第一章 何日君再来
無法船の御令嬢
『二等船室』と書かれたプレートの下、白い鳥の姿が描かれている。実のところそれは鳥ではなく、この船の概略図だった。片翼二公里半の巨鳥は、翼のブロック構造を交換することであらゆる用途に対応するという触れ込みだ。
この旅客用エリアも、都市の如く広大な宇宙船の一ブロックに過ぎない。船の名は明神丸。およそ六年前、落ち目の極致にあった世良田財閥は、突如としてこの
個室があってよかった、と少女は一人思い返す。何処の馬の骨とも知れぬ者どもとの共同生活などあまり気分の良いものではない。
鮮やかな南国の鳥が刺繍された絹のワンピースは彼女の故郷、惑星センゲンの特産品だった。火山に恵まれ、地熱を循環させた第二種永久機関を実現するセンゲンは生物資源の宝庫となっている。闇にあって尚光沢を放つ長い銀髪は、少女が上流階級の出身であることを示す。ステータスシンボルとして、生まれてくる子供を遺伝子手術によって銀髪にすることが、ここ数百年
少女の名は万里小路荊。かつてはこの船の所有者である世良田との婚約関係にあったが、今では落ちぶれて密航者の身だ。
六年前、帝亜共栄圏が事実上の瓦解を迎えたときまでは、まだ暮らしに余裕があった。立憲君主制を採っていたセンゲンでは、華族は慎ましやかながらも、庶民よりは贅沢な暮らしが可能だった。仕事といえば、たまにあるかどうかの宮中行事の取り仕切り程度。残りの時間は伝統芸能の継承や学問に当てることで、旧家としての体面を維持していた。
特に万里小路家はセンゲンが未開惑星十九号と呼ばれていた頃、テラフォーミングの起こりより王室魔術顧問として侍る名家。唯一魔法を新しく作り出せる土地、人類共通の故郷である『
風向きが変わったのはここ一年にも満たない期間の事。帝亜共栄圏からの離脱に伴い、外貨獲得の機会喪失による不況。急激な世論の左傾化は、華族狩りとなって万里小路を襲った。
それだけならまだいい。華族としての扶持が無くなるのならば、ため込んだ教養とコネクションを武器に少しばかり生活のグレードを落とせばいい。だが、万里小路にはそれもままならぬ事情があった。その事情が為渡航許可も得られず、ここまでの逃亡劇の果てに着るもの以外全ての財を失って、の明神丸に密航している。
明かせぬ身――とはいえ腹は減る。最低限の栄養を摂取するため廊下に出れば、赤い絨毯敷きもパンプスの足に心地よく。
明神丸の風聞はいささか悪い。帝亜共栄圏崩壊前後、大革命と呼ばれる時代なら、亡命の政府高官など旅客に不自由はしなかっただろうが、今では海賊まがいの武装商船に乗ることも厭わない輩揃いだ。
隣室のさる少将の後家とかいう老婦人、井上氏はもう二年も居座り続けているそうな。極端な人間嫌いで滅多に顔を合わせることは無いが、自分も含めそういった正体不確かな人間が大方の同乗者だった。
では人間嫌いの同乗者の事情を荊に教えたものは誰かと言えば、食堂の主、いわゆるおさんどんと呼ばれる、こちらも長身の老婆。
「こんにちは、愛宕さん。今日もツケで頼みますわね」
荊はボルト固定された椅子に腰かけ、老婆に注文を付けた。老婆は長い鼻ごと貫録のある顔を厨房よりせり出し、魔女めいた甲高い声で答える。
「はいよお嬢ちゃん。まーた鰯飯でええかね?」
「結構でしてよ。宇宙船の中で新鮮な肉が食べられるだけでも僥倖というものですわ」
