プレゼン
「結局僕と会いましたけどね。
ところで相談と言うのは?」
「その話よ。もう別れたいの」
「もちろん、不倫なら別れるべきです」
亮は強く言った。
「そうよね・・・」
智子はどうやって別れていいか分からなかった。
「不倫相手と別れたいのですね」
智子はうなずいた。
「気持ちの問題だと思います。
別れて問題なければ」
「いいわよ。別れるわ。
でも責任取ってくれる?」
「どんな責任ですか?」
「そうね、私を寂しくさせない事」
「それって付き合うと言う事ですか?」
「そうかなあ、うふふ」
智子は亮の頬に顔を付けた。
「それは・・・」
亮は何と言っていいか返事に困った。
「じゃあ、当分セフレだけでも良いわ」
「僕とすると離れられなくなりますよ。あはは」
亮はまじめな雰囲気になりそうだったので
笑ってごまかした。
「いいわよ」
「会社でばれないようにできますか?」
「うふふ、男はみんなそう言うわ。
いいわよ。ばれるようなら私会社辞めるわ」
「わかりました。今日は智子さん酔っているし
もう遅いから明日のプレゼンの後でいいですか?」
「いいわよ。明日はあいつと会う日
だったけどすっぽかすわ」
「わかりました。明日、しっかり
エスコートさせていただきます」
「うふふ、じゃあカラオケ行こう」
智子はそう言って亮の手を握ると
亮の元にLINEが来た。
「千成さんが今から来るそうです」
「千成さんって松本の?」
智子はまだあった事も無い千成が
突然こちらに現れるとは思わなかった。
「はい」
「知り合いなの?」
「はい」
亮が答えると入り口にキョロキョロと
周りを見渡している男が立っていた。
「彼?」
智子が指さした男は頭がボサボサで
丸いロイドメガネをかけ
ワイシャツに黒のニットタイをしていた。
「はい」
後ろを振り返った亮は
手を男に向かって手を振った。
「亮さん、ご無沙汰しています」
千成は嬉しそうに笑って亮に頭を下げた。
「茂吉さんも元気そうですね。
こちら先輩の大原智子さんです」
「初めまして大原です」
智子は立ち上がってお辞儀をした。
「さあ、どうぞ」
千成は智子の脇に座ってもじもじ
していて落ち着かず
目線が智子のミニスカートのから
出る太ももに行って顔を赤らめた。
「何かお飲みますか?」
「はい、ビールを」
智子が気遣い飲み物を聞くと
千成は嬉しそうに答え、三人で乾杯を
すると亮は不安そうな千成に話しかけた。
「茂吉さんのうちに部屋は
用意してありますよ」
「ああ、ありがとうございます。
急な転勤で部屋がまだ借りられなくて」
智子は今日の辞令で亮が千成に自分の家
に部屋を用意するのが早すぎるような
気がしていた。
「会社の方へ行きましたか?」
「いいえ、急な移動で引き継ぎに
時間がかかってしまってさっき
到着したばかりですから、
明日から出社します」
智子は茂吉が研究者であって
営業をさせるのは酷に思えた。
「あのう、今回の化粧品の開発は千成さんが?」
「はい、私は開発メンバーの
一人です。亮さんと・・・」
千成が智子の問いに答えると
亮が首を振ってその先を止めた。
「量産化の数字を出すのは
うちの課の営業次第ですね」
亮はそう言って千成の話を差し替えた。
「そうか、ラインの数字を出すのは
私たちの責任なのね」
「はい、化粧品系は一つの窯で
それなりの量を作るものですから
それなりの本数を販売しなければなりません」
「初期出荷はどれくらい?」
「原料代、器代、パッケージ代の
採算分岐点は1万セット。
この中には宣伝広告費、開発費、我々の給料は
含まれていません。まして化粧品、シャンプーの
充填機の設備投資の償却を考えると10年は
続けなければならない事業です」
「それじゃあ、課長たちがむきに成るはずね」
「ええ、言うまでもありませんが
化粧品の研究開発費でも
数十億円かかっているはずですから」
亮は製薬会社が一番お金を掛けているのは薬の
研究開発費であるが、今回の化粧品には
臨床実験がいらないために、研究費が
数十億円程度で済んだ事を言いたかった。
「これだけの事業をたった7人の企画営業課に
委ねるなんて変じゃないですか?」
「あはは」
千成茂吉が突然笑い出した。
「どうしたんですか?突然笑い出して」
「亮さん、大原さんは頭が良い」
茂吉は亮の肩を叩いた。
「えっ?」
智子は亮と茂吉の顔を見た。
~~~~~
2年前亮はDUN製薬松本研究所にいた。
「こんにちは」
亮は研究室に入って頭を下げた。
「ご苦労様です。一時帰国ですか?」
所長の小川が亮と握手をした
「はい、9月まで3ヶ月夏休みです。
進行状況はいかがですか?」
「ええ、上手くいっています。
先日ローズマリーの抽出に成功して
主成分の1つにしています」
「それは良かったですね。
これがブルガリアから
輸入が決まったローズの精油です」
亮は小川に小瓶を渡した。
「いい香りですね。とても力強いバラの香りです。
これを商品に添加するんですね」
「はい、お願いします」
亮が小川に頭を下げると小川が男を呼んだ。
「今度化粧品の研究メンバーに入った千成君です」
「よろしくお願いします」
茂吉が亮に頭を下げた。
~~~~~~~
「実はこの商品、植物からの
抽出方法に特許が下りています」
茂吉が自慢げに言った。
「それでは他社にはできない商品なんですね。
じゃあ、それを表に出せば楽勝じゃないですか」
「いいえ、シャンプーに特許が
下りている訳じゃありませんから
そんな事売り物にしても
しょうがありません。
とにかく、成分のクオリティが
高いのでいい商品である
事みんなに知ってもらう事が大事だと思います」
「それで評価に厳しい美容学校に
営業するわけね。
どれくらいの数が見込めそうなの?
