世界設定その11 宗教
この物語には多くの国、地域、都市が登場します。
それぞれに支配的な人種も違えば、信仰している宗教も異なります。
宗教はこっそりと、あるいは大々的にその影響下にある人々の行動や態度を支配して、文化や価値観、政治的な傾向を形成していくものです。
この物語の世界にはどんな宗教があるのでしょうか?
今回は、その一部をご紹介していきます。
1.竜信仰
ソルジェの故郷であるガルーナにのみある宗教になります。
ガルーナ人は竜を兵器として利用してもいますが、その強大な力を神聖視してもいるため、死んだ竜を祀る習慣があり、それが信仰としての形式を与えられたものが竜信仰です。
ストラウス家が竜の墓所である聖地を知っているのは、竜騎士であるためと、竜を祀る役目も持たされているからになります。
ソルジェの村には竜教会がありますが、竜の魂の一部を地上にとどめることで、空に勇猛な戦士たちの物語……ガルーナ的な考えでは『歌』を届けるのが竜信仰の考え方です。
竜信仰はガルーナの文化的・精神的な考えに根付いているものであり、多くの教義で定義されているものでもありません。
竜に認められるほど勇猛であることを目指す、一族を大切にする、敵を殺して奪え、自然に挑み調和せよ、それらが信徒に対して竜信仰が求めるテーマになります。
自然信仰的な原始性に満ちており、その社会集団が自然と行うものでしかないため、ソルジェも竜信仰の信徒であるという自覚さえないのが実情です。
周辺国家に伝来することもありませんでした。周辺国には竜もいないのと、司祭や伝道を司る宗教指導者がいないからです。
竜の骨の一部を地上に祀っていれば、そこが竜教会であり、それ以外にはとくにすることはありません。宗教としての完成度は、悪く言えば低いのです。
ほぼガルーナの戦士文化と同一とも言え、ソルジェが死者の魂は空に在ると考えていますが、元々は竜信仰の考え方にそれがあるからになります。
2.イース教
女神イースを信仰する宗教です。その教義に据えられているのは『慈悲』であり、社会奉仕に対して積極的に参加する面があります。
宗派は様々ありますが、祈りや精神的な救いを重視するだけでなく、現実的な社会改革を試みる点が大きな特徴です。
その活動は貧困者への無料の食事・医療の提供などから、政治に参加することもあります。
伝統的に武術鍛錬を修行の一環に採り入れているため、武術の達人も多く輩出するのも特徴です。
また騎士団を結成し、巡礼者などの保護・護衛を受け持つこともあります。
それらの社会活動を展開する上では活動資金が多く必要になるため、資金獲得のための経済活動、積極的な勧誘活動も許容しているのも特徴です。
医薬品、ワインやビールなど、衣料の作成などなど、高品質の品物を生産しています。
経済や政治面への積極的な参加がある点を、ファリス帝国の皇帝ユアンダートは評価もしていました。
それは宗教としての在り方を評価してのことでもある一方で、自身の政治活動に使えるという判断でもあるのです。
女神イースを絶対視しているため、異教徒に対しては不寛容な点があります。
3.女神イース教・厳律修道院
イース教の宗派になります。
特徴は女性専用の教育機関を擁していることと、伝統的に酒造に定評があること、有能な女性剣士を多く輩出したことになります。
各国の貴族や大商人の娘が通うための高等教育機関でもある修道院を設立し、彼女たちの両親・実家からの寄付が活動資金にも直結しています。
その結果として、政治・経済界の重鎮とのコネクションもあるため、集団の規模に比べて政治力の強さが高いのも特徴です。
女性ばかりの集団であり、基本的に男子禁制である修道院の自衛策の一環として、剣術が発達していきました。
宗教的な戒律には厳格である一方、政治的な介入の傾向はリベラルです。
それは現在の指導者たちの意向を反映してもいるものであり、かなり個人的な動機にも基づいています。
自らの教え子たちを守るため、帝国の『血狩り/亜人種狩り&亜人種の混血者狩り』に影ながら抵抗してもいるのです。
ファリス帝国国内の有力者にも多くの混血者が隠れるように生きているため、修道会も彼ら彼女らの保護に尽力することが『慈悲』の示し方と考えています。
4.イース教 カール・メアー派
イース教のなかでも最も極端な右派勢力がカール・メアーです。