荊もさるもの、密航者の身で、あまりに堂々とした態度で朝食を頼む。密航も五日目になるが、今の今まで盗みに手を出すことなく生きているのはこの愛宕婆がツケ払いを許しているからだった。渡航費用ともども払うあてはある。万里小路本家の隠し財産を処分すれば一年くらいは十分に事足りるだろう。
「あんたの目的、『魔法を破壊する魔法』っつったけ?」
「ええ、どうしても必要ですの。理由はちょっと明かせないのですけれど」
イズモのある支星にあると噂されるその魔法を探すためには、一年でも足りぬやもしれない。
死者蘇生、時間操作、現実改変――噂レベルの、しかし実在だけは確実な禁忌魔法は数あれど、魔法に干渉する魔法というのはその全てが危険性ゆえに秘匿されている。
攻撃魔法と防御魔法を撃ち合えばどちらかの効果を打ち消すことは出来る。相乗効果で思わぬ事象が発生することもある。しかし、魔法そのものの能力に干渉し捻じ曲げるというのはそのどれとも異なる。一説によれば、宇宙には『魔法を増やす魔法』というものも存在するらしい。本来『真海星』でしか製造できない魔法の符を、無制限に増殖させる魔法だ。時間操作魔法や現実改変魔法が無尽蔵に増殖したときのことを想像すれば、その特異性が理解できるだろう。
魔法干渉型魔法は、その効果を選ばぬが故に特級の危険物たり得る。その上、魔法の符というものは、専用の魔法でしか破壊することができない。
「物理法則崩壊クラスの危機を防ぐために、統合軍の一部が設立した『魔法の処刑場』だったかい? その手の禁忌魔法に関する話は全部が全部眉唾もんだからねえ……。もしよければここの社長さんにでも訊いてみようかい? オバチャン社長さんとはたまに顔を合わせる仲なんよ。旧世良田財閥の頃からの古株だからねえ」
「『たまに顔を合わせる仲』ですか……」
期待は出来そうにない。気はいい人だが、高齢の人間に特有の無邪気さが玉に瑕だった。
鰯飯と味噌汁を、皇族と茶懐石でも嗜むような優雅さで平らげると、一礼をして食堂を出ようとする。その前方に、見慣れぬ男たちが立ち塞がった。
「大兄ちゃん、大兄ちゃん! ここただの食堂だぜ! 食堂のオバチャンもいるんだぜ!」
「三男、三男! アンカーのデータが公開されている場所はここだけとはいえ、俺は旅客用ブロックをうろつきまわっても魔法なんか見つからない、まして船の乗っ取りなんざ出来るわけがないと警告したぞ!」
アンカーとは転移魔法の座標を固定する量子演算装置のことだ。転移魔法とアンカーの固有情報を紐付けることで、一光分程度の距離ならば一瞬で移動が可能となる。
「兄ちゃんそんなこと言ってねえだろ……」
「黙れ次男! 俺たち『宇宙海賊鉄壁四兄弟』のリーダーは誰だ!? この長男の金一郎だろうが!」
揃いの迷彩服。大声でお互いに怒鳴りながら食堂に入ってきたのは三人の男たちだった。
「見ろよ金一郎大兄ちゃん! こいつ銀髪だ! 多分金持ちだぜ!」
荊を無遠慮に指さしたのは大中小と背丈の順に並んでいる内、中の男。一番大きい、金一郎と呼ばれた男が顔を綻ばせる。
「銀次郎よ、我々の目的は小銭稼ぎじゃないぞ。民間では現在唯一旧帝亜共栄圏全域の航行が許されている宇宙船明神丸。そいつが貯め込んだ希少な魔法を、あわよくば船ごと分捕るのだ。手始めに――銅三郎よ、その女を捕まえて人質にしろ!」
「あいよ大兄ちゃん!」
小柄の長髪。最も若く、十代の半ばと思われる三男が、思わぬ速度で飛び掛かってきた。
「狼藉者!」
荊の叫びを横目に、銅三郎は厨房の奥に飛び込む。
「は?」
