第6話 孤独な執筆の光明 ~文学フリマ~

 プロ作家を目指してひたすら執筆し、新人賞に応募を続けるというのは、孤独な作業だ。何らかのご褒美や楽しみや伴走者がないと、長くは続けていけない。

 私の場合は、文学学校で知り合った仲間との切磋琢磨や、文芸同人誌を発行していろいろな人に読んでもらい感想をいただくことが、創作活動の励みになっていた。


 関西の純文学系文芸同人誌には「合評会」という風習がある。

 発刊から一ヶ月後くらいたった頃、公共機関の貸し会議室などを使って同人以外の読者に来てもらい、掲載作品に対する意見交換会のようなものを行うのだ。二次会として飲み会も設定されているので、これも込みで楽しみに参加する人が多い。


 同人誌は一応「頒布」という形で価格設定はされているものの、知り合いに無料で配ったり、同人誌を出している者同士が交換したりする事が多い。従って、読者はほぼ気心の知れた仲間同士なので、合評会に参加するハードルも低くなる。文学学校卒業生にとっては、かつてのゼミ合評会のような懐かしさもあった。


 もちろん合評する際はきちんと作品を読み込み、いいところはいい、引っかかった部分はその旨を伝える人がほとんどで、有意義な時間が過ごせる。しかし、どうしても内輪の居心地の良さに甘えることもあるし、飲み会が楽しすぎるしで、もう少し外の世界に出た方がいいのかなぁ、と個人的には考え始めていた。


 そんな折、当時全盛期のmixiで知り合った東京の書き手さんが、「文学フリマ」なるものに参加していると聞いた。

 

 文学フリマとは、文学作品の展示即売会だ。

 この場合の「文学」とは、「自分が〈文学〉と信じるもの」なので、会場には小説・物語・詩・俳句・短歌・ノンフィクション・エッセイ・評論・研究書とさまざまな本(時には本の形をしていないもの)が並んでいる。入場は無料、出展参加者はプロ・アマ問わず、年齢は10代から90代までと、まさに文学の祭典だ。


 現在は全国8カ所で開催されているが、当時は東京のみだった。私は「文学フリマ」に参加したくて、当時籍を置いていた同人誌「カム」のメンバーに相談したところ、「面白そう!」とブース出展することになり、同人数名で東京へと向かったのであった。


 当時の文学フリマ東京は、大田区産業会館PiOで行われていた(現在は東京流通センター)。広いワンフロアに約530のサークルが出展、来場者数は約4,000人だった。

 会場いっぱいに机が並べられ、そこで皆が作った思い思いの本を売っている。その光景を見て、こんなにもたくさんの人が文学に魅せられ、作品を創り本を出しているのか! と圧倒されたものである。

 だって、広めのホールが文学だらけなんですよ? 普段の生活では読書が趣味の人をぽつぽつ見かけるくらいで、書いている人なんて皆無なのに(文学学校は別)、どこにこんなにいたんだろう。


 会場の熱気にすっかり魅せられた私は、同人誌を売ったり買ったり、Twitterで感想をつぶやいて作者と交流を持ったり、おもしろかったサークルは毎回追いかけたりと、その後十年近く文学フリマに参加することになる。

 現在は私の行動圏内である大阪と京都でも開催されているため、文学フリマに合わせて、応募原稿やカクヨムにアップするものとはまた別の作品を書いて、同人ライフを楽しんでいる(今は古代・古典系サークル「稲麻竹葦」所属)。


 昔と違って今は、カクヨムをはじめとしたWeb小説も盛んになって、作品を発表し読んでもらえる場も、仲間を作れる機会も増えた。Web経由でのプロデビューだって狙える。

 とはいえ対面の同人誌即売会にはWebにない魅力もあるので、自分に合ったプラットフォームを確保することも、長く執筆活動を続けるコツだと思う。自分を支える柱は、多いほど崩れにくいのだ。



 個人的な文学フリマの楽しみ方


・お気に入りのサークル/作者を見つけて推す! とにかく推す!


 WebカタログやTwitterの宣伝などから、好みの同人誌を見つけて購入し、おもしろかったら感想をつぶやき、次回もブースへ行って新刊を買おう。推し作家がプロデビューする瞬間に立ち会えるかも!?

(この作者さんいい作品を書くなあ、と思っていた人がのちにS文学賞を受賞し、さらに芥川賞候補になったのを目撃した。あと、拙作に感想をくださった読み専の方が、S新人賞を受賞し芥川賞にまで輝いて腰を抜かしたこともある)


・プロ作家さんに会える


 商業デビューしている作家さんが、宣伝もかねてブース出展したり、所属同人誌で売り子をしたりしているので、ファンの人は(邪魔にならない程度で)ブースへ行って本を買おう。お願いすればサインをしてもらえるよ!

 ときどき一般参加でふらりと来られる方もいらっしゃるので要チェック(知り合いは、又吉直樹さんが通りかかったときにすかさず自サークルの同人誌を献本したそうだ)。


・ライバルを見つける


 たまに否定的なコメントをもらうことがあるのだが、逆に「こいつには! 負けない!」と発憤し、「ケチをつけられないよう頑張るぜ」と作品をさらにブラッシュアップしよう。最初は腹が立った相手も、いつの間にか好敵手だ。


・会場の雰囲気を味わおう


 文学を愛する人が広い会場いっぱいに集結して、めいめいの作品を平積みにして頒布し、推し本を買い回る、その雰囲気を全身で味わおう。自信をなくしたりスランプに陥っていたりしても、この活気のおかげで「よっしゃああ!」と復活できたりもするよ。

 ちなみにスタッフはみなさんボランティア。書き手と読者の架け橋となる場を支えて下さることに感謝しかない。

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