第3話 因縁の相手は何故か自らやってくる
「えっと、僕には【エキストラスキル】というものがございます。エリー様」
「ええええ!? お兄ちゃん!? そんな凄い人だったの!?」
「ん? 【エキストラスキル】って凄いの?」
「凄いってもんじゃないわ。王国民500万人のうち、【エキストラスキル】が生まれる確率は、十年に一人なのよ?」
「えっと、ごめん。ちょっと例えが分かりにくい」
だって500万人とか、めちゃくちゃ分かりにくいじゃん。
まあ、取り敢えず凄いって事くらいは分かるけどさ。
「じゃあ、簡単に教えてあげる」
「お、おう」
「うちのクインズ町で【エキストラスキル】持ち一人が生まれるまで掛かる年数」
「(ごくり)」
「ざっと五千年に一人生まれる
「…………えええええ! 凄いじゃん!」
「だから凄いって言ってるでしょう!」
ベシッ!
エリーが何処かから取り出したハリセンで、僕の頭を叩く。
全然痛いくないけど、音は凄く響く。
向こうの漫才師が欲しがりそうなアイテムだ。
「それで? どんな【エキストラスキル】なの?」
「ん~召喚獣の全てのスキル対して絶大な効果をもたらす。らしい」
「らしい……」
「だって、よく分からないから」
「それもそうね。お兄ちゃんは召喚スキルすら使えていなかったし」
「そうそう」
その時。
森の奥からとある一団が出てくる。
「ん? あれはホロくんじゃないか~!」
僕を見てすぐに嬉しそうな表情を見せて、こちらに向かってくる一団。
「くっ!? お兄ちゃん、逃げよう!」
「え? どうして?」
「っ!? お兄ちゃん。お願い。また大怪我されたら嫌なの」
エリーは、彼らが僕を――――いや、ホロくんをボコボコにした事くらい、見通しという事か。
知らないと思ってたけど、ちゃっかり知っているんだな。
「ふうん~これはこれは~俺様の告白を蹴ったクソ女も一緒か~くっくっくっ」
あ~そういう事か~。
顔が嫌らしいと思ったら、うちの妹に手を出そうとしていたのか。
「それにしても、まさかあの怪我で生きてるとは、さすがしぶとさだけはあるんだな? ホロく~ん」
僕は静かにそいつを睨む。
この町の幼馴染の一人で、うちらの年代で一番あくどい事で有名なハンセル。
こいつは元々悪の化身みたいな性格をしていた。
そこに【加護】の啓示でまさかの【中級万能戦士の加護】なんてものを貰う。
もうそれはそれは、悪が加速するのは言うまでもなく、ハンセルは同年代では、頭二つも抜けて強い存在となった。
「お~、あの気弱なホロくんが睨むとか――――ふざけやがって!!」
僕の目で追えない速度で、ハンセルのパンチが飛んでくる。
勿論、避ける事も防ぐ事も出来ない。だって、反応すら出来ないくらい早いから。
僕の顔面に直撃したそのパンチで、僕の身体はアニメで見るキャラクターのように吹き飛んで行く。
ああ……痛ぇな…………。
やっぱり、僕ってこの世界に生きてるんだな。
まだこの世界に来て、十日も経っていない。
だからだろうか、ずっとゲームの世界だと錯覚すらしていた。
あんな【ステータスウィンドウ】なんか見てしまったら、尚更だと思わない?
「くははは! おい、女! ここでお前の兄をなぶり殺してやろう! それが嫌なら――――」
「おい、その汚い手で妹に触るな」
「なっ!?」
俺が睨みながら起き上がると、ハンセルの表情がますます怒りの色に染まる。
「クソ雑魚の分際で、俺様にたてつくというのか! そのクソみたいなプライドなんて俺様がぶっ飛ばしてやるよ!」
また飛びかかりそうなハンセル。
だけど、それはもう
僕は【ステータスウインドウ】から【下級精霊召喚】を押す。
すると、一瞬にして、僕の前に【火の下級精霊】が現れる。
飛びかかろうとしたハンセルは、その精霊に驚いて足が止まる。
「ふぅん~
火の下級精霊と共に現れた、水の下級精霊、土の下級精霊、風の下級精霊の四体が、幻想的な雰囲気を魅せながら僕の周囲を浮いている。
土の下級精霊は、真っ先にエリーを守りに向かってくれて、人質とか取りそうな向こうパーティーから、その心配をなくしてくれた。
『おいおい、我が主にたてつく雑魚が…………ここで燃やしてやんぞ、ゴルァァ!』
「ひい!?」
あ、喋った。
しかも、めちゃ威嚇上手。
「なあ、エリー」
「う、うん?」
「もしかして、エリーがあいつの誘いを断ったから、僕があんな目にあったのか?」
「…………うん……ごめんなさい………………」
僕はエリーの頭を優しく撫でる。
「エリーが謝る事はない。悪いのは全てあいつだ。それであれだけエリーを泣かせたんだから、その報いくらい受けて貰わなくてはな」
「お兄ちゃん…………」
「心配すんな。でも本当にエリーをあんなに泣かせたのは許せん。それに…………」
ホロくんを
口には出せないけど、その報いは受けて貰わなくてはな。
この
「みんな、あいつらを一人残らず逃がすな!」
『『『御意!』』』
◇
◆ハンセル◆
い、一体、何がどうなっている!
あのクソ雑魚ホロがどうしてあんな強い精霊を召喚出来るんだ!
ハズレ加護の【召喚士の加護】だろう!
詠唱もなく、魔石もなく、どうやってあんな強い精霊を召喚出来るんだよ! クソが!
とにかく今は逃げるしかない!
このままでは本当に殺されかねない!
その時、俺の足に痛みが走り、走っていたはずの俺の身体が地面に叩きつけられる。
「が、がは! 痛い、痛い!!」
『おいおい、我が主を雑魚呼ばわりしたな?』
「ち、違う! お、俺は!」
震える視線で、悪魔のような火の精霊に視線を移すと、燃えている俺の足が見えた。
「足があああああ!」
『もう泣き言か? ちーと早いな。主がたっぷり
「や、やめろぉぉおおおお、この悪魔め!」
『ふん。てめぇと同じ事を言っていた昔の我が主に、お前は何をした?』
「ご、ごめんなさい! 反省し、あああああ、腕がああああ」
『ふむふむ。お前は何をした?』
「お、俺は…………その足を…………がああああああ!」
火の精霊が俺の足を踏みつける。
焼けて動けない足だが、未だ痛みが凄まじい。
『こうした気がするが、あっているか?』
「はいぃいいい、あってますあああああ、痛い、痛ぇよぉおおおおおお」
俺は森の中で必死に叫んだ。
だが…………誰も俺を助けになど、来てはくれなかった。
誰か……助け…………て……………。
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