でもヤマト美容専門学校の経営している
サロンは20軒しかないわよ」
「いいえ、2万軒あります」
「2万軒!」
「はい、ヤマトは卒業生の経営している
2万軒の美容室に商品を卸しています」
「そうかなるほど」
智子は亮に言われて納得したが
入社したての亮が美容業界、
製薬業界にあまりにも
詳しい事が不思議でしかたが無かった。
「そろそろカラオケでも行こうか!」
智子が声出して手を上げた。
~~~~~
翌日亮は智子と千成と代々木にある
ヤマト美容専門学校へ向かった。
企画経営課は今井課長とその他の
課員は亮たちを無視し鈴木萌奈だけが
小さく手を振っていた。
ヤマト美容グループの校長は創設者の
山都明子の孫のジュディが継いでいる。
校長室に入った亮たちは、
若く美しい校長に驚いた。
細身で背が高く上品な顔立ちは美容界の
カリスマとなる資質を十分に備えていた。
千成は研究員として製品のナチュラル
成分の解説と効能を説明し
亮はその商品を使うメリットをジュディに伝えた。
「これが新商品のシャンプーとトリートメントですね、
当社の直営店と高等科の研究室生に
早速テストさせます。テストして良かったら、
取り扱わせてください」
「ありがとうございます」
亮と智子と千成が頭を下げた。
「ところで松平さん、一緒に実習室に
来ていただけるかしら?」
「はい、何か?」
「このシャンプーを使ってみます」
ジュディは電話で女性を呼んだ。
その女性は亮の首にクロスをかけ椅子を倒し
亮の頭をシャワーで濡らした。
そこに亮の持ち込んだシャンプーを
頭にかけ指の先で亮の頭を
洗い始めた。
「雨宮さん、どうですか?」
シャンプー台脇に立っていたジュディが聞いた。
「泡立ち、汚れ落としは申し分ありません。
そして香り素敵です」
雨宮はシャンプーを終えると亮の頭に
タオルを巻いて椅子を起こした。
「お疲れさまでした。本当に良いシャンプーです」
雨宮が亮の耳元で囁いた。
「ありがとうございます」
「髪を乾かしますね。
それで少しカットさせてください」
雨宮がそう言うとジュディが目で合図を送った。
10分後、亮は鏡に映っている
自分の姿を見て髪を触った。
「どうして?」
亮はアメリカでしていたヘアスタイルに
あまりにも似ていたので
驚いていて振り返るとジュディは
腕を組んで微笑んでいた。
亮が応接室に戻るとその姿を
見て智子が息を飲んだ。
「あっ!」
「どうも」
メガネを外し髪の分け目を無くした
ショートヘアの亮は爽やかだった。
「松平君、素敵!」
智子は思わず声を上げた。
「うちの銀座店のチーフの雨宮です」
ジュディは三人に雨宮裕子を紹介した。
「雨宮裕子さんってマスコミで有名な
カリスマ美容師さんですよね」
智子は雨宮の名前を知っていた。
「はい」
雨宮の代わりにジュディが返事をした。
「テストの結果は来週連絡をします」
先程まで微笑んで話をしていた
ジュディが真剣な顔で話をした。
「よろしくお願いします」
そう言って帰ろうとした亮の
腕をジュディが引いた。
「今度は一人で来て、色々話しもあるし」
「わ、わかりました」
亮は高圧的な物言いをするジュディが怖かった。
~~~~~
その日の夜、亮と智子は銀座美宝堂の
8階のローラン・ギャロスで会った
「ここ金曜日の夜なのによくリザーブできたわね?」
智子は驚いて亮に聞いた。
「ええちょうど席が空いていたもので」
「そうなんだ」
智子は、プリーツのミニのベージュの
ワンピースを着て綺麗な足を出していた
「大原さんいつもミニなのですか?」
「ええ、だめ?」
「いいえ、好きです。大好きです」
亮は顔を赤らめた。
「ありがとう。松平君髪をカットしたら
すごくかっこよくなったよ。
それにメガネを外したら
思った以上に目が優しいのね」
「ありがとうございます」
「あんなにダサい格好していたの
ワザとじゃなかった?」
「と、とんでもない。僕は営業ですから
ちゃんとした格好しないと」
亮は背筋を伸ばして真剣に智子に答えた。
「ま、まさか。営業の人間は7、3に
髪を分けないといけないと
思っているわけじゃないわよね」
「そう思っていますけど・・・」
「あはは、今どき頭を7、3に分けている
のはBリーグの選手くらいよ」
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