今井課長

「はい、色々と」

智子は今井がセクハラ疑惑で

埼玉工場の商品管理をしている

しているのを知っていた。

「今井君は能力のある男なんだ。

もう一度チャンスをやってくれないか」

元今井の上司鹿島は亮と智子に頭を下げた。


販売企画課は期待と膨大な

仕事量の為に個室が用意され

亮と智子が荷物を持ってそこに入ると

今井がテーブルの上を片付けていた。


「大原君と松平君だね。

私が今度この課を預かる今井だ」

「はい、よろしくお願いします」

亮と智子がほぼ同時に頭を下げた。

「そろそろ、他のスタッフも来る頃だ。

二人は並んで座ったほうがいいな、

同じ課だったからね」


「はい」

「失礼します」

亮たちの同僚、鈴木萌奈が荷物を持って入って来た。

「萌奈ちゃんも来たのね」

「うん、この課の総務全般をやってくれって」

「うん、必要必要」

智子は納得してうなずいた。


「失礼します、営業一課から来た日村です」

30代前半のバリバリの営業マン風の男だった。

「失礼します、営業二課から来た保坂奈緒美です」

20代後半の派手な感じの女性だった。

「宣伝部から来た田畑喜代子です」

20代半ばの真面目そうな女性だった。


全員が揃うと今井が全員をミーティングルームに集めた。

「今日からスタートする企画営業課は、

日村君、保坂君、田畑君、鈴木君、大原君、

松平君、まだ到着していないが松本の

研究所から来る千成君の7人のメンバーで

我が会社が初めての基礎化粧品を扱うことになった。

今までと全く違った営業体制を

作っていかなければならない。よろしく頼む」


今井は新課長として課をリードして

行こうと言う意気込みがあった。


「いいですか?」

亮が手を上げた。

「なんだ?」

「広告代理店はどこを使うんですか?」

「うちの取引先は大手代理店、電公堂か白宝社だが」

「では二社のコンペですか?」

広告に詳しい田畑が言った。


「時間を短縮するために一社に決めたい」

「電公堂に御神仁さんと言う

クリエイティブディレクターがいるんですけど、

彼がやってくれば

満足いく物を作ってくれるはずです」

田畑はアメリカでクリエーター・オブ・

ザ・イヤーを取った御神仁を推薦した。


「その名前は私も知っているが忙しい

御神仁さん指名でやってくれるのだろうか」

「一応、電公堂さんに連絡をしてみます」

今井の質問に田畑が言うと亮が笑った。

「どうしたの?ニヤニヤして」

亮を見た智子が首を傾げた。


「課長、パッケージができるまでパッケージ無しでも

出来る営業はしてもよろしいでしょうか?」

亮は新人社員ながら先輩を差し置いて

頭に浮かんだ意見を言った。

「ん、どこだ?」

「美容院関係です。大型美容室なら

ノンブランド、オリジナル商品として

実際に美容師が使って効果を見せて営業しています」


「そうかじゃあ、君たちはそっちの方から

営業してくれ、残りのメンバーは

 商品のネーミング、デザイン、

広告のアイディアを出してくれ」

美容院ごときに商品を売っても

大した売り上げにはならないと

思っている今井は亮の自由にさせた。


亮と智子を除いた残りの人間は商品作りから

販売して行く計画を遂行して行く事になり

みんなを残し二人はミーティングルームから出た

「簡単にやらせてくれるわね」

「商品ができるまで待っているよりも、

少しでも動いている事を上に

報告したいんじゃないですか」


「そうね。やはりあれかな・・・」

智子は企画営業課のスタッフは優秀な

人間の集まりでは無い事に気づいた。

「あれって?」

「テレビドラマにある設定だよ」

「掃き溜めですか?」


「しっ!聞こえるわ」

「すみません」

「松平君、今夜飲みに行くんでしょう」

「えっ、覚えていたんですか?」

「当り前まえよ。給料まだだろうからおごってあげる」

「じゃあ、お店は僕が決めていいですか?」

「うん、高くなければいいわよ」

「了解」

亮はそう言うとパソコンに

向かって企画書を書き始めた。


亮が決めたお店は池袋東口の

新築ビルの2階にある焼肉屋だった。

「えっ、焼肉屋なの?」

智子は焼肉が不満だった。

「焼肉は高いですか?」

「ううん、焼肉は臭いから・・・」

「ああ、すみません。それでは」


亮は智子が意外と神経質だった事に気づき

食べて飲める5階にあるダイニングバー

Ce platへ連れて行った。

「良いところね。池袋は地元なのに

このお店気づかなかったわ」

「この店は4月にオープンしたばかりです」

「どうりで・・・」

亮は店に入ると何も言わず奥のテーブル席に座った。


「この席でいいの?」

「予約席ですから」

「えっ?」

智子が焼肉屋を断ったばかりなのに

なぜが予約席に座れたか不思議だった。

一通り食事を頼むと亮と智子がシャンパンで乾杯した。

「さっそくですが、日本の美容室の数が

約23万軒、東京だけで約2万軒あります」


「意外と多いのね」

「ええ、歯医者さんの4倍、コンビニの5倍弱です」

「じゃあマーケットはかなりあるんだ」

「美容室はいまだ80%が個人経営で

美容用品問屋から買っています。

ですからまず問屋さんへのアプローチが良いかと」


「そうか問屋さんか・・・」

智子は問屋を通すと言うことは卸価格を

