第6話 病院

 私の祈りが通じたかどうかは分からないけれど、翌朝におばさんが来てくれて、冬馬が集中治療室から出たと連絡があったって教えてくれた。

 おばさんは今から検査の結果を聞きに行くんだけど、弥生ちゃんも一緒に来て欲しいと不安そうな顔で言った。

 私は隣にいたママに今日も明日も、冬馬が登校出来るようになるまで学校を休むって言ったら、ママは


「当たり前でしょ、さあ、行くわよ」


 って言って、おばさんや私と一緒に病院に行くって力強く宣言した。


 病院に着いたら、直ぐに担当医に呼ばれた。

 ママは先に冬馬の病室に行ってくれた。私はおばさんと一緒に担当医の話を聞く為に部屋に入った。


「結論から言いますね。脳に大きな腫瘍が出来ています。今は薬で肥大化した腫瘍を小さくしようと試みています。で、今朝撮ったMRIがコチラになります。この白い塊が腫瘍なんですが、一回り小さくなっています。あともう少し小さくなれば、手術が可能になると私は考えております」


「せ、先生、手術したら息子は元気になりますか」


 おばさんの質問に担当医は少し難しい顔をした。そして、


「気を落ち着けてお聞き下さい。冬馬さんの脳に出来ているこの腫瘍なんですが、場所が悪くて小さくなっても完全には取り除けないかも知れないんです。但し、今現在、脳を圧迫している状態からは良くなります。その後は投薬で様子を見ながら治療していく形になります」


 担当医の言葉に呆然とした表情で頷くおばさん。私は思わず担当医に聞いていた。


「先生、冬馬は死んだりしませんよね! また、元気に笑ってくれますよね!」


 私の言葉に担当医は、


「私も最大限、努力します」


 と言葉少なに答えた。

 

 私とおばさんは冬馬の病室の前で気持ちを切り替える。私達が暗い顔をしていたら冬馬まで不安になってしまう。そう二人で話し合って、意を決して病室に入った。


 そこにはいつもの笑顔でママと話をしている冬馬がいた。そして、私を見て


「弥生、心配かけてゴメン。でも、学校を休んじゃダメだよ」


 笑いながらそう言った。


「母さんもゴメンね。忙しいのに。でも、大丈夫だよ。熱は下がったし、看護士さんも付いてくれるから、帰って仕事して」


 そんな冬馬に私は涙が出そうになったけど、堪えておどけて返事をした。


「イヤよ、冬馬と一緒じゃなきゃ、ぜーったいに学校なんか行かないから。だから、早く元気になってよね」


「えー、ダメだよ。弥生。僕の分も勉強して、僕が遅れた分を教えてくれなきゃ」


「ハイハイ、二人ともそれくらいにして。弥生、美鈴さん、先生の話はどうだったの?」


 ママがそう言って私達を見た。おばさんは何とか笑顔で冬馬に言った。


「冬馬、あなたは私が嘘をついても直ぐに分かるから、先生に言われた事を正直に言うわね。あなたの頭に大きな腫瘍が出来てるそうなの。でも今は薬でその腫瘍を小さくしている所なんだって。それで、もう少し小さくなったら、手術して腫瘍を取り除くんだって。その後はリハビリが待ってるわ」


「ふーん、そうかぁ。それで頭が痛かったんだ。偏頭痛か知恵熱だと思ってたけど、違ってたんだね」


 冬馬はそう聞いてもいつもと全く同じ雰囲気で返事をした。そして、


「弥生、早希さん、今日は母さんに付いてきてくれて有難う。毎日とは言わないけれど、またお見舞いに来て欲しいなぁ」


 なんて言うから私は少し怒ったフリで、


「ちゃんと、毎日来るわよ!!」  


 そう返事をして、ママと二人でその日は家に帰った。

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