第一章の別視点:ストラウス家の長子マーリアとファリスの関係性
※『元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。』は主人公であるソルジェの視点で物語が進みます。それは基本的に『ソルジェの視点/ソルジェの世界観/ソルジェの認識』ですが、当然ながら世界の全てがソルジェの認識のまま動いているとも限りません。
第一章『ストラウスの歌』の裏側で生きているストラウス家の一員、ソルジェの姉、マーリア・アンジューの視点もご紹介します。
マーリアは帝国側の人物であり、彼女について書くため、帝国内情の記述もあります。
帝国側の各登場人物の行動の動機にもなりかねない要素がありますので、そういった一種のネタバレを好まない方、またソルジェの物語としてそれらを知りたい方にはオススメしにくいところもあります。
より物語世界の裏側を楽しみたい方には、オススメでございます。
今回は物語開始の9年前の時点で、ソルジェの母国ガルーナ王国と同盟であったファリス王国(当時、現・ファリス帝国)に嫁いでいたマーリアが、どんな考えを抱いていたのかなどをご紹介します。
ストラウス家の一員として生まれ、同盟国であったはずのファリス王国の貴族に嫁ぎ、今ではソルジェとガルーナ王国の怨敵であるファリス帝国の一員になったマーリアの世界観についてのまとめになります。
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・ソルジェの姉マーリア・アンジューのファリスの裏切りについての考え方
ソルジェの姉であるマーリアは、ファリス王国の上級貴族である『アンジュー家』に嫁いでいます。
アンジュー家の当主はやや病弱なところがありますが、とても紳士的かつ知的な人物でありマーリアを愛しておりマーリアからも愛されています。
9年前当初、マーリアは感情的にはファリスの裏切りに激怒していますが、それと同時にすでにファリスの貴族の一員であるという政治的なスタンスを持っています。
何より『自分はすでにアンジュー家の一員であり、アンジュー家を守ることが他の何よりも優先される』という考えです。
また現状で病気がちな夫が当主であることでアンジュー家の立場が不安定であることに加え、もしも敵国・属国となったガルーナ王国の貴族であることを主張すれば諸勢力を拡大吸収して混沌とした政治闘争が生まれているファリス国内の勢力につけ込まれてしまい、アンジュー家の地位を損ねるのではないかと心配しています。
※ユアンダートは自国を拡大していく過程で多くの外国勢力を取り込み、安定した統治を成すために新興勢力であっても要職につけて、国内の反対勢力や自分に意見をしていた者を排除してきました。
その結果、以前からファリス王国を形成していた古株の貴族からユアンダートは警戒されてもいて、古株有力貴族の娘の一人であった自分の妻(政略結婚して国内の政治的な安定を狙っていた縁組)から暗殺を仕掛けられたりもしています。
※つまり奥さんに暗殺されかけたことがありますが、武術の才で返り討ちにして、自分が殺した妻の姿を幼い息子に見られてしまっています。その結果、息子とも家族仲は良くなく、息子と昔からのファリス王国系貴族たちがひそかに結託し、反対勢力めいたものを帝国内につくられています。
とにかくファリスの内側は、新勢力と旧勢力が水面下で対立し合う情勢でもあるため、「自分はファリスの敵ではない」と旗幟鮮明に主張しなければ、マーリアとアンジュー家は大きな政治闘争のリスクにさらされてしまいかねない状況でした。
夫と息子とアンジュー家を守るために、ガルーナ王国に対する裏切りに激怒して反乱を企てる『排除されてもおかしくない国内の外敵』ではなく、ガルーナ侵略以後の侵略戦争とユアンダートの政治的な方針を徹底的に支持し、その見返りとしてアンジュー家の安定と発展が保障されることを狙っています。
※夫が病弱で戦争にも参加することが出来ないので、貴族の義務を果たせておらず、アンジュー家には地位に関してのリスクが常にあります。
ユアンダートは現実主義者のマーリアのことを気に入ってもいます。そもそもガルーナ王国の貴族の血筋をファリス国内に『コレクション』しておくことで、政治的な力にも使おうとしていました。
こういう外国から獲得した血筋はいくつもファリス国内にあります。
決して血筋を根絶やしにするのでなく、協力して軍門に下るなら自分の勢力のもとで安全を保障する、というような契約を宣伝するためにも。※そうすればより外部勢力を組み込みやすくなるとユアンダートは考えています。
