強烈な眩さ




(僕は何をやっているんだろう)


 嵯峨野家の前に来ていた天祐は、ポケットに入れていた竹の板を取り出して溜息を吐いた。

 強くなりたい、とか。

 拳と拳を突き合わせて友情を育みたい、とか。

 喧嘩部に入って青春を謳歌したい、とか。

 そんな理由で喧嘩部に入ったわけじゃない。

 ただ剣牙と喧嘩をしてみたい。

 剣牙の喧嘩姿を見て欲求に駆られて。


(僕は何をやっているんだろう)


 身体のひ弱さは重々承知だったが、それでもどうしても剣牙と喧嘩をしたくて。

 百回連続での丸太素振りを十時間かけて成功させて、入部をして。

 すぐにでも申し込みたかったけど、筋肉痛で身体がほとんど動かず学校を休んでトイレ以外は自室で一日を過ごし、次の日に学校に着いていの一番に喧嘩がしたいと剣牙と校長先生に言って、放課後に念願が叶ったのだが。

 校長先生の立会いの下、プロテクターを装着して相対してすぐにわかった。

 本気でやる気がないのだと。

 理解はできる。

 こんなに薄っぺらくて小さな身体の相手に本気でやらなくてもいいと考えるのは。

 理解できるのに。

 容易に予想できた事なのに。


 腸が煮え繰り返った。


 大嫌いだ、と。

 小突かれただけで気絶する自分も。

 小突くだけの剣牙にも。

 大嫌いだ。

 その一言だけが頭を占めて。

 けれど、口に出して伝えようとは思わなかった。

 伝わらないと思った。

 だから手紙にしようとして。

 どうしてかこの気持ちをのせるには紙では足りないと。

 竹細工職人の祖父に頼んで竹を分けてもらって、板に成型して、大嫌いだと書き込んで、学校で会うたびに手渡して。

 冷静ではなかったからこそできたのだと思う。

 抑えられなかった。

 否。思考が落ち着いた今でさえ。

 本当はずっと手渡し続けたいくらいだが、流石に迷惑をかけ過ぎだろう。

 だから最後に一言だけ伝えておしまいにしようと思ったのだ。


「おや。何か用かい?」

「あ」


 玄関から出て来た鉄労に少し戸惑いながら、剣牙君に会いに来ました同級生の鴨田天祐と言いますと言えば、フラッシュをたかれたのかと思うほどに強烈な眩さに襲われた天祐であった。












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