第26話 たったそれで驚かれても困るんだけど……
十日間。
毎日数時間空中でぐるぐるの刑にしていたグサリ男爵は、自分の非を認めて王国軍に連行された。
王国のマスターナイトと呼ばれている強い騎士様が兵を率いて来てくれたけど、どうやらヘンス町が未曽有の大災害を受けていたと通報があったらしい。
失敬な!
未曽有の大災害なんて、たかが男爵屋敷一つ粉砕しただけなのに大袈裟だな!
「久しぶりだな、ホロくん」
「お久しぶりです、子爵様」
男爵が逮捕されたので、町を治める貴族がいないって事で、ここら辺一帯を支配しているストーク子爵様が治める事になったみたい。
「こちらを受け取って貰いたい」
「…………えっと、これは?」
「うむ! これは
「…………堂々とわいろって言っていいんですか?」
「問題ない。貴族は有能な冒険者を囲う事を知っているかい? ストーク家としては、ホロくんを支援したいと思っているのだよ」
「…………それで僕に何を求めているんですか?」
「何も求めていない――――逆に言えば、何もしてこなければ、それで良いと思っている。グサリ男爵のような目には遭いたくないからね」
「いやいや、あれは【正当防衛】ですよ!? 僕も誰彼構わずあんな事はしませんよ!」
「それは知っておる。ストーク家に後ろめたさはないし、ホロくんと敵対するつもりもない。だからこのわいろはこちらの意思表示みたいなものじゃな。それに――――」
「それに?」
「ヘンス町を治めるようになったから、その分の税収も増えてしまったからね。もちろんたまたまではあるが、ホロくんにはその分も含み、わいろを渡したいのじゃよ」
まあ、後ろめたいわいろとは意味合いが違うようだな。
「分かりました。さすがに子爵様の好意を無下にしたくはありませんから。ありがとうございます」
「うむうむ。それはそうと、ホロくんに一つお願いがあるのじゃが、いいかの?」
「僕に出来る事ならいいですけど……?」
「うむ! この町から東に向かった場所にカートース街があるのじゃ、そこはストーク子爵領の領都にもなっている! ぜひうちの街に寄ってくれないか!」
ん? 東?
確か妹が東の観光名所に行きたいと言っていたような……?
「分かりました。元々東に向かう予定でしたから」
「おお! それは嬉しい! 向こうに着いたら、ぜひストーク家を訪れてくれたまえ!」
エイミーさんもそうだが、ストーク子爵様もそんなに悪い感じはしないので、ここは穏便にいこうかなと思う。
子爵様との面会を終え、シリウスさんの魔道具屋に帰ってきた。
「エリー」
「おかえり、お兄ちゃん」
「ストーク子爵様から、東にあるカートース街に寄ってくれないかと言われたから承諾したけど、いい?」
「いいよ! エイミーさんにも会えるかな?」
「あの雰囲気なら会えるんじゃないかな? 次の目的地はカートース街にしようか」
「うん! あの街には行きたい観光名所があったから!」
「ストーク子爵様に会いにいく前に寄ろうか」
「うん! ありがとう! お兄ちゃん!」
シリウスさんの進捗を聞いたところ、三日後には完成しそうだとの事だった。
次の日。
特にやることがあるわけでもないので、妹とシュナちゃんと町を散歩したりして最後の時間を楽しんでいると、町の入口付近が何やら騒がしい。
なんのことかなと思って覗いてみると、見慣れたウルフが引いている見慣れた馬車が見え、男性2人、女性3人が姿を見えていた。
「アインさん達だね~」
「うんうん。十日前とは見違えるくらい強そうになっているね」
遠目で一目みただけで、アインさん達が強くなった事が分かる。
アインさん達は僕達を見つけると、嬉しそうに走って来た。
「ほ、ホロくん! 無事十日の修行終わりました!」
ん?
「アインさんお疲れ様でした、どうでした?」
「す、凄くためになりました!」
あれ?
凄くフレンドリーだったみなさんとの凄まじい距離間を感じる。
もしかして…………
「えっと、アインさん? もう少しレベル上げがしたかったんですか?」
それに対するまさかの返答が返って来た。
「「「「「これ以上は許してください!! お願いします!!」」」」」
みんな真っ青な顔で僕に土下座をした。
◇
アインさんに十日間の事情を聞いた。
眠る時間と食事時間以外はずっとレベル上げに励んだそうだ。
その甲斐もあってレベルも既に35になり、見事にAランクパーティーを名乗れるほどにはなったのだが…………。
「もうあんな狩りは無理です! ずっと同じ敵を永遠に終わりが見えない狩りを続けるなんて、頭がおかしくなりそうです! お願いします! 何でも言う事を聞きますから、もうあの無限狩りだけは許してください!!」
五人は僕の前に土下座でそう話す。
それを見ていた妹のハリセンが僕の頭に飛んでくる。
げせぬ。
十日くらい同じ狩場でずっと狩るなんて、普通過ぎじゃないか。
泣いて十日の死闘を語るアインさん達に何故かシリウスさんも感情移入してみんなで大泣きする。
僕とシュナちゃんはそんな彼らをジト目で見つめ、妹は定期的に僕の頭にハリセンを叩き込む地獄絵図が広がった。
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