第31話 コヒン茶と思い出の地に訪れたら変態が出てきた件

「…………ん、相変わらず可愛らしいわ! ああ…………あのつぶらな瞳、あのすべすべの肌………………んっ…………はぁはぁ……早く来てくださらないかな…………」




 ◇




 妹が採寸をしている間に僕は近くのカフェを訪れた。


 あまりカフェとか行かないんだけど、この世界にもコーヒーみたいな飲み物が存在していてコヒン茶と呼ばれている。


 味はコーヒーというよりはカフェラテに近く、少し苦みがありながら甘い飲み物だ。


 値段は意外にも高めになっていて、銅貨10枚になっている。


 感覚的に一杯千円って高いよな…………周りの客層を眺めても少し上流層の雰囲気がある。


「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」


「コヒン茶とクッキーをください」


「ありがとうございます」


 何となく窓を眺める。


 ――――――ゾクッ。


 背中に電気のようなモノが走る。


 な、なんだ!?


 誰かに見張られている!?


 周りを見渡しても僕を見ている人なんて見当たらないんだけどな…………。


「シルフィ、周囲を警戒してくれ」


【は~い】


 小さい声でシルフィに命令して待っていると、店員さんがコヒン茶を持って来てコヒン茶の良い香りがふわりと広がる。


 前世でもネットゲームをしながらコーヒーは嗜んでいた。


 母親が大のコーヒー好きで、僕に甘かった母親が毎日コーヒーを淹れてくれたのは懐かしい思い出だ。


 今頃母さん何をしているんだろうか………………。


【マスター、誰もいないですよ?】


「そっか、ありがとう。そのまま警戒お願いね」


【は~い!】


 久々のコーヒーの香りが口を通って行く。


 一瞬苦みがして直後に感じる甘さで口の中に幸せが広がる。


 何だか懐かしい。


 このコヒン茶の茶葉を大量に買い込もう。


 妹が淹れてくれたらもっと美味しいかも知れない。


 コヒン茶に浸っていると、カフェの扉が開いていつも見慣れている妹が恐る恐る入ってくる。


 小さく手を上げると、少し安堵した表情で小走りでこちらのテーブルに入って来た。


「お待たせ、お兄ちゃん」


「お疲れ、エリーもコヒン茶飲んでみる?」


 椅子に座る妹の髪がふわりと揺れて、好奇心に染まる瞳でコヒン茶を見つめる。


「一瞬苦みがするけど、甘くて美味しいよ」


「ちょっとだけ」


 僕のコヒン茶を奪いコヒン茶を口にする妹。


 一瞬の苦さなのか、珍しく眉間にしわを寄せる。


「あ~、癖になる味だね」


「でしょう? コヒン茶大量に買い込もうかなと」


「いいんじゃない? 私も飲みたいし」


 店員さんにコヒン茶をもう一つ頼み、帰りにコヒン茶葉を売ってくれと伝えると、販売所で売ってくれるそうだ。


 コヒン茶を楽しんだ僕達は帰り際の会計の時に、コヒン茶葉全数買い込んだ。


 店員さんが若干引いてたけど、好きなモノは大人買いに限るからね。




 店を後にして、妹が行きたい場所があるとの事で付いていく。


 広場の人波を乗り越えて、表通りを更に進む。


 少しずつ人波も減っていき、周りが二人で歩く人が増えていく。男女で。


 少しソワソワしながら歩くが、妹は全く気にする素振りもなく進むと、とある場所で足を止めた。


「やっと来れた………………」


 その場所に着いて妹は嬉しそうにそう話す。


「ここに思い出でもあるの?」


「………………うん。あるよ」


 全く記憶にない場所というか、この街に来た事すらないはずなんだけどな。




「ここはね。お父さんがお母さんにプロポーズした場所なんだって。お母さんに聞いていたの。だからこの街は一目見ておきたくて」




 そういう事か。


 お父さんとお母さんが結婚を誓い合った場所という訳か。


 それがなければ、僕も妹も生まれてないから、そういう意味では思い出の場所になるね。


 暫くベンチに座り、お父さんとお母さんの思い出を楽しそうに話す妹。


 記憶にはあるが、どこか他人事にも聞こえるエピソードを聞きながら綺麗な夕焼けの景色を楽しんだ。




 周りの景色もすっかり暗くなり、街にも夜が訪れた。


 意外にも前世で見られる街路灯に光が灯る。


 これも大型魔道具の一つで、暗い夜を照らしてくれる。


 周りに大勢いたカップル達もすっかり姿を消して、カップルに溢れていた場所に静けさだけが残る。


「お兄ちゃん、そろそろ帰ろうか」


「そうだな」


 僕達が立ち上がりその場所を立ち去ろうとしたその時。


 二つの影が闇の中から現れた。


 足音一つなく現れた二人の男は僕と妹をひと睨みする。


「おじさん達、僕達に何か用ですか?」


 男達は何も告げず、その手に小さな刃物を取り出す。


 顔も隠しているし暗殺者か。


 この街にやって来てすぐに暗殺者が来るとなると――――――ストーク子爵が少し怪しくなるな。


 でもわざわざ僕達に嗾けた理由が全く分からない。



 こちらに仕掛けて来そうな暗殺者二人。


 その時。


 僕達から少し離れた場所にもう一人の影が出て来た。


「ッ!?」


 僕は思わず妹の目を隠す。


「お兄ちゃん!? どうしたの!?」


「エリー! 見てはいけません!」


「ど、どうしたの?」


 現れたもう一人は、全身を真っ黒いタイツのような服装で、顔も変な仮面を被っていた。


 さらにその人が女性である事を強調するかのように、上半身に付いているたわわが揺れ動いている。


 一体どこの変態だよ!







「そこの暗殺者達、彼らには手を出させませんわ!」


 あれ?


 この声ってどこかで聞いた事あるような…………?






――――宣伝――――


 ダークファンタジーにはなりますが、本日から新作始まりました!

 ぜひ応援のほどよろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る