救出
「そうですか、ありがとうございます」
亮の頭の中には池袋の地図が浮かんだ。
「池田さんすみません、今日はここで・・・」
亮が渋谷駅改札で直子に頭を下げた。
「私も池袋まで連れて行って、
もしもの時には役に立つと思う」
「そうですね、お願いします」
亮は看護師が傍にいて心強く思った。
「山手線外回りで池袋まで17分、
駅から店まで徒歩2分。
酔っぱらいを連れて歩くと20分で
半径500m。東口のラブホテルは
3軒か・・・」
「その前にカラオケとか行く事は無いのかしら」
亮の独り言を聞いていた直子が聞いた。
「電話の様子ではとてもカラオケなんか
歌える状態じゃないと思います」
「それは心配だわ」
「シャングリアの場所から一番近いのは
サンシャイン通りから右に曲がったところです。
そこへ向かいましょう」
「ええ、ずいぶん詳しいのね。池袋のラブホテル
何度も行った事があるみたい」
直子は自分が日本に帰って一人目の
女と言うのが嘘だと疑っていた。
「えっ、違います、違います」
亮がいい訳をしようとしているとLINEが入って来て
それを読んだ亮はLINEのやり取りを始めた。
「池田さん、間に合いそうです」
亮はニコリと笑って池袋のホームに降り速足で歩いた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。看護師は足が丈夫なんです」
「そうですね」
亮と直子がサンシャイン通りを
早歩きして右に曲がると
ホテルルイスの前に大橋が智子の
腕を肩に回し持ち上げるように歩き
智子のミニスカートのワンピースは
めくれ上がって尻が見えていた。
「あっ、いた」
「えっ、前の二人?」
「はい」
亮は大橋と智子の元に行こうとすると
智子がそれを制止した。
「私に任せて」
そう言って直子は小走りで智子の方へ向かうと
急に引き返してきた。
「名前なんて言うの?」
「大原智子です」
「了解」
直子は智子のところへ駆け寄った。
「智子!」
直子が回り込んで大橋と智子の前に立ちはだかった。
「智子、お久しぶり」
直子が智子に声をかけると大橋はそっぽを向いていた。
「こんばんは、これからどこへ行くんですか?」
直子は大橋に声をかけた。
「ええと、酔いすぎたのでどこかで休ませようかと」
大橋は目の前のホテルを見た。
「私が家まで送っていくわ」
「いや、酔いが醒めたら家まで送ります。
会社の同僚ですから」
「ねえ、あんたこのまま智子を
ホテルに連れ込んでやったら
準強制わいせつ3年以上の懲役、
わかっているんでしょうね。
それにこのまま歩いていると警察に職質受けるわよ」
直子は声を荒げて凄んで見せた。
「はあ、はい」
大橋は慌てて肩の智子の手を下し
直子は智子の腕を自分の肩に担いだ。
「ほら行きなさいよ、智子には黙っていてあげるから」
「はい、すみません」
大橋は逃げるように帰って行った。
「ありがとうございます」
陰に隠れていた亮が直子から智子の腕を取った。
「タクシー止めようか?」
「いいえ。車が来ています」
サンシャイン通りの出口に黒塗りの
高級車が止まっていて運転手が
ドアを開けた。
亮は智子を抱き上げて車の奥に座らせその脇に
智子が座り亮は前に座った。
「ねえ、この子酔っているだけじゃないわ」
「えっ?」
「こんなに意識が無くなるほど酔ったら
急性アルコール中毒になってしまうもの」
直子は智子の手首に指を触れ心拍数を数えていた。
「やはりそうですか」
亮は同僚の大橋を疑いたくなかったが、
何か怪しい事を智子にしていたのではないかと
思っていた。
「おそらく超短時間型のハルシオンじゃないかな。
即効性があって効果が2時間から4時間で
覚めるもの早いから」
「さすが看護師、詳しいですね」
「うふふ」
「でも、なんてお礼を言えばいいか?」
亮は直子に深々と頭を下げた。
「その代わりまた会ってもらうわよ」
「了解です」
直子は池袋駅で降り亮は智子の家のある練馬に向かった。
亮の膝枕で熟睡していた智子が目を覚ました。
「ここどこ?」
「大原さんの家に向かっています」
「あっ、松平君」
やっと状況がつかめた智子が体を起こした。
「あれ、私誰と飲んでいたんだっけ?」
直子の言った通り智子は飲んでいた時の
事をまったく思い出せなかった。
超短時間型の睡眠薬は健忘が出やすい
副作用がるのが原因かと思われた。
「あまりフラフラだと家の人に変に思われませんか?」
「大丈夫。もう全然眠くないわ。
ちょうど良かった、あなたを家族に
紹介するチャンスだわ」
「えっ?」
「松平さんあなた東大薬学部、
ハーバード大学院卒の超エリートでしょう。
憧れちゃう」
「ばれていましたか、別に隠していませんでしたけど」
「そうか。女子ネットワークで
情報が伝わってきたわ。それにあなたは
いるだけで人を引き付けるオーラがあるわ、
あなたなら私を助けてくれそう」
智子は亮に首に腕を回して抱き付いた。
「助けるって?」
「二人きりになった時じゃないと」
智子は運転手の事を気にしていた。
「今度聞かせてください」
「じゃあ明日の夜に」
「わかりました。それよりずいぶんお酒に弱いんですね」
「ううん、そんなはずないんだけど大橋君と