有力な聖騎士を数多く抱えており、イース教に反対する者を片っ端から処刑することを女神イースの『慈悲』と定めている血の気の多く、宗教者としては他人からは危険なほどのマジメさがあります。
帝国の『血狩り』こそ、自分たちの宗派が掲げる『慈悲』との一致が見られると考えており、積極的な参加を表明、ユアンダートの支持を得ることになりました。
聖騎士やその見習いである聖なる宗教戦士たちを『異端審問官』として帝国各地に派遣し、『血狩り』により異端者を見つけ出しては処刑しています。
帝国人からも最も恐れられている集団の一つですが、彼女たちはとても真剣に世界の浄化を試みてもいるのです。
帝国が支配的になる世界において、亜人種の存在は悲しみと苦悩のもとになると断じ、彼らの排除を行うことが最終的に世の中から苦しみや悲しみ、葛藤を減らすことになる。
それが彼女たちの危険な『慈悲』となっています。
聖域カール・メアーに住み、女神イースの伝説に出て来る花を育ててもいる、可憐な狂信者集団です。
5. 北海信仰
アリューバ半島からザクロア北端の沿岸地域に伝わる自然信仰です。
使者を船に乗せて海上で船ごと燃やす葬儀を行います。
魂は北海から来たと信じているためで、それが帰る場所も北海であるべきだと考えているわけです。
一部の海獣を保護して育てることがあり、育てたあとは供物として儀式に捧げます。
地域により育てるべき海獣に差があるのも特徴で、アリューバ半島では小型クジラを好みますが、ザクロア北部沿岸ではアザラシになります。
ロロカの故郷である、ザクロアより北の土地では、赤と白の毛皮を持つ珍獣が信仰の対象として、儀式も兼ねた狩りとして儀式が行われています。
基本的に自然信仰であり人格を持った神というものを祀っているわけではなく、儀式を通じて自分たちが自然環境の一部であることを示し、自然環境との一体化を果たすことを再確認することが目的です。
自然と一体化することで、ヒトとして在るべき運命を辿れるものだと考えています。
また北海信仰がある土地では人種に対して寛容な文化も根付く特徴を持ってもいます。
これらの土地ではヒトの定義そのものがあいまいであり、大切にするのは人種や地位よりも集団内における互いの尊重になります。
過酷な自然を生き抜くには、種族を問わずに互いを頼るべきだと考えた結果でもある一方で、北海信仰のヒトの魂は海から来たという『全種族に対しての一致』も、人種的寛容さを育む力となりました。
6.闘神バルジア教
闘争と過程の神であるバルジアを崇拝する人々もいます。
バルジアは力と成長、変化、旅の守護神です。
そのため、旅人、戦士、商人などから信心を捧げられることが多いのが特徴になります。
無数の姿を持つ変化の神は、それぞれの段階において発揮する力や持つ意味が異なるとされているため、それぞれの段階に宗派が存在するとも見做すことが可能です。
信者に要求されることは、信仰への熱心さと自己鍛錬、宗教団体への積極的な投資になります。
自他問わず、多くの祈りや願いを現実化するほどに信者としては正しいとされているため、名前の厳つさと比して寛容さも持ってはいますが、やさしさの体現には強さも要るのだという考えに基づいているのも特徴です。
宗教の発生としては、複数の宗教が集まり互いを吸収し合った結果として成されたもので、その発生地を特定するのが困難となるほど広大かつ古い宗教でもあります。
ただし、その可変的な信仰形態ゆえ、バリエーションの多さが生まれると同時に、各宗派が完全一致する教義もないことと、貧民や旅人への援助を好みもするため財力が安定しませんでした。
大陸全域で信じられている一方で、強大な宗教組織として君臨することには失敗しています。
7.熊神信仰
バルモア連邦で盛んな巨大な熊の神を信仰する宗教です。
孤島に熊の子を放ち、そこに獲物を定期的に供給することで巨大な熊に育てます。
この巨大な熊を、他の勢力が育てた熊と定期的に殺し合わせ、敗北した熊の毛皮や骨を育てた集団に返還します。
また地域の信仰のバリエーションによっては、巨大な熊に戦士が力試しとして挑むことも。
そのルールは戦って勝てばいい、あるいは数日間島で生き延びることなど、それぞれです。
犯罪者を武装解除した状態で、熊の島に放置することもあります。ほとんどの場合で、熊に食べられて処刑が成されるわけです。