三男はおさんどんの愛宕婆の背後に回り、そのこめかみに小型のレーザーマシンガンを当てていた。
「おやおや、こりゃ参ったね」
「銅三郎、ババアの方じゃねえよ! 若い銀髪の方だよ! どういう思考回路してたらそうなるんだテメエ!」
「ごめんよ銀次郎小兄ちゃん!」
鉄壁四兄弟が馬鹿をやっている間に、荊は逃亡の為の加速をする。入り口は馬鹿兄弟に塞がれているので、目的は食堂と廊下を隔てるガラス壁だ。多少の怪我は覚悟で、ガラスを打ち破る。
こんな馬鹿共に万里小路の至宝を渡すわけにはいかない。最終的には壊してしまうのが目的だとしても。
だが――。
「破れない!?」
荊とて無策ではない。分厚い強化ガラスでも破れるだけの備えはしてあった。
「鉄壁四兄弟長男、鉄山金一郎――俺の衝撃分散魔法を掛ければ御覧のとおり、生卵をマスドライバーでブチ込もうが割れないのだ」
「魔法って――お前の様な馬鹿海賊が贅沢な!」
金一郎の左腕には、
ガラスに弾かれ額を腫らせた荊は、次男銀次郎に羽交い絞めにされた。
「つうわけだ。ま、正面から攻めても負ける気はしねえが、こいつを連れて中枢まで行くとするか」
「待ちたまえ」
愛宕を放した三男と共に出ていく鉄壁兄弟の背を、止めたものがいる。
それは、さっきまで宇宙ヨットレースの中継をしていたホロディスプレイに映る、銀髪の若い男だった。
「お初お目にかかる。明神丸船長、世良田元康だ」
画面の向こう、二公里離れた中枢より通信を飛ばす世良田元康は、傲岸な眼差しで食堂の一同を見る。
「もうじき関所に差し掛かるというタイミングでの襲撃。転移魔法による移乗攻撃と見立てるが、我々が何者か知った上で挑んできたのだろうな」
落ち着いた深い声だった。記憶が確かなら二十一歳になるが、とてもそうは見えない。
「交易は正常に行っているようだが、このセンゲン宙域においてお前らの
金一郎が断言する。それこそが明神丸の強みであり、また弱点でもあった。
「はなはだしい勘違いだな。帝亜共栄圏の最高評議会より航行許可は得ている」
「その帝亜共栄圏は六年前に崩壊しただろうが」
「崩壊ではない。加盟国が零になっただけだ」
「苦し紛れを言おうが無駄だ。この船、俺たち鉄壁兄弟が貰い受けるぞ! まずは中枢まで案内してもらおうか。従わないのならこの女の頭を撃つ」
金一郎が右手を上げると、銀次郎のレーザーライフルが荊の頤を突いた。不快極まりない。殺せるものならば殺してやりたいくらいだが、今はそれも不可能だ。
「構わないとも。尊い命だ、船の一隻くらいお安い」
本気で言っているのかは定かでない。元康の表情は常に無だった。
「さあ、ゴンドラを用意しよう。遠慮せずに乗りたまえ」
白い船体を磁力式ゴンドラが滑っていく。荷運び用の二頓箱には鉄壁四兄弟の三人と、人質とされた万里小路荊が詰め込まれていた。
「まさかこんな順風満帆にいくとは思わなかったね、小兄ちゃん」
「話の分かる社長さんで助かったぜ」
「あの悪名高い明神丸も、待ち伏せしてやりゃこんなもんか……あるいは……」
当然ながら、たかが旅客の一人である荊と宇宙船と秤にかけるなど、世良田の末裔がするわけも無い。正面、矢じりの様な形をした戦闘機が時速五千公里の相対速度で接近。一瞬の間に、敵の姿を確認する。
「何だあの女、戦闘機の上に座ってやがるぞ!」
「変態が!」
宇宙戦闘機の上に座り、古びた散弾銃を構えているのは女だった。やや骨格が太めだが、宇宙服で強調された胸や尻の丸みが性別を伝える。
