第15話 製作者に説明されると、無駄に長くなり一話が終わる

 ※部屋の大きさを正四角形箱型と想像してください。直径と表現しているのは円形ではないですが、こっちの方が分かりやいかなと思って、正四角形で全ての一辺の長さ=直径となります。




「はい。【アイテムボックス・特大】を一つください」


 僕はお金を入れていた袋から金貨十枚を取り出し、テーブルの上に置いた。


 元々五十枚するらしいけど、十枚でいいと言うならお買い得だ。


 五十枚なら特大じゃなくて、大を買うけどね。


「!?」


 店主は金貨を信じられない表情で見つめると、数秒固まってから、遅い悲鳴をあげる。


 いやいや、金貨くらいで悲鳴はどうなのだ?


 まあ、これを日本で言うなれば、一千万円だからね。


 こんなにポンと目の前に出されると驚くよね。


「えっと、足りないです?」


「いえいえいえいえ! い、今すぐ持ってきますので、少々少々少々お待ちを!」


 驚きすぎて言葉を繰り返しているけど、本当に大丈夫か?


「お客様! あのテーブルに座ってください! すぐにお茶をお持ちしますね!」


 シュナちゃんが遥かにたくましい。


 案内されたテーブルで少し待っていると、慣れた手付きでシュナちゃんがお茶を持って来てくれる。


 妹が淹れたお茶くらいに美味い。


 妹も全く同じ事を思ったらしくて、お互いに目が合って笑みを零した。



 数分経過して、地下に繋がっていると見られる階段からドタバタの音がして、店主が息を荒げながら上がって来た。


 その手には、僕が思っていたものとは違う物を手にしていた。


「お、お、お、お待たせしましたっ!」


 テーブルの前に正座した店主は、テーブルの上に綺麗な一枚の絵が書かれている紙を置く。


「お父さん! 落ち着いて!」


 後ろから激励を飛ばすシュナちゃん。


 僕達は苦笑いしつつ、テーブルの上に置かれた紙を見つめた。


「えっと、絵? ですか?」


「い、いいえ、こちらが【アイテムボックス・特大】でございます」


「ええええ!? これが!?」


 もっと、こう、袋の形をしていると思っていた。


 なのにたった一枚の絵?


「えっと……お客様は【アイテムボックス】をご存知ないのでしょうか?」


「はい。僕も妹も初めてみます」


「なるほど…………かしこまりました。ではこちらの【アイテムボックス】をお見せしましょう」


 そう話すと、店主は左手の手の甲を前に出す。


「本来なら声に出す必要はありませんが、アイテムボックス、オープン」


 すると手の甲に、紙の絵に似た紋様が淡い光の色で浮かび上がる。


 そして、テーブルの上に手をかざすと、小さな小瓶が数個現れた。


「おお! 小瓶が現れた!」


「はい。このように、あらゆる物を【異空間】に入れられるのが【アイテムボックス】です。【アイテムボックス】の種類についても説明致しますか?」


「ぜひお願いします!」


 間髪入れずに答えると、店主も喜んで答えてくれる。


「【アイテムボックス】には四種類がございまして、小、中、大、特大がございます。まず単純に【異空間】の中の大きさを表しています。小の場合、直径1メートルくらいの部屋の大きさだと思ってください」


 箱じゃなくて部屋と表現した事に、特大に合わせた説明なのだろうなと思うと、店主の説明の上手さを感じる。


「中は直径2メートルくらいですので、小よりは中の大きさが一番愛用されています。小は裕福な家庭のメイドや執事が持つ事が多いですね。

 そして中はCランク冒険者や駆け出しの商人が持つ事が多いです。野営や荷物を入れるのに直径2メートルもあれば十二分に入りますから。ただ小と中には大きさの違いしかありません」


 大きさの違いしか、という事は大からはまた違う事があるって事か?


「大は直径4メートルと格段に広くなります。さらに遅延・・効果が付与されている為、一人前の商人はまず【アイテムボックス・大】を目標にされる方が多いですね。値段はうちで金貨一枚になりますが、大通りの店ですと、金貨十枚で売られているはずです」


 直径4メートルという事は、ざっと計算して正四角形の10畳部屋が一つだと想像しやすいな。


 大きな荷馬車くらいの大きさだから、商人は喉から手が出るくらい欲しがりそうだな。


 さらに遅延効果が付与される。


 鮮度が重要な食材系には持ってこいの効果だね。


 それと、さらっとの店をしっかりディスるのは好感が持てる。


「最後になりますが、特大は直径10メートルとなっておりまして、遅延効果が停止効果に進化しており、さらに重さ制限も存在しません! 大きなドラゴンすら入れられるのです!」


 あ、重さ制限もちゃんとあったんだね。


 それに停止効果って凄いな。


 これがあれば商品入れ放題だ。


「そんなに凄い魔道具を、たったの金貨十枚で売られるんですか?」


「え、ええ……売れなければ、ただのゴミですから…………」


 店主の目がああああ。


 立地が悪いからなのか、普段からお客様が来ないのかも知れないね。


「それなら店を表通りに出せば、沢山売れるでしょうに」


「……いえ、表はコネがある人でないと、出店出来ないようになっているんです。それに、これが売れてくれれば、もう僕達の生活は安泰ですから、のんびり【魔道具】を作っていきますよ」


 こんな優しい店主に巡り会えて本当に良かった。


 早速購入する【アイテムボックス・特大】を僕に施術して貰い、僕の【ステータスウィンドウ】に【アイテムボックス・特大】が追加された事を確認した。


 そして、僕は店主にもう一つ、提案をする。




「えっと、もう一枚売ってくれませんか?」


 店主が面白い表情になった。

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