人や熊同士の戦いに勝利し続けた巨大な熊が、寿命で死ねば『神』としてその島に巨大な祭壇を作り遺骨を何百年も祀ることになります。
力に挑むこと、力を育てること、力を支持すること。
それが熊神信仰の本質です。
8. 蛇神教
輪廻と生まれ変わり、運命を信じるイルカルラ砂漠の宗教が蛇神教になります。
蛇神を信じ、蛇を聖なる獣として保護しています。
蛇の習性である、冬眠と脱皮に、死からの再生を見出して、それを尊崇の対象として定めたことから蛇が聖獣として認定されたわけです。
教義としては戒律の順守があり、僧侶となった者は保護される代わりに信徒全員のために祈りを一生涯に渡って捧げ続けることが決まります。
儚さと残酷さもある砂漠での暮らしの果てに形成されていった信仰であり、砂漠でも生き残る一部の蛇に抱いた憧れと尊敬が信仰の源流と言えます。
またイルカルラ砂漠の南にある『プレイレス』に伝わる『古王朝の諸宗教』の現世利益確約の多神教からの派生と言える点もあり、蛇神の信徒には蛇神の現世・死後・来世においての守護が与えられると考えられています。
戒律を守る厳しさにはあふれていて、僧兵に認定されれば死ぬまで僧兵として仕える義務があるなど、厳しさに律せられた宗教です。
9.『古王朝の諸宗教』
1000年前に栄華を極めていた『古王朝』がある土地、『プレイレス』の都市国家に伝わる諸々の多神教のことです。
『プレイレス』には無数の都市国家があり、それぞれの都市で独自の神を祀っています。
無数の神がいることになりますが、全てに共通するのは犠牲を支払うことで、現世利益が確約されることです。
その確約の範囲は、あくまでも宗教の掲げる建前のものが多いわけですが、古くは生け贄の使用に応え、現実に強大な加護の力が発生させる『神』もいました。
最も多くの『古王朝の神々』に求められた願いは『不死』であり、それを叶える『神』が多く祀られていった過去があります。
現在では『不死』を求められた獣の頭を持つ無数の神々の信仰は、『プレイレス』では禁止されています。
禁止された理由は、それらの宗教を信じていた王朝が暴挙を働き、各都市国家を破壊して回ったためです。
邪教として禁じられ、多くの宗教が絶えました。
それらは強大な呪術の宗教でもあり、『古王朝の祭祀呪術』として神秘性を保っています。
貴族や上流階級の密かな『遊び』として、その祭祀の真似事が秘密裡に流行ることもあります。
多くの場合は、それは遊びでしかありませんが―――ときには例外もあるわけです。
10.須弥山信仰
須弥山・螺旋寺に伝わるのは『強さ』への信仰です。
教義は二つ、『弱肉強食/強い者が正しい』と『強者が悪を討ち滅ぼすべし/真なる虎』というシンプルなものになります。
宗教とも言い難いものですが、強さを磨くこと、強さこそが世界に平和をもたらすものだとしている点が特徴的です。
強者が悪を働くことで、この摂理は崩れてしまうことは問題ですが、そのためにも『真なる虎』を作り出すことが須弥山・螺旋寺の使命になります。
邪悪な敵でも、須弥山・螺旋寺で育てた最強の義賊が殺してしまえば世の中は平和になるわけです。
猟兵シアンが母国ハイランドで尊敬されている理由の一つは、『真なる虎』として求められる義賊性を発揮し、かつて母国にはびこる悪人どもを排除したからになります。
また力を求めるこの信仰が管理するのは、武術だけでなく呪術も含まれていました。
『虎』を模す縞模様のタトゥーを入れるのも、呪術で強大な災いや加護をもたらすのも、力を信じるこの宗教らしい行いです。
力を信じ、強くなることを尊ぶため、『弱さ』も肯定している部分があります。
弱くても強くなりたければ強くなっていい、と考えているため、卑劣な作戦をも許容するところがあるわけです。
卑怯な行いをしてでも勝った者が正しいとも、取れるため、信者の暴走が起きがちでもあります。
そのため本来は須弥山・螺旋寺の最強の『虎』が世直しすべきと考えられもいますが、その『虎』が不在なときには堕落は深まるかもしれないわけです。
なお、神さまはいません。
『強さ』という力の形質および行いを尊び崇拝しています。
神さまの制約がない、これも規律が緩みかねない点に直結してもいるわけです。
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