第6話 『バレンタイン』
「お見事。」
聞き覚えのある声と言った覚えのあるセリフが聞こえたので振り向くと、そこには簪の姿があった。
「そりゃ、どうも。って…見てたのかよ!助けてくれたらよかったのに」
「今来たところだったのよ。それより、さっきの人形は『擬態』の人形かしら?」
「擬態?なんだそれ?」
「あら、説明していなかったかしら。魔術で殺された人間の成れの果てが『人形』ってこと。」
「確かにそれは聞いたけど、それとこれはなんの関係があるんだ?…もしかして、生前のこいつが擬態魔術を使っていたということか?」
「ご名答ね。あなたの言う通りこの人形は人間だった時擬態魔術を使っていたんでしょう。人形には二種類あって、自我がない
「あぁそうだよ。だってこいつ、擬態の他に炎で攻撃してきたのだから。」
「え?炎で攻撃?それって、特殊魔術?」
「うーん、多分そうなんじゃないか?」
実は特殊魔術と物理魔術の違いは曖昧で、当時の僕もよくわかっていなかったのだ。だから今の僕が昔の僕に変わって読者にわかりやすく説明するけれど、特殊魔術は体の外に影響がある魔術。炎とか水とかを何も無いところから生み出したりすることである。物理魔術は自分自身の肉体に影響を与える能力。筋力増強だったり疲労回復だったり。そして、なんで12年前の僕がこんなに簡単な魔術に関してよくわかっていなかったかと言うと、勘違いしていたからである。というのも、実際に見てもらった方が早いので、恥ずかしながら話の続きを見てほしい。
「確かに炎が出たのなら多分というより絶対特殊魔法ね。それにしても聞いたことがないわ。特殊魔術を使う人形…」
彼女が1人で何かブツブツ言っていたが、気にせず僕は意見した。
「断言するのは早いんじゃないか?だって炎って、料理で使うじゃないか。」
「…え?」
そう。当時の僕は物理魔術を『日常生活で使うもの』と解釈していた。今考えてみたらとてつもなく恥ずかしい発言なので、取り消せるのなら今すぐ取り消したいものである。
「…ふふふ、ははははは!あなた、面白いわ!」
僕は彼女がここまで大爆笑する理由がわからなかった。今ならわかるけどね。
「…って、あざみは今どこにいるんだ?無事なのか!?」
「一般的な擬態魔術っていうのは擬態した標準が死んだ瞬間に魔術が解けるから、無事だと思う。ここら辺を探してみる?今なら暇だし手伝ってあげるけど。」
「それはありがたい。けど、僕だけでいいよ。」
そう言って、僕は1人で妹を探し始めた。
◇
中学校の屋上に男女が2人。
「おっと。フェイクが死んだみたいだよ。まぁ戦闘能力は全くと言っていいほどなかったし、期待もしてなかったけどねぇ。」
「あの男を殺したいなら、お前が行って確実に殺したら良かったんじゃないのか?」
2人は雨に濡れていた。女に指摘された男は濡れた前髪をかきあげて喋りだした。
「ハハ、何も分かってないなぁ。ただ殺すだけじゃあ、つまんないだろう?もっとこう、絶望のどん底に叩き落としてから殺したいんだよ、僕は」
ニヤリと笑った彼の顔は、悪魔的だ。
「ああ、そうか。だからフェイクを奴の妹に擬態させて殺しにかかったという訳か。」
「そういうことさ。でもあいつ、意外と強いみたいだねぇ。炎効いてなかったし。」
「奴は肉体強化を使っているのか?それとも防御魔術を?いや、でも奴にそれほどの技術がある訳がない。人形について知ったのもついさっきみたいだし、見たところ戦闘経験は皆無っぽいしな。」
「へぇ。これが天才か。コワイコワイ。」
「お前が言うな。皮肉にしか聞こえないぞ。」
「いやいや、フレイルも充分強いって。」
2人がお互いを強い強いと言い合っていると、屋上にもう1つ人影が増えた。
「御二方。皐月様がお呼びでございます。」
そう言うと、3つの影はボウと消えた。
◇
「あざみ!」
散々探し回った結果、あざみは自分の教室の中にいた。
「あ、お兄ちゃん。こんなところで何しているの?」
「いや、雨が降ってきたからさ。傘を持っていこうと思って学校に来たんだ。」
あぁそうとあざみは軽く流した。よく見ると、彼女は何か包装された物を持っていた。
「なぁあざみ。それ、なんだ?」
「今日バレンタインだからさ、お兄ちゃんに作ってあげようと思って。だから部活に行ったの。」
こ、この子は!!なんていい子なんだろう!!全く誰に似たんだ。こんなに可愛いルックスもこんなに優しい性格も、誰から受け継いだのだろう。もしこれが実の妹じゃなくて他人だったら間違いなく恋をしていたに違いない。というか、している。
「うふふ、お兄ちゃんニヤニヤしすぎ。そんなに嬉しかったの?」
「え!?顔に出ていたか!?」
クール系お兄ちゃんを突き通していた僕だったが、この不意打ちバレンタインチョコにはニヤケざるを得ない。
「だって嬉しいからさ。あざみが、俺の事を思ってくれながら作ったチョコだと思うと、もう食べるのも勿体なくて…」
「いやそれ余り物だよ。」
「…え?」
彼女の口から信じ難い言葉が放たれた。余り物?じゃあこれは本命じゃないのか!?
「な、なぁ。じゃあこれは、本命じゃないってことか…?」
僕がそう聞くと、彼女は笑って返した。
「うふふ。何言っているのお兄ちゃん。お兄ちゃんなんだから、本命なんておかしいでしょう?」
こうして、12年前の僕のバレンタインは幕を閉じた。
午後11時30分
僕は寝る前にふと窓を開けて、外を見た。すると、何やら僕を呼ぶ声が外から聞こえた。
「根賀くん。ちょっと、降りてきてくれるかしら?」
家の前には、パジャマ姿の月城 簪の姿があった。
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