流出
天養2年(1145年)1月29日
こんばんは平重盛です。
僕には家族の中でなんとなく苦手な人がいます。
平家盛殿
清盛パパの異母弟です。
以前、清盛パパには狼の神様である大口真神がついていて、僕には多分その子の狼3匹がついているという話をしました。
種類や大小は別にして、他の皆にも何かしらのものがついています。
「いや、一人ついていない人がいたなあ」
-藤原頼長様
あの方には何もついていなかった。ただ、あの方の周りの空気が異様に澄んでいた。
この時代の空気は、現代にはなかった淀みのようなものがある。ファンタジー風小説なら魔素とでも表現するのかもしれないが、現時点で淀みの正体は不明である。
その空気が頼長様の周囲だけ澄み切っていたのだ。
ただ、これらの現象はみんなには見えていないみたい。
いや、単に見える人に出会っていないだけの可能性もある。
現にじいちゃんなんかは、時々、僕の子狼たちに視線をあわせているようなことがある。
おっと、話が横道に逸れてしまった。問題としたいのは家盛殿だ。
家盛殿には腐った魚のようなものがべっとりと張り付いている。
明らかに悪霊か何かそういったものを想起させる。
そのことを抜きにしても、清盛パパや僕に対する目つきは信のおけるそれではない。
平家盛が歴史上どういった人物だったのかは知らない。
日本史に登場したら覚えているはずだから、重要人物ではないのだろうけど。
「いや、そうでもないよ。」
「おわっ!」
後ろから突然、母さまに声をかけられた。
どうやら口に出して言っていたようだ。
「な、なんのこと」
歴史がどうとか聞かれてしまったか!?
動揺からすぐに立ち直れない。
「家盛殿のことや。」
あ、そっちですか。
母さまが教えてくれたところによると、清盛パパと家盛殿は絶賛家督争い中とのこと。
しかも、母親の身分は家盛殿のほうが上だから、清盛パパが何か失策でもすれば、一気に追い込まれることもあり得るそうな。
ちなみに、僕がいつも「ばあちゃん、ばあちゃん」と言っているのは、清盛パパの母ではなく、家盛殿の母。
たぶん、後の池禅尼だと思う。平治の乱で捕まえた源頼朝の命乞いをしたという、あの人だ。
清盛パパが泣き落としで頼朝助命を決断したとは思えないので、おそらく僕の知識にない何かがあったのだろう。このイベントは平氏にとって最重要な分岐点だから、しっかり介入したい。
父様が歴史上の英雄だと知っている僕からすれば、まったく何の心配もいらないのだけれども、清盛パパに味方する人たちからすれば気が気でないらしい。
「さ、この話はこれでおしまい。今晩は雨も降りそうやし、はよ寝よか。」
その日の夜、京では一晩中、強い風とともに大雨が降り続いた。
増水の影響で床下浸水した邸宅も少なからずあり、そこには僕の住む邸宅も含まれていた。
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