第5話 『包丁』
「手伝うって…何を?」
「見てたんだから、言わなくてもわかるでしょう。人形退治よ。」
「いや、僕運動神経悪いからそう言うのは…」
「大丈夫。」
「というか僕ナイフとか扱えないし…」
「大丈夫」
「てか傘を届けに行かないと。それじゃあ」
「大丈夫。」
この人は僕が人形退治を手伝いますと言うまでどこにも行かせないつもりなんだろう。何を言っても大丈夫と返す彼女を見ると、少し機械っぽさがある。
「ええと…人形退治って言っても、僕は何をすればいいんだ?」
「私と一緒に戦うのよ。まぁナイフが扱えないのならカッターでも包丁でもいいわ。とりあえず人を殺せるような狂気を使って人形を壊すのよ。」
カッターも包丁もナイフと大差ないと思うのだけれど。
「なるほどね…じゃあ、次の質問。次人形が現れるのはいつ?どこ?」
「そんなの分かったら苦労しないわよ。6時から9時の間、私と一緒に町をパトロールします。」
「それって、デートみたいですね。」なんて冗談を言おうとしたが、今の段階の彼女は一応初対面なのだし、距離を置かれそうなので言わなかった。
「まぁ、とりあえず明日から手伝いますよっと。今日は用事があるので行くから。」
そう言って僕はその場を後にし、走り出した。先程の人形が壊れたからか靴の裏に付いていたドロドロが綺麗さっぱり取れているのに気づいたのは走り出して少し経ってからだ。これで少しは走りやすくなったと思うので、1秒でも早く妹の元へ向かおうと全力疾走する兄の鏡が、そこには居た。
◇
中学校に着いた。が、そこには誰もいない。少し早かったようだが待つことには慣れているのでそのまま校門前で待つことにした。
午後7時54分
いつもに比べてあまりにも遅すぎる。先に帰ってしまったのだろうか。とりあえず学校に妹がいるのかどうか確認するために3年1組の靴箱を見た。
「…靴が残っているな。まだなのか?―――――――しゃーない。見に行くとしよう。」
僕は今日本意で学校に足を踏み入れた。あわよくばあざみの料理シーンをこの目で見れるかもしれない。と思い、僕はワクワクしながら足を前へ動かした。
「調理室…ここだ。」
まあ料理部なら調理室だろうと思い、ドアを開こうとした。しかし開かない。鍵は掛かっていないはずなのに、びくともしない。まるで内側から誰かが押えているような感覚である。しかし妹の料理姿が見たい僕は必死にドアをこじ開けた。ドアを開けた時変な弟がしたけど、多分壊れてないから大丈夫。
「なんだ…これ…」
僕の目の前に映ったのは料理をする生徒ではなく、辺り一面に広がった黒いもの――――言ってしまえばさっき僕が踏んだヤツだ。ここにこれがあるってことはもう少ししたら人形がやってくる。と察した僕は、近くの包丁を手に取り構えた。
午後8時
足音が聞こえる。少しづつ足音が近づいてくるのがわかる。
僕は戦闘経験がないので速攻で片を付けよう。そう思い、恐る恐るドアに近づく。そして今、足音の正体が部屋に入ってきた。僕は包丁を振り下ろし―――――――――――
「お、お兄ちゃん…!?」
「…え?あざみ?なんでここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフよ!お兄ちゃん、包丁なんて持ってどうかしたの?」
「いやだってほら。部屋もこんなにぐちゃぐちゃだし、なにか来るかもしれないだろ?だから構えていたんだよ。」
「…何言ってるのお兄ちゃん。普通の調理室じゃない。ほら、早く一緒に帰ろう!」
なるほど、大体わかった。
まずひとつ。人形と人形によって生み出される黒いものは、一般人には見えない。
ふたつ、人形を見ることができる人は限られているので、月城 簪は僕に協力するよう申し出た。
そして最後のみっつ。こいつは――――――――――――――――――偽物だ!
「そこぉ!」
僕が包丁を振りかざすと、あざみは、いや、あざみの偽物はサラリとかわした。
「くそ、なんでバレたんだ。私は完璧だったはずなのに…!」
「僕の妹はあんなに元気よく『!』や『?』を使わないよ。僕はあざみが好きだから、見分けるのなんて簡単だね。」
と、口では言ったものの、内心かなり心が痛い。何故なら僕は姿だけの偽物とはいえあざみに向かって包丁を振り回しているのだから。しかも全く当たらないし。
「じゃあ次はこっちの番で。」
彼女の手には紅い炎があった。
「燃えろ!」
「うおっ!?」
足元に炎が舞った。かろうじて避けることが出来たが、もう一度放たれたら一溜りもないだろう…というか、特殊魔術を使うのは犯罪ですよ。しかもその見た目で犯罪を犯すなんてもっと酷いですよ。ちょっと!
「ふん、避けたか…ならばもう一度、燃えろ!!」
「熱っっっっっっっっっ!ぐぎゃああああ!!」
彼女の炎により壁は溶ける溶ける、部屋の温度上がる上がる。そして何より、僕燃える燃える。
…そうだ。タイムリープがあるではないか。ここは20分前に…いや、やめておこう。
「燃えろ!!燃えろ!!」
そんなこと考えている間に僕は火だるまになってしまった。でも何故かさっきから意識ははっきりとしているし、手足も動く。せっかく体が動くのならやられっぱなしは嫌なので、反撃に出ることにした。
「オラッ!当たれ!くそっ!」
やっぱり何回包丁を振り回しても、僕の攻撃は1回も当たらない。
「とりゃ!この!はっ!」
「燃えろ」
「ぐわぁぁぁぁぁあああああ!!」
僕が斬りかかり、避けられ、燃やされる。これの繰り返しである。
「何とか弱点を見つけないと…ええと…そうだ!」
随分外道だが、僕は彼女の喉を潰すことにした。炎を出す時に毎回『燃えろ』と言っているので、喉を潰してしまえば無力だろう。でもどうやって潰す?
「あぁいいや。もうここはゴリ押しで」
僕は彼女に近寄り、教室の端まで追い詰めた。傍から見ると火だるまになった男が美少女を襲っているように見えるけれど、残念ながら襲われてるのは僕なんです。
「燃えろ!」
「もう慣れたよ。僕は燃えない。いや、燃えているけど、ダメージはないってことね。」
僕は深呼吸した
「とりゃっ!」
僕の正拳突きは見事彼女の首にクリーンヒットした!
「カハッ!…ゲホゲホ!!」
苦しそうにむせている。よし、今のうちに包丁で首を…
「おにい…ちゃん…!」
僕の手が止まった。偽物なのはわかってるし、今すぐ殺さないとまた反撃されるのはわかっているけれども、その見た目で苦しそうにそんな事を言われたら殺そうにも殺せないじゃないか。くそ、卑怯だ。くそ、くそ、くそ!
「くる…ひい…よ…ゲホ、ゲホ」
「うぅ…うわぁぁぁぁぁあああ!」
僕は目をつぶって、彼女の声が聞こえないように大声を上げて彼女の首を落とした。
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