第五話 泣いてください
二人は貴族の屋敷を渡り歩いた。評判は上々で、すぐに別の工房にも作成を依頼することになった。
「カミラさん、私の考えが甘かったです。まさかここまで売れるなんて。貴族の令嬢だけではなく、ほとんどの令嬢が侍女の分までまとめて購入するなんて」
「みんな働きたくても働けなかったんですね。わたくしも想像していなかったです」
「大量生産でもっとコストを下げれそうですし、今後は平民や周辺国にも売り出しましょう。試作したと言っていた綿を使った高級版も作りましょう」
「そうですね。本来の目的である失禁用には使ってもらえなさそうですけど」
そういってカミラは笑った。
「カミラさんは前からそこにこだわってらっしゃいましたね」
「そうなんです。今ではもう笑い話なんですけど以前失敗してしまいまして。聞いてくださいますか?」
(やっとこの話が出来る! 絶対誰かにわたしの失禁の話を聞いてるはずなのよね。ザックさん職業柄かなりの情報通だし。行ったお屋敷のいくつかでそこの令嬢がわたしの顔を見て驚いた顔してたし。ザックさん全然触れてこないから逆に気まずかったのよ)
「失敗ですか? もし話すのが嫌でなければお聞かせください」
「では言いますね。実はわたくし以前婚約をしておりました。その婚約を破棄されてしまいまして……」
「婚約破棄ですか? それはおつらかったでしょう」
「ええ、まぁ。その破棄された理由なのですが……わたくし婚約パーティーの場で失禁をしてしまいましたの。色々な不幸が重なった結果です」
「失禁……ですか。それでこの商品を開発されたんですね」
(全然驚いてないし動揺もしていない。やっぱりそうだよね、知ってたよね。恥ずかしい……)
「そうなんです。本当にお恥ずかしい。どうか笑ってください」
カミラは精一杯笑ってみせた。
「カミラさん、もう過去の話でカミラさんにとってただの笑い話というのなら良いのですが、つらかったのなら無理に笑う必要はないと思いますよ。なんだか無理をされているように見えます」
「え……。無理しているように見えますか?」
「すみません! 失礼な言い方でしたね。少しそう感じてしまいました」
(初めて言われた……。でもきっとそうなんだろうな。わたし全然乗り越えていないんだ)
「そう……なのかもしれません。ごめんなさい、この話をする時はいつも笑うようにしていたので、おっしゃる通りわたくし無理をしていたのかもしれません」
カミラは急に湧いて出てきた涙を抑えることができなかった。
ザックは泣きじゃくるカミラの隣に座り、カミラを抱きしめた。
「失礼しますね。これで私には泣き顔は見えません。思う存分泣いてください」
カミラは大人になってから初めて人前で大泣きした。涙が止まるころには空が暗くなっていた。
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