「ありゃ鉛弾を火薬で打ち出す銃だよ! 大兄ちゃんの衝撃分散魔法がかかったこのゴンドラが、あんな馬鹿みたいな武器でどうにかなるわけないって!」
散弾銃の女はこちらに構えた。
「やば……!」
荊はその雰囲気で全て悟る。やる気だ。
「“空に満ちるもの、天と風の素よ、我が身に集い護りと成れ”!」
言葉は力を生み、荊の周囲に空気の壁が球状を形成。
「ぎゃ!」
三兄弟はその勢いに弾かれ、ゴンドラの壁を無重力空間の必然としてバウンドする。
「何をしやがったこの女!」
壁に張り付いた銀次郎が、頭から血を流しながら怒鳴った。
「旧術だ。符に頼らない、古い時代の魔法。使えるものが実在したとは……!」
「大兄ちゃん前!」
旧術を使い、大気を身に纏ったのは真空に放り出されても死なないためだ。戦闘機の女は、すれ違いざまに四耗程の散弾を撃ち放っていった。この速度では、撃ったというより置いたと言った方が適切か。
「
オープンチャンネルの通信か、それとも幻聴か。宇宙服で全身を隠した女はそう呟いて後方に消えていった。ゴンドラの透明窓はぽっかりと虚空に空いてしまっている。
「俺の魔法が! 減衰系の防御術に対する反対魔法かよ!」
長男、金一郎の魔法は破られた。最も窓側に近かった金一郎は、急速な気圧の変化により真空中に吸い出される。
「大兄ちゃん!」
「金一郎兄ちゃん!」
弟二人は暴力じみた気流に抵抗しながら、ヘルメットを被る。長男は、間に合わなかった。絶対零度の真空は、鉄山金一郎の肉体を遥か虚空に葬り去る。
「なんて事をしますの!」
放った旧術により一命を取り留めた荊はゴンドラから脱出。空気をわずかに噴出させて船体のハッチを目指す。符を用いた魔法に比べると、旧術の効率は話にならないほどに悪い。『真海星』に住まう本物の魔法使いたちならば旧術のみで神にも近い御業を振るうという。だが、宇宙に進出したヒト族の子孫たる万里小路荊には、大気操作魔法を手持ちの三重水素だけでいつまでも保たせる自信は皆無だった。
「あの銃女――否、世良田元康もですわ。元とはいえ許嫁にこの振る舞いは許しがたいですわね」
元康には知る由もないことだろうが、こうでも思わなくば眼前の理不尽を受け止めきれない。人質を、囮程度にしか考えていない。制圧を前提としても、一か八かで救出は可能だろう――普通ならば。だが、明神丸の連中は明らかに人質である荊の死亡を必然として攻撃を行ってきた。
「狂ってますわ」
冷や汗をかきながらもハッチにたどり着いた。解放レバーを引き、内部に入り込む。緊急与圧スイッチを押すと、酷い耳鳴りと頭痛が荊を襲った。
「っ――!」
悶絶するほどの痛みに耐え、前を向く。
「魚!?」
目の前には、大量の魚が泳ぐ水槽。透過素材で囲まれた巨大な水の塊が、青い光を放っていた。
「宇宙船の中なのに鰯ばかり妙に出てくると思ってたら……こういう事でしたの」
それは養魚場だ。何の目的かあって、大量の宇宙鰯を養殖している。
「畜生、あの女。いや、女かアレ? ともかく金一郎兄ちゃんの仇だ。ぶっ殺してやるぜ!」
荊に続き、悪罵と共に船内に侵入してきたのは銀次郎。そこに銅三郎も続く。
「うぇひひ……いいね、いいねえ……逃げる獲物ってのはやっぱそそるよ。立ち向かってくるのは駄目だね。あんなのは案山子と同じだ。オレにとっては……」
銃女が撃った。装薬銃特有の破裂音が養殖場に響き、銀次郎の前にひしゃげた弾丸が落ちる。
