第六話 新たなる婚約
カミラが泣いている間、ザックは黙って背中をさすってくれていた。
「ありがとうございます。わたくしあの出来事と初めてちゃんと向き合った気がします。今まで商品を作ることで逃げていました」
「それならば良かったです。カミラさんが秘密を打ち明けてくれたので、私は三つ秘密を教えてさしあげましょう」
「三つもですか? なんだかわたくし特をしてしまいますね」
さっきまで泣いていたカミラの顔に笑顔が戻ってきた。
「一つ目は、私の失敗談です。私は小さい頃から悪魔が怖くて怖くて仕方がなかったんです。大人になってもう大丈夫かなと思っていたのですが、この間訪ねたお屋敷で玄関にある悪魔の石像を見て叫んでしまいました。しかもその石像をよく見ると、悪魔ではなくそこの家で飼われていたという犬だったのです。あれは恥ずかしかった……屋敷に何十人も集まっていましたからね」
「それはお恥ずかしいですね。ふふっ、なんだか可愛らしいです」
「二つ目は、私の失禁に関する話です。実は私はちょくちょく失禁をしているんです。残尿というんですかね? 馬車に揺られて道が荒れている時や、重い荷物を持ち上げる瞬間なんかにたまに出てしまっています。なので男性用の失禁布を開発したあかつきには、私が使用者の第一号になるつもりなんですよ」
ザックは優しい笑顔でそう話した。
(本当に優しい人。わたしの気持ちのためには自分の恥ずかしいことも話せる。偉そうで、ただかっこつけるだけの貴族とはまったく違う)
「それは初耳でした。是非男性用を開発しないといけませんわね」
ザックにつられてカミラも優しい笑顔になっていた。
「三つ目は、私の恋についての話です。実は私には好きになった女性がいます。その人はとても美しく、素直で、優しくて、一生懸命な女性です」
(ザックさん好きな人がいたんだ……)
「それは素敵ですね。ザックさんに慕われるなんてその方が羨ましいですわ」
「そうなんですか? なら良かった。その女性の気持ちが良くわかっていなかったもので。言い忘れましたが、その女性は貴族のご令嬢でありながら商人として大成功をおさめ、今も私と旅をしてくれているんです。とても素敵な女性なんですよ」
「え、それって……」
「カミラさん、私はあなたが好きです。こんな時に言うのは少し卑怯かもしれませんが、それでも言わせてください。好きです。私と婚約していただきたい」
「ザックさん……。わたくしなんかでよろしいのですか?」
「なんか、ではないですよ。カミラさんが良いんです」
「……嬉しい。是非、お願いいたします」
(お互いの失禁の話をした後でのプロポーズ、たぶん他人が聞いたら最低だと思うんでしょうね。笑われるかもしれない。でも、わたしからしたら『幸せになれる』という確信がもてるこれ以上ない最高のプロポーズ……。どうしよう、わたしもうすでに幸せだ)
カミラはまた泣き出してしまった。
こうしてカミラとザックは婚約することとなった。
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