ユアンダートはマーリアが逆らわないのであれば多くの見返りを渡しても良いとガルーナ王国を滅ぼしたあとでも考えていて、マーリアもそれを読み、期待してもいます。
マーリアの狙いとしては、
・すでに自分の一族であるアンジュー家を守り抜き、
・ガルーナ王国を再建し、
・ストラウス家および竜騎士の伝統を保つ最善の方法として、
・帝国貴族の一員でもある息子アシュレイを、何かしらの形で元・ガルーナ王国の土地の支配者にすること。
です。
息子をガルーナの王か統治を任された大貴族にし、アンジュー家を発展させつつガルーナ王国も再建したいと考えています。
再建したいガルーナ王国の政治的なスタンスは、かつてのガルーナ王国のように多人種国家や人種の共存を目指す国ではなく、もはや人間族中心の帝国的な国にしかならないとあきらめています。
不可能に思えることには興味を抱かないのがマーリアです。マーリアには昔のままのガルーナ王国など、より人間族が優位的になっていく世界情勢では再建されないと考えています。
その反面、現実的な可能性には異常なまでの執念を燃やします。
息子アシュレイ、マーリアが手塩にかけて育てあげており、ストラウス家の伝統を継承するのはアシュレイであればいいと考えています。
ソルジェはストラウス家の伝統の真の継承者という自覚はありますが、しょせんは四男であり正統な教育を受けていたかというとそうでもなく、マーリアからすれば逸脱したところが多々あります。
※マーリアは長子であったため、父親とアーレスから正調な竜騎士とは何なのかの教育を受け、また竜騎士的な才能が高かったため、それらの全てを吸収して伝承しています。ガルーナ滅亡後は、誰よりも正調な竜騎士の教えを継いだ者になります。
マーリアはソルジェを愚弟という評価をしています。
ソルジェはストラウス家の伝統も使いこなしますが、それ以外の独自性も多くあるとマーリアは見ているので、厳格で冷徹な性格のマーリアからすれば、真のストラウス家の伝統を継ぐのは自分と自分の息子であり、ソルジェになればむしろストラウス家の伝統は廃れるとも考えています。
※マーリアの主観であり、客観的にもこちらが真実です。ソルジェは正当な継承者ですが、竜騎士として正統ではなく異端なところがあります。ストラウス家の技より強く、『普通の竜騎士』にはマーリアからは子供のころから見えていません。アーレスのソルジェに対する入れ込み方に、異質さを感じていました。
アーレスは『グレートドラゴン/耐久卵の仔』という弱体化した竜の群れ(弱くなった自分の家族と殺し合って全滅させ、強い自分の子孫だけで竜の群れを再建することがグレート・ドラゴンの使命です。)を滅ぼすための装置でもあり、ソルジェはストラウス家にとってはグレート・ドラゴンだとマーリアは本能的に認識しています。
技術的、伝統的な意味での異端者として、これまでストラウス家が伝えて来た伝統に取って代わる存在だと警戒しています。ソルジェが『親族キラー』になるのではなく、自分たちのアイデンティティーに対する破壊者であり、そういう意味での脅威だとも弟のことを認識しています。
弟ソルジェを殺すこともマーリアの人生の目的の一つになります。ソルジェが生きて反帝国活動をするほどに、その姉である自分が嫁いだアンジュー家の立場のリスクになるからです。
※ガルーナ王国が滅ぼされた直後は、ソルジェが生きているならファリス国内に迎え入れたいとも感情的には願っていましたが、ストラウス家の一員がそんなことを受け入れるはずもないと判断。
ストラウス家らしく『家族のために戦いたい※それぞれの家族、ソルジェはストラウス家のために戦い、マーリアはアンジュー家のために戦いたい』ならそう在るべきで、そのうえで自分がソルジェを殺せばいい、という判断を下しています。
自分でなくても、ソルジェがストラウス家として戦ってどこかで死ねば、それはそれでストラウス家に生まれた者としては正しいのだと考えています。
弟を殺すためと、息子を鍛えるため。帝国の軍事活動を支援するために、マーリアは息子をつれて大陸各地の戦場で傭兵として戦いに参加し、戦果をあげています。
プライベートな活動とすることで、帝国国内の政治的な嫌がらせに妨害されず、戦果という実績を大量にあげつつ、息子を好きなように『正調のストラウス家の竜騎士』に育てるためです。
マーリアの息子アシュレイは、明るい性格の美少年ですが、天才的な剣士であり、叔父であるソルジェを殺してその竜太刀を奪って自分のものとすることを目標の一つにしています。
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