第4話 小説新人賞への挑戦
2勝35敗。
私の公募の戦績である。2勝はともかく35敗て……。
恐らく、公募にチャレンジしている方には「こいつよりマシ」と安心できる数字ではないかと思う。俺の屍を超えていってくれ。
公募に出し始めた頃というのは、自分の実力を知らないからある意味無敵だ。一作書き上げたことで、やたらハイテンションにもなっている。
受賞したらコメントにこんなこと書こうかな、などと考えてニマニマし、いやいやそんないきなり受賞なんておこがましいウフフ、でもまあ一次は通過するかな、などという本当におこがましいことを考える。
応募直後からそんなことを考えてソワソワするから、次の作品を書かなければいけないのに何も手につかない。本当に馬鹿である。
もちろん一次すら通りはしない。世の中そんなに甘くない。
一次通過者発表のページを目を皿のようにして何度も何度も見直して自分の名前がないことを確認し、約半年間長編執筆に捧げた時間と労力と作品への愛情が無に帰したことに打ちひしがれ、涙と鼻水にまみれて横たわる屍と化す。
そこから起き上がって初めて、本当の戦いが始まるのである。
だんだん公募慣れしてくると、もう気分が浮ついたり一喜一憂したりはしない。
応募締切一ヶ月は修羅場だ。会社員としてはギリギリのところまで睡眠時間を削り、栄養ドリンク片手にゾンビ状態で力を振り絞る。たまにドリンクを飲みすぎてナチュラルに鼻血が出る。(※寿命が縮むからやってはいけません)
そして出力紙を最終確認し(長編だと全部読むだけで半日近くかかるぞ!)、このためだけに買った一つ穴用のでかいパンチで右肩に穴を開け、手が覚えている例の紐のかけ方でしっかりと綴じる(公募によってはクリップOKだけど応募要項に「綴じる」と書いてあったら必ず紐綴じだ!)。レターパックに応募先の住所を書き(宛先と差出人が逆になっていないかチェック!)、クリアファイルに入れた大事な応募用原稿を中に入れる。
本当に締切ギリギリのときは、「当日消印」をもらうために時間外窓口へ持ち込み、「消印は今日付けですよね? 大丈夫ですよね?」と郵便局員さんにウザ絡みし、「ほら、今日の消印を押しましたよ。……いい結果が出るといいですね(応募原稿在中という朱書きを見ながら)」と言われて赤面しよう。
日付に余裕があるときは、郵便ポストの前でレターパックをぎゅっと握りしめて「頼む、頑張れ、頑張ってきてくれ!」と我が原稿に念を送ってから投函しよう。
ネット応募のときは、ちゃんと応募完了メールが届いているか確認だ。
締切は24時だからギリギリでもへっちゃら、と高をくくっていると、「原稿の前ページに下記を記入すること」と書いてある要項を全部書いたら一ページに収まらないけど行数とかの設定いじると本文も狂うからできないし一ページ目だけ別設定にするにはどうしたらいいんだあああ! ということになるので要注意。あと、梗概は意外とくせ者なので早めに手をつけよう。何ごとも、余裕をもった行動が肝心だ。
粛々と次の原稿を書く日々、しかし本当は気になる一次通過発表日。
当日は書店へ行って、あとでレジへ持ってはいくものの待ちきれないのでそのまま文芸誌の該当ページを開いちゃうよね。賞によって、都道府県順、五十音順、受付順と並び順が違うから、とにかく舐めるように自分の名前を探そう。
もし見つけたら、とりあえず喜ぶのはあとにしてレジへ直行だ。落ち着ける場所に移動して、購入した文芸誌をおもむろに取り出し、思う存分自分の名前と作品名を眺めよう。
やったよ! ついに一次通過したよ! さあ、二次は通るかな? もしかしたら最終選考までいけるかも!?
……と思ってしまいそうだけれども、いったんこの賞のことは忘れて原稿の続きを書こう。間違っても二次選考発表日までドキドキしてはいけないよ。
賞の規模によって違うけれど、最終選考に残った人には一次選考通過者発表のあとくらいに連絡が行くらしい。電話もメールも来てないってことは……わかるよな?
ただ、自分が今どのレベルにいるかの確認のため、二次選考通過発表はチェックしよう。敗因を分析し、受賞作&選評を研究し、また粛々と書き進めるのだ……。
とまあ、私の場合、こんな感じで毎回どったんばったん大騒ぎで応募していた。たぶん他の人は、もっとストイックかつ洗練された公募ライフなのだと思う。
できれば私も、修行僧みたいなシュッとした書き手になりたかった……。
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