第14話 大通りにある店は大体ぼったくり

 山賊を倒してから、僕達は馬車に揺られ、次の町『ヘンス町』に辿り着いた。


 『ヘンス町』は僕達が過ごしたクインズ町よりも大きく、他の町から沢山の物資が届くので、商売の町と言われている。


 子供の頃に、お父さんお母さんに連れられて、買い物をした記憶が微かに残っていた。


「ヘンス町なんて懐かしいな」


「お兄ちゃん、覚えてたんだ」


「そりゃ覚えるよ。お父さんお母さんとの数少ない思い出だからね」


「…………うん」


 どこか嬉しそうに話す妹。


 きっと妹も覚えているのだろう。


「それはそうと、急いで【アイテムボックス】を買いに行こう。確か魔法道具屋だっけ?」


「うん! 御者さん曰く、向こうの大通りにあるみたい」


 僕達は馬車乗り場から道を進め、大通りに出る。


 大通りには溢れんばかりの人が行き来している。


 ただ、やっぱりかーと思えるのは、大通りの脇には物乞いが並んでいるのだ。


 しかも追いやられているようで、店の脇とかには立たないようにしている。


 ゲームじゃこういう風景は、基本的に映らない。


 仮に少人数いたとしても、何かしらのイベントのトリガーになっているケースが多いのに、現実はそう優しいモノではないと僕の視界で訴えて来た。


「お兄ちゃん……」


「あ、ごめん。行こう」


 僕が物乞いを遠目で眺めているのに気付いた妹が、小さく首を横に振る。


 同情――――――。


 僕達だって、一歩違えばああなっていたはずだ。


 そうならなかったのも、冒険者である両親が残してくれたお金のおかげと、田舎ということもあり、お金を取りたてにくるような無粋な輩がいなかったのも大きい。


 まあ、結果的にあの男爵とヅラだけがヤバい人だったけど、二人とも地元生まれの人じゃないしな。


 僕達は大通りを進み、【魔道具屋】と書かれた店に入った。




 ◇




「ここは子供の遊び場じゃないし、物乞いはいらんね! 出てけ!」


 あ…………こうなるんじゃないだろうかと、一瞬思っていたけど、やっぱりそう来たか。


 僕と妹がみすぼらしい格好なのもあって、店主は僕達を見るや否や店から叩き出した。


「はあ…………うちらお金いっぱい持ってるのになぁ…………」


 ボソッと呟く妹。


「まあ、あんな金にがめつい店は、そもそもぼったくりが多いから、こちらから願い下げだよ」


「そうなの? …………お兄ちゃん?」


「ん?」


「お兄ちゃんって買い物とかした事ないのに、どうして分かるの?」


 ぐはっ!


 油断していたけど、今の僕はホロくんだから、妹にまた怪しまれる。


「え、えっと、以前ハンセル達とパーティー組んでいた時に聞いていたんだよ」


「ふぅ~ん」


「ほ、ほら、冒険者の心得みたいなもんだから!」


「ふぅーん」


 段々声のトーンを下げる妹が怖い。



 その時。


「あの……」


 僕達の前に可愛らしい女の子が訪れて来た。


「ん? どうかしたのかい?」


「えっと……ごめんなさい。先ほど、この店から出されるのを見たのですが……」


 あはは……店主が怒鳴っていたし、見られても仕方ないね。


「そうだね。みすぼらしい格好だからと叩き出されてしまったよ」


 それを聞いた女の子は嬉しそうにパーッと笑顔になる。


「本当ですか! もしよろしければ、うちのお店をご利用なさいませんか!?」


「ん? 君のお店?」


「はい! うちのお父さんが【魔道具技師】なんです! 良い品が揃っているので、ぜひ!」


「そっか。一応聞くけど【アイテムボックス】はある?」


「あります! さあ、どうぞどうぞ! 私について来てください!」


 彼女の嬉しそうな笑顔についつい顔が緩んでしまい、僕達は彼女について行く。


 大通りから外れて、地元民しか知らなさそうな小道に入り進んだ先に、【魔道具屋】看板が掲げられている店に入った。


 店の中は、とても清潔が保たれていて、とても好感が持てる。


「シュナ!? またお客様を探しに行ってたのか!?」


 店主と思われる男性が、女の子と一緒に入った僕達を見て、驚いた声をあげる。


「お父さん! お客様を連れて来たよ!」


「シュナ! そんな危ない事はしないでと言ったじゃないか!」


「でも! お父さんの【魔道具】は本当に凄いんだから! あんなの店なんかよりずっと凄いんだから!」


 豚って先の【魔道具屋】の事だな。


 店主が「ブヒ!」と鳴き出すのが容易に想像出来る。


「初めまして、僕はホロで、こちらは妹のエリーです。シュナちゃんに誘われなければ、【魔道具屋】に来れませんでしたから、大助かりです。あまり怒らないであげてください」


 店主は溜息を吐いて「大変失礼しました」と頭を下げる。


 シュナちゃんはお父さんの【魔道具】が売れて欲しい一心だったと思う。


「僕達は【アイテムボックス】を買いに来たんですが、ありますか?」


「は、はい。ございます。ですが…………その…………」


「ん?」


「【アイテムボックス】は素材が高価なので、とても高額なのです……」


 心配そうに話す店主。


 きっと僕達がみすぼらしい格好だから、気を使わせてしまったのかも知れない。


「一番良い・・物でいくらくらいするのですか?」


「えっと、うちにあるのは【アイテムボックス・特大】ですので、価格は金貨十枚になります……」


 とても申し訳なさそうに話してくれるけど、思っていたより、ずっと安い・・


 その時、隣で聞いていた妹が耳打ちで「先の店では、【アイテムボックス・大】で金貨十枚って書いてあったよ?」と言ってくれる。


「えっと、そんなに安くていいんですか? 特大ってもっと数倍はするのでは?」


「あはは…………実は五十枚にもくだらない品なんですが、あまりにも高額で売れないんです。せっかく作った作品が使われないまま、腐っているのが、作った本人として悲しいのです。それに十枚でも十分に利益が出るので…………寧ろ売れなくて、生活が厳しかったりするのです。あはは…………」


 恥ずかしそうに笑う店主。


 何となく、そんな店主と元気な娘さんがいるこの店が気に入った。

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