第20話 魔道具って実は何でもいけるんですよ

「おかえりなさい~ホロ兄ちゃん、エリー姉ちゃん」


「「ただいま~」」


「買いたいものは買えなかったの?」


 肩を落としている僕を見たシュナちゃんがすぐに察して声を掛けてくる。


「そうなんだよ……エリーったら、お店で大声で質が悪すぎるって言うんだから」


「ご、ごめんなさい……正直に言っただけなんだけど……」


 いつもしっかりしている妹の意外な一面が見れたけどね。


 それを聞いたシュナちゃんは面白そうに笑ってくれた。




「あっ! ホロ兄ちゃん、そういえば何を買いに行ってたの?」


「うん? エリーが料理用の調理器具が欲しいってことで、鍛冶場に行ったんだよ」


「調理器具ね! それなら良い職人さんを知っているよ?」


「本当! ぜひ紹介して欲しい!」


「いいよ! 付いてきて!」


 最初からシュナちゃんに相談するべきだったな。


 それにしてもシュナちゃんはしっかり者だな。


 シュナちゃんに案内され、部屋を出て、向かうのは何故か自宅のお店だ。


「お父さん!」


「ん? シュナちゃん、ホロくん。どうしたんだい?」


「ホロ兄ちゃんが調理器具が欲しいっていうから、お父さんを紹介しようと思って!」


「え? どうしてここでシリウスさんが出てくるんだ?」


「あ~、調理魔道器具の事か。ホロくん、魔道具の力を込めた調理器具があるんだけど、どうだい?」


「へー! そんな調理器具があるんですね?」


 料理なんて全て妹にお願いしていたから、調理器具については全く知識がなかったから、魔道具があるなんて想像だにしなかった。


「魔道具は元々戦いではなく、生活を楽にするために生まれたものだからね。ただ、どうしても普通の調理器具よりも値段が上がってしまうので、買うのは貴族クラスくらいだよ」


「へぇー! どれくらい高くなるんですか?」


「付与する中身にもよるし、付与する量によって金属も変わるから、現在僕が出来るかぎり付与したとすれば、市販の物より百倍くらいは高くなると思う」


 百倍と聞けば、高そうに思えるが、元々調理器具自体が安い。


 調理器具たって、全部で30点もないはずだ。


 それで大体銅貨30枚とかなので、100倍になっても銀貨30枚、それが30点だとしても銀貨900枚、つまり金貨9枚しかならない。


 まあ、これで900万円と言えばめちゃめちゃ高いとは思うけど、今の僕達はワイバーンの素材が溢れているので、売って換金すれば、金貨の山になるはずだ。


「欲しい物は妹と相談してください。出来る限り付与する方でお願いします!」


「分かった。ただ、数が多いと思うからもう少し滞在して貰う事になるけど、いいかい?」


「はい。急いでいる旅でもないので、のんびり待ちます!」


「やった! ホロ兄ちゃん達まだ残ってくれるんだね!」


 ぴょーんと飛んで喜びを露にするシュナちゃんがまた可愛い。


 頭を優しく撫でてあげる。


「あ、シリウスさん。ここ周辺に良い狩場はありませんか?」


「狩場か~、ホロくんの実力なら飛竜の山が一番良いと思うけど、今は閉山されてしまったから…………ふむ。それなら飛竜の山の真逆の北側に行った先にあるオークの森当たりかな?」


「オークの森……行きたいような行きたくないような……」


「飛竜の山よりも倍は距離が離れているから、行くときはそれを考慮して行くといい」


「分かりました! ありがとうございます!」


 行く当てもないから、次はオークの森に向かうか。


 ただ向かうのは、調理器具の支払いとかしてからの方がよさそう。




 次の日。


 妹がシリウスさんと打ち合わせを終わらせて、見積もってくれた額が金貨3枚だった。


 思っていたよりは安かったので、妹に遠慮なんてしなくていいからねと言うと、遠慮してたら金貨になってないと言われた。


 お金は細かい方がいいとの事で、冒険者ギルドを訪れてワイバーンの素材を売って、銀貨300枚に換金して、シリウスさんに銀貨を渡した。


 それから僕達はオークの森に向かうと伝えて、ヘンス町を後にした。




 ◇




 ◆ヘンズ町の豪華な屋敷◆


「グサリ男爵様! ワイバーンの素材を売りに来た少年がいたとのことです!」


「おお! ついに見つかったか!」


「冒険者ギルドは教えてくれませんが、実際ワイバーンの素材を取り出すのを目撃したそうです!」


「よし、そいつにワイバーンの素材を返して貰うぞ! 冒険者の例の奴らに始末を頼め!」


「かしこまりました」


「くっくっくっ! これで目障りになってきたワイバーンも無くなったし、素材も大量に手に入る! これでまた隣街の娼婦の館に行けるぞ~!」


 グサリ男爵は、勝ち誇ったように太った腰を振って喜んだ。



 グサリ男爵の執事が冒険者ギルドに向かい、いつも頼んでいる冒険者パーティーにホロの始末を依頼する。


 パーティーメンバーは依頼前金を貰い、にやりと笑みを浮かべ、ホロ達の後を追った。

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