下げなければならない事がわかっていた。

「美容用品はハサミ、コム、ドライヤー、

クロス、タオル、ロッド、クリップ、ゴム。

残りは消耗品のパーマ液、パーマ用のペーパー、

ヘアカラー液、シャンプー、トリートメント」


「思ったよりアイテムが少ないのね」

「アイテムは少ないですけどシャンプー、

トリートメントの競合他社がたくさんあります」

「ふう、思ったより難しい。やはりデザインを待って

広告と一緒に営業をした方が楽ね」


大手企業に勤めている智子も地道な

営業に乗り気はしていなかった。

「他にいい方法は無いかしら?」

「はい、チェーン店の大手の中には

100店舗以上持っていて

年商100億円を超すところがあるんです」


「そこに商品を売る事が出来たらすごい売り上げになるわね。

でもかなり良いものでないと・・・」


「はい、このシャンプーはノンシリコンで

植物由来の成分が90%入っています。

 このシャンプーの最大の特長は漢方が

入っていて毛根を強くするんです。

 歳を取ると髪に力がなくて頭頂部が潰れてしまうので、

それを防ぐ力をもっています。


 もちろん若い女性は潤いと艶やかなに、

ヘアカラーでパサパサな髪にも効果があります」

「えっ?」

智子は初めて聞いた話に資料を見直した。

「どこに書いてあるの?それ」

「成分表を見てだいたいわかりました、

薬学の勉強をしていたので効果は推測できます」


「そうか・・・さすが」

智子は亮の説得ある話に納得した。

「大原さん、どう思いますか?」

「製薬会社が作った化粧品は信用があるから

プロ用としての営業は良いと思う。

最初にどこへ行けばいいかしら」


「美容専門学校です。実は明日アポ取ってあります。」

智子は亮が病院への納品実績を

上げているので営業能力を信用していた。


「そう言えばこないだの新歓、女性たちみんな

残念がっていたわよ。本命がいなくて」

「本命?」

智子が亮を指差した。

「僕ですか?」

「あなたの所に結構社内メール来るでしょう」


「ええ、合コンの誘いが週末に」

「どうして、参加しないの?」

智子は多少ダサくても高学歴でモテモテの亮がどうして

合コンに参加しないか不思議だった。


「実は日本にいる間、合コンと

かカラオケに行った事無いんです」

「本当?学生時代なにやっていたの?」

「もちろん学生だから勉強です」

亮の返事に智子はなんて言っていいか分からなかった。


「そりゃそうだけど、アメリカでは?」

智子はアメリカの大学生は相当遊んでいるように思えていた。

「そうですね、何よりも勉強の量が

半端じゃないです。授業中は指されるし、

宿題のレポートが毎日のように出ます。

それにアメリカの大学生は

学費を自分で稼いでいるのがほとんどですから

アルバイトをしたり長期インターシップに入ったり」


「へえ、パーティばかりやっていると思っていた」

「あはは、それは週末だけですよ」

「留学すると言う事はお金持ちよね。

松平君実家何やっているの?」

「父は貿易商やっています」

「えっ。かっこいいわ」

「ほとんど利権だけなので、小さな会社ですよ」


「でも凄い、ご兄弟は?」

「二人の姉が宝石店とブティックやっています」

「それで宝石鑑定士なんだね」

智子は亮の裕福な生活ぶりがうらやましかった。

「せっかくアメリカに行ったんだから

手ぶらでは帰ってこられませんからね」


普通語学力の関係で大学だけでも精一杯なのに

宝石鑑定士の資格を取ってくるとは

亮の責任感は大変強い物だった。

亮がアメリカでの女性関係は不明だが

智子は酔うに連れて亮を誘い始めた。


「私、会社の男性と二人きりで飲むのははじめてなの」

「あっ、じゃあ噂は本当なんですね」

「噂って?」

「大原さんにはイケメンで金持ちの

彼がいると言う噂です」

「あはは、そんな噂があるんだ。

学生時代彼がいたけど。

今はいないわ。男はいるけど」


「男と彼はどう違うのですか?」

「ここだけの話。私不倫しているの」

亮はこんなに美しい女性が不倫をしていると聞いて

心臓がドキドキとした。

「う、うちの会社の人ですか?」

「ううん、商社の人。就職活動の時関係を持って、

それでうちの会社へ入れてもらったの。

今は、会うたび機械的に抱かれるだけ」


「どうやってうちの会社に?」

「彼にうちの会社の人事部に知り合いが居たみたい」

「松平君はいるの?彼女」

「ええ、アメリカに・・・」

亮は複雑な絵里子との関係を説明するのは大変だった。


「何々、気になる。どんな人」

「ええと歌が上手くて(尚子)

金髪で(パティ)巨乳(ジェニファー)です」

「そうかそんな素敵なんだ、私嫌になってきちゃった」

「何を言っているのですか大原さん、

優しくて気遣いのある女性で魅力的じゃないです

社内で誘われないのですか?」


「誘われるわ、でも不倫しているからつい断っちゃうの。

だからこんな雰囲気は初めて・・・」

「光栄です」

智子は亮の肩に持たれ掛かった。

「昨日だって松平君が来ると言うから

大橋君達の飲みに行ったのに・・・

 ああ、良く覚えていない」

智子は自分の頭を叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る