木村君と飲んでいたら急に眠気がして」
「やはり睡眠薬か・・・」
亮はつぶやいた。
亮は大橋が智子の体を狙って睡眠薬を
飲ませたのではないかと疑り
、腹立たしくてしょうがなかった。
「ところで、どうして松平君ここにいるの?」
「大原さんが酔って歩いていたところを
警察が保護しようとして
いたところをたまたま通りかかった
僕が引き取ったんです」
亮はまったく口から出まかせを言った。
「えっ、えっ、私そんな恥ずかしい事を。
でもどうして大橋君達がいなくなったんだろう」
記憶が無くなった智子は混乱していた。
智子の自宅は練馬文化センター裏の閑静な住宅街あった。
「ただいま~」
智子と亮が玄関に入ると母親と妹が立っていた。
「お母さん、松平さんです」
「初めまして松平です。御嬢さんを
酔わせて申し訳ありませんでした」
亮は体を直角に曲げて頭を下げた。
「智子の母です。話はいつもうかがっていますよ」
「妹の陽菜です。お姉ちゃんが男性を
連れてくるのは初めてだよね」
亮は入社して間もないのに自分の
話をされているとは思わなかった。
母娘に羨望のまなざしで見られている
事バツが悪い亮は帰ろうと
ドアのノブに手をやった。
「夫がまだですが、おあがりになって」
母親がスリッパを出した。
「いいえ、車を待たせてありますのでここで失礼します」
亮は再び頭を下げ外に出て車の前に立った。
「まって!」
智子が追いかけて来た。
「今日はありがとう」
「今夜の事は大橋君に言わない方がいい。
彼にも事情があるかもしれないから」
「わかった。なんか女性がいたような
気がしたんだけど・・・」
「そうですか?」
亮が言うと突然智子が抱き付いてキスをした。
「また、明日」
亮が車に乗って家に向かうと亮が
運転手に向かって話した。
「中島さん、今日はありがとうございます」
「とんでもない、社長が海外出張中なので
暇をしていたところです」
「いいえ、大原さんの居所を探して
もらわなかったら今頃どうなっていた事か、
本当にありがとうございます」
「つかぬ事をお聞きしますが亮さん、
今のお嬢さんとお付き合いなさっているんですか?」
中島は亮と智子がキスをしているところを目撃していた。
「いいえ、会社の先輩なんですが。
きっと酔っていたからだと思います」
「そうですか」
中島はニヤニヤと笑った。
「僕の同期の男が彼女を酔わせて
悪さをしようとしていたらしいですよ」
「それは許せませんね、社長に言って
処分してもらったらいかがですか?」
「それが、父親が四菱銀行取締役の
息子でコネ入社らしいので」
「ひも付きとは面倒な事で」
「まあ、僕もコネ入社だけど。あはは」
亮は笑っていたが幸せそうな家庭の智子が
助けて欲しいと懇願した事が気になっていた。
「それでは池袋のお嬢さんとは?」
「ええまあ」
亮は今日関係があった直子の事を思い出して
曖昧な返事をした。
「早くお相手を決めてお父上を安心させてください」
「あはは、それを言ったら姉貴二人の方が
心配ですよ。二人とも気が強いですから」
「そうですね」
中島は笑いをこらえた。
「おはようございます」
翌朝、智子は何事もなかったように振る舞っていた。
「昨日はずいぶん酔っていましたね」
何も知らない木村が智子に話しかけた。
「ごめんなさい、迷惑かけたみたいね」
「いいえ」
木村は何も覚えていない智子に
ホッとして大橋の方を見た。
そこに亮と智子が鹿島営業部長に呼び出された。
「大原君、松平君。わが社が研究開発していた
基礎化粧品とヘアケア商品が出来上がった。
営業部に新たに販売企画課を作って販売をする事になった。
二人にはその課に今日づけで移動してもらう」
まだパッケージデザインが出来ていない
資料のみが渡された。
「商品はどこですか?」
「ここだよ」
茶色い薬品ボトルがテーブルの上に置いてあった。
「これって何もまだまだできていないと
言うことですか?」
「そう言う事だ、ネーミング、バッケージデザイン、
広告宣伝、販売までやってもらいたい」
「そんなにたくさんあるんですか?」
驚きで智子の声が裏返った。
「ああ、沢山ある」
「部長、こういう仕事今まで
誰がやっていたんですか?」
入社間もない亮は広告宣伝に
関しては全く知識が無かった。
「そうだな。販売までは広告代理店がやっていた」
「では今まで通り広告代理店に頼めばいい訳ですね」
「その通りだが広告代理店の選定と代理店の
プレゼンを受けてそれを判断するんだ」
新しく出来た課は社員の厄介者の
ゴミ場と相場が決まっていると
智子は思った。
「へんね、松平君がいるわよね」
先日東大、東都医大に新薬の売り込みに成功し、
超エリートの亮が隣に居ると言うことは
そうでは無いと感じた。
鹿島部長は亮より成績が悪いひも付き
大橋に忖度して
亮を移動させた可能性が高いと亮は思った。
「ところで他のスタッフは?」
亮はまさか二人でこんな大仕事を
やるとは思っていなかった。
「ああ、二人では難しいな。
まず上司の課長が元広報課の今井友則君だ」
「えっ、あの今井課長ですか?」
「知っているのかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます