第5話 賞への挑戦 そして
前回は公募35敗の話をしたので、今日は「勝」のときの話を少し。
(賞がらみは話しちゃいけないことが多いので、差し障りのないことだけ)
実は私、純文学系の地方文学賞を受賞したことがある。
最終候補に残った段階で電話が来て、最終選考に残っていること、選考が行われる日時などを伝えられた。
「当日の午後五時までに電話がなかったらダメだったと思って」と前もって言われていたので、私はその日、人のいない静かに待てる場所を探して彷徨った。結局、高校の時に利用していた無人駅の待合室に座り、時計を何度も見ながら本を読んで待つことにした。一人待ち会である。
本の内容が全然頭に入ってこないまま、時刻は四時四十五分になった。
これは無いな、と早くも諦めモードに入ったとき、駅舎に入ってきたおばさんに「天王寺に行きたいねんけど、どっち行きの方が早い?」と聞かれた(上り下りどっちに乗っても天王寺に行ける立地だった)。
私は「電話がかかってくるかもしれないし、今は携帯使いたくないな」と思いつつも、「これは縁がなかったって意味か」と結論づけ、乗換案内で検索して「こっち行きに乗るといいですよ」とおばさんに教えた。
残り時間は十分を切っている。もう諦めて家に帰ろうとしたとき、電話が鳴った。
「おめでとう、受賞です」
呆然とする中を、今後のスケジュールや必要提出物を説明され、あたふたとメモを取る。連絡事項が終わったところで、私はおそるおそる訊ねた。
「えっと……佳作の方ですよね?」
「何言ってるのよ、本賞よ!」
と言われ、「あ、すみません、ありがとうございます」と間抜けな返答をする私。
本来なら、飛び上がって喜ぶとか、感極まって涙するシーンなのに、自信がないばかりに「佳作の方ですよね」と聞いた自分が情けない。
今までの脳内シミュレーションでは、受賞の知らせを聞いた瞬間というものは、頭の中が真っ白になったかと思うとそこに美しい花が一斉に咲き乱れ、ファンファーレが鳴り響く中を電飾キラキラのエレクトリカルパレードがやってきて今までの努力を称えてくれ、幸せと誇りと達成感に包まれるものだと思っていた。
でもまあ実際は、「連絡事項を聞き漏らしたら大変、紙とペン紙とペン」「あれ、最初に『受賞です』としか言われなかったけど、大賞と佳作どっち?」「著者近撮ってスタジオで撮ってもらうべきかな」みたいな現実的なことで思考を埋め尽くされたのである。
そして電話を切ったあと、今度こそ喜びが込み上げてくるかと思ったけれど、私の場合代わりに湧いてきたのは「不安」だった。
いいのか? 私が大賞でいいのか?
ああ、受賞したらハードルが上がってしまう、下手なものを書けなくなる。
この先私は、ちゃんと書き続けられるのだろうか。
もとがネガティブ思考なもので、周りから「おめでとう!」と言われるたびに、実は胃がキリキリしていたのである。
受賞したことを家族に言うかは、人によって違うだろう。
私の場合、本当は言いたくなかった。
が、この地方文学賞の協賛が新聞社で、毎年受賞者は写真つきで関西版に載っていたため、「新聞見てバレるくらいなら前もって言った方がマシやろ」というほぼ不可抗力で、親に自己申告した。
しかし、ことは親だけでは済まなかったのである。
受賞者として、協賛である新聞社からの取材を(主宰者と一緒に)受けたのだが、そのときの文芸担当記者さんの隣のデスクが偶然私の従姉で、ゲラを見て「あれ? それうちの従姉妹」と気づかれてしまった。なんたる盲亀の浮木。
おかげで、「明日の朝刊に載るから」と従姉から親戚中に連絡が回り、親族全員が知るところとなったのである。受賞作の内容がちょっと「実話だと思われたら目も当てられない」系の話だったので、本当に恥ずかしかった……。
というわけで、受賞したら喜びに満ちあふれてキャッキャウフフのはずだと思っていたのに、意外と実務処理で手一杯だし不安だし恥ずかしい目に遭うのだった。
でも、贈呈式は「我が世の春!」って感じで素直に嬉しかった!
大阪のとある会館で行われた式には、文学仲間もたくさん出席してくれた。ありがとう、ありがとう!!
参考までに、式次第はこんな感じ。
開会の辞→主宰者の挨拶→賞状贈呈→選者による選評→受賞者挨拶→花束贈呈→来賓祝辞(プロ作家)
続いて懇親会(おいしそうな料理が出るが、受賞者は緊張してほぼ食べられず)
協賛会社様による乾杯、招待客(プロ作家)のスピーチ、音楽演奏など。
関西在住のプロ作家さんが複数来られているし、選者お二人は超重鎮だしで、当日は緊張しまくりだった。
受賞者スピーチのあと、なななんとT村K子先生が「スピーチよかったよ。私も投稿時代を思い出した」と声をかけてくださった! 出席者リストに名前のない憧れの先生の突然の登場に、私は思いっきりテンパってしまい、「あああああのあの、いつも読んでます大好きです!」と謎の告白をしてしまったのだった。(体調がすぐれないから贈呈式だけ顔を出して下さったそうだ)
T村先生に握手してもらえばよかった……と今でも悔やんでいる。
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