第25話 ヘンス町史上最悪の悪夢

 アインさん達がオークの森に向かい、シリウスさんとシュナちゃんは妹のために、せわしく調理魔道器具を作ってくれる間。


 僕はというと、冒険者ギルドにやってきて、一人でテーブルに座っている。


 特に理由はないけど、どうやら男爵が僕を狙っているそうなので、ここに座っていれば、そのうち呼ばれるだろうと思ったからだ。


 案の定、暫くして一人の執事が声をかけてくる。


「ホロ様でございますね?」


「ええ」


「わたくしはグサリ男爵様の執事でございます。これから男爵様と面会を受けて頂きます」


 半強制的にという事で、男爵が思っていた通りの人物で安心(?)した。


「いいですよ」


 そう答えると、一瞬眉間にしわが寄ったけど、すぐにまた無表情に戻る。


 権力で何でも手に入れてきた貴族に違いないね。


 執事に付いていくと、冒険者達が不安そうな目でこちらを見つめていた。


 一つ思った事。


 まさか馬車じゃなくて歩きかよ!


 歩くのが慣れているようで、すいすい歩いて行く執事。


 既にレベルが40になっている僕は、これくらいの歩きでは全く疲れない。


 そのまま屋敷に入り、ずっと歩き続けて男爵が待っている部屋に向かった。


「こほん。わしはグサリ男爵という!」


「初めまして、僕はホロといいます」


「うむ!」


「本日はどのような要件で?」


「お前が飛竜の山からワイバーンを乱獲していると聞いているぞ!」


 一体誰からだよ…………。


 それを知っているのはシリウスさん達くらいしかいないのに。


 どうせ、冒険者ギルドで僕がワイバーン素材を売っていたのを見て、そう思い込んだのだろう。


 ただ、それが大正解でもあるのだから、ちょっと笑える。


「ええ。僕が全て狩り尽くしました」


 隠す事もないので、堂々と答える。


「おお! やっぱりお前か!」


 ほら、やっぱり分かってなかったんじゃん! まあ、いいけどさ。


「それで、どのような案件でしょう? ワイバーンの素材を売って欲しいのでしょうか?」


「なぬ!? こほん。あのワイバーンはわしの先代があの山を有効活用するために放ったモノなのだ! なので、あそこにいるワイバーンの所有権はわしにあるのじゃ!」


 は?


「なので、あそこで手に入ったワイバーンの素材を納品しなさい! 頑張った事は褒めてつかわす! なので納めるのは半分でよい! さあ!」


 いやいやいやいや。


 さあ! じゃないだろう!


 そもそも魔物の所有権とか人生初めて聞いたよ。


 というか、あのワイバーンが時折町にやってくるから迷惑していると聞いているんだが……。


「冒険者の規定にそういう文言ありましたっけ?」


「そ、それはっ! わ、わしの町のルールなのだ! さあ、早くワイバーンの素材を出せ!」


 声を荒げる男爵。


 部屋の入口から騎士が四人入って来る。


 執事の仕業かな。


「はぁ、一つ忠告しておきますけど、僕は王国に忠誠を誓った訳でもないので、敵対しても全く問題はありませんよ?」


 こういう輩には少し強く出た方がいいと思っての判断だ。


 男爵は顔を真っ赤に染めて怒りを表す。


「ふ、ふざけるな! 平民如きが貴族に立てつくというのか! 平民は貴族に言われた通りにすればいいのだ! 今すぐワイバーンの素材を全部出せ!」


 あ~これは救いようがないね。


 そういえば、【審判の水晶】って、【正当防衛】が認められているんだっけ? それって貴族と平民でも認められているのかな?


「今すぐそいつを捕まえろ!」


 騎士達がこちらに走って来る。


 僕の後ろにサラマくん、前にシルフィくんが現れる。


「殺さないようにねー」


『はっ!』


 直ぐにサラマくんによって、騎士達がボコボコにされる。


 次はシルフィくんによって、男爵が空中に飛ばされ、その場でくるくる回される。


「め、目がぁあああああ」


「――――バ〇ス!」




 え?


 いや、理由は知らないけど、言わないといけないような気がして。


 後は、中級集団召喚【ネズミワールド】を放つ。


 大量のネズミ達が放たれて、屋敷のあらゆる場所に向かう。


 屋敷中に悲鳴が聞こえ、メイドさんや執事さん達が逃げて行く。


 ネズミ達を使い、屋敷に誰もいなくなった事を確認する。


 よし。


 では――――やっと出番が来た!


 僕の必殺技!


 行け! ザ・G!




 屋敷の中から可愛らしいフォルムのGが大量に溢れる。


 真っ黒いGは太陽の光を受けて、黒く光り輝く。


 G達はグサリ男爵の屋敷を飲み込み、屋敷を丸ごと粉砕する。


 思っていた以上に強いね。


 あれ?


 そういえば、中級集団召喚に【超強化】って使えるのだろうか?


 一度使ってみようとするも、残念ながら出て来たG達には使えなかった。


 それではと思い、G達を発生させているブラックホールのような魔力の波動に使って見る。


 おお!


 ちゃんと使えた。


 効果は――――











 出てくるGの大きさが3倍になり、出てくる数が3倍くらい早くなった。


 さすがに使った身としても、これは悪夢に出そうだ。




 その後、駆けつけてきた衛兵に捕まったけど、【正当防衛】を主張すると【審判の水晶】にかけられ、無事水色の光だったので、無罪となった。


 【審判の水晶】一つ欲しいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る