへっと軽く笑み「これで一華咲かせちゃるけんね。」と一人ごちて急いで店を出ていった。


 店員は騒然とし、店の雰囲気は困惑を極めていた。


 菊ちゃんは何事もなかったかの様、店を後にして、帰り道にある公衆電話から僕に電話をしてきたのだと言う。


 過去にも同輩や後輩から彼の奇妙な行動について幾つか問われた事はあったが、僕の前ではそんな行動は見せた事はない。


 直接その現場を見た訳でもないし、焦って話す彼の口調が聞き取りにくいせいもあって、その時はいまいち状況が掴めなかった。


 あまりにも驚いている様子なのでこりゃいかんと思った僕は、無理やり話題を変え、話を有耶無耶にして電話を切った。

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