第21話 冒険者全員が酷い連中ばかりではないのかも知れない
僕と妹を一緒に乗せたウルフくんが凄まじい速度でヘンス町の北側に向かう。
【超強化】で強くなったウルフくんは、今まで出せなかった速度で走れるようになって楽しそう。
ウルフくんの背中は意外とふかふかで乗っていても心地が良い。
周りの景色が新幹線の景色並みに通り過ぎていく。
ウルフくんもこんなに強くなって……弱かった頃から一緒に過ごした僕にはとても感動的な光景だ。まだ一か月も経っていないんだけどね。
飛竜の山までは馬車でも半日近くかかるんだけど、ウルフくんが早すぎて一時間くらいで着く。その距離の倍くらいあるというオークの森はウルフくんが二時間ほど走った先に見えた。
たったの二時間かも知れないけど、ウルフくんの上で二時間は意外に大変だ。
「お兄ちゃん、やっと着いたね……」
「だな……頑張ってくれたウルフくんには申し訳ないけど、二時間跨っているだけだと辛いね」
頑張ってくれたウルフくんの頭を妹一緒に撫でてあげる。
「せっかく来たんだし、オークとやらを狩ってみるか~」
「そうね!」
現在召喚できる全ての召喚獣を呼ぼうとした、その瞬間。
森の奥から大きな物音と共に、男二人、女三人が現れては、こちらに向かって必死に走ってくる。
それを追うかのように、その後ろから緑色の肌色で人と似ているが大きさ2メートルを超えるほどのどれもがごつい顔をしているオークが20体ほど走ってくる。
「ま、まずい! 子供がいるぞ!」
「うそ!? 坊やたちも急いで逃げて!!」
こちらに走ってくる人達がそう叫んだが、逃げる理由も見つからないのでそのまま待つ。
すると僕達にやってきた五人は息を荒げながらアタフタし始めた。
「ぼ、坊や! 急いで逃げないとオークの群れに殺されちゃうわよ! さあ! 急いで!」
女性の一人がそう話すが、オークたちも遊んでいるわけではないので、気づけばここまでたどり着いた。
「エラ! もう無理だ! ここは俺達が何としても死守するから子供達を連れて逃げろ!」
「アイン!? だ、駄目よ!」
「このままでは全滅だぞ! 生き残れ!」
問答無用に襲ってくるオークに男二人が体当たりして受け止める。
しかし、パワー負けしているのが目に見えて分かるくらい、二人はボロボロになっていく。
女性三人は涙を流しながら、僕と妹の手を引いて逃げようとする。
「えっと、みなさんは冒険者ですか?」
「そうよ! 私達はヘンス町の冒険者だから、ねえ? 急いで逃げましょう! アインが時間を稼いでいる間に!」
「どうして僕達を見捨てないんですか?」
「オークは私達を狙っていたから……こうして他人を巻き込むのは冒険者としてやってはいけないし、やりたくないのよ……だから、お願い。どうか急いで逃げましょう」
大粒の涙を流しながら丁寧に説明してくれる女性に、妹が僕の腕にひっぱる。
僕も妹も冒険者が大の嫌いだ。
それは今までもこれからも変わる事はないだろう。
ただ、目の前のこのパーティーは僕達が知っているような冒険者とは全く違う。
弱者を守る冒険者。
いつか絵本で見た弱き者を守る冒険者を思い出す。
もちろん、それはホロくんの記憶ではあるが、しっかりと僕の記憶にも刻まれている。
ホロくんが本当に憧れていた冒険者。
それは弱き者を助ける冒険者であり、冒険者になれなくても今の僕も妹もその感覚だけは忘れていない。
僕達兄妹の――――両親が常にそうあったように。
「サラマ! オークを殲滅しろ!」
『かしこまりました』
返事より先に、オークの群れに炎や水、風魔法が吹き荒れ、オークの群れが全員葉っぱのように吹き飛ばされた。
サラマくんを代表にしているけど、基本的に精霊の四人と召喚獣の七体は一緒に呼んでいる。
ボロボロになった男二人の冒険者を守りつつ、精霊達がオークの殲滅にかかり、オークの群れは一瞬で決着がついた。
何が起きたか理解出来ないが仲間が助かった事に三人の女性が大泣きしながらその場に崩れたのは、僕に大きな印象を与えた。
◇
「「「「「う、旨いー!」」」」」
妹が使い込んだお古の調理器具でワイバーンの肉を冒険者達をもてなす。
相も変わらず妹の美味しいご飯に自然と笑みが零れる。
みなさんもその美味しさに、顔は笑っているのに大泣きしながら身体は震えている。
傍から見たらとんでもない光景だけど、どん底からこの食事にありつけたら、こうなるのも頷ける。
夢中で食事を終えて、ようやく落ち着いた冒険者達。
男二人はボロボロだったけど、意外にもタフですぐに動けていて驚いた。これも異世界ならではの感じかな?
「此度は私達を助けてくれて、本当にありがとう」
代表でエラさんが挨拶をすると、全員が深々と頭を下げた。
「いえいえ、もとはと言えば、僕達があそこにいなかったら、みなさんも無事でしたから」
僕達を見捨てて逃げるとばかり思ってたからね。
「ああいう巻き込みを気にしなかったり、わざとやる冒険者も確かにいるわ……でも私達は元々そういうのが嫌で冒険者になったからね。みんな無事で本当によかった」
今一度無事をかみしめて、みんなが笑顔になった。
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