「おい、随分舐めてくれたじゃねえか! 一人欠けちまったが、俺たち鉄壁四兄弟は全員別系統の防御魔法を使う無敵の兄弟なんだぜ。相手がどんな攻撃をしようが、必ず誰かが防げる魔法をぶっ放す! 無減衰の銃撃がテメエの魔法だってんなら俺の盾魔法で正面から受け止め――」
銃女がヘルメットを外した。数日も洗っていないような脂ぎった長い黒髪に、白縁のセルフレーム眼鏡――顔の造作そのものは整っている部類だが、野暮ったい、地味な女だった。
「
一発弾が、銀次郎の肩を付け根から吹き飛ばした。
「痛え!」
「小兄ちゃん!」
撃ちかけたレーザーライフルが暴発し、銃女の横を抜ける。彼女は盾魔法も張っていないにも関わらず、全く気にした風も無くつかつかと三男に向かった。
「貫通魔法――いくつ魔法持ってんだお前!」
「人数分ちゃんとあるから安心してよう」
散弾銃をコッキング。鋼鉄が奏でる堅音が、水槽の部屋に反響して魚が逃げた。
「クソが!」
銅三郎のレーザーマシンガンは鞄のような外観のコンパクトなものだ。ウェアラブル型の詠符機を巻いた右手は、既にトリガーガードの内側にある。
銃女は銅三郎よりも早く引き金を引いた。見れば分かる。実力の桁がそもそも違う。銅三郎の鳩尾に大穴が開いた。心臓を穿つ致命傷。しかし、銅三郎は立ち上がり、傷口から弾を排出した。
「再生魔法かあ……」
「俺自身が肉の盾ってことだ。俺を殺したきゃ原爆でも使うんだな」
血反吐を吐き捨てた銅三郎は、にやりと笑い銃女にレーザーマシンガンを向けた。
銃女は異様な脚力で上方に飛び、三男の視界から消えると、新しい符を入れ直す。個人携行レベルでは、一度に扱える符は一枚が限度だ。宇宙船サイズともなれば、複数の魔法を同時展開しての戦闘が前提となるが。
「うぇ、まずいな」
それは動物的直感か。何かを悟った銃女が、虚空に銃口を向け火を放った。
船内は標準重力下にあるが、無重力浮遊でもしているかの如く、とてつもない反動で空中から急速に横飛びする。その宇宙服の二の腕部分が、何者かに切り裂かれていた。
「自動迎撃魔法かー。あの小っこい子が巻いてた詠符機のスロットは一つだけ……じゃ、誰が迎撃魔法なんて使ったかっていうと」
銅三郎の背から、その魔法使いが出てきた。スナネズミ――だった。
「
自身の身体より大きい詠符機を背負った、鼠の魔法使いだった。
「うぇー、マジでー? 魔法を使う鼠なんて始めて見たよ」
「大昔、『真海星』では、鼠は一番頭のいい動物だって言われてたらしいぜ。二番目がイルカだ。俺たちの末弟は鉄壁四兄弟で一番頭がいいんだぜ。……さあ、殺っちまおうぜ、白金四郎!」
「イルカはともかく鼠は聞いたこと無いよう。君頭大丈夫?」
「うるせえ、死に晒せ!」
互いに撃ち合う。
倒れたのは――否、吹っ飛んだのは鼠の白金四郎だった。四男を守るのは銅三郎の身一つ。雨のように降り注ぐ散弾から鼠一匹を守るには至らなかった。
「
無音の銃撃は、ただ銃身から漂う陽炎でその実在を主張する。
「畜生!」
半ば自棄になって再び引き鉄に指をかけた銅三郎よりも早く、銃女が動く。破裂音一発。銅三郎の脛から下が宙に舞い、鮮血が噴き出る。今度は再生もしない。
「
手傷を負いながらも逃げようとする白金四郎を、無数の微小な弾が捉え、殺傷した。
生命力に乏しい高知能鼠は雀撃ち用の最小弾で絶命。これだけは魔法も何もない、ただの鉛弾だった。
「
四肢が欠損した痛みと悔しさに唇を噛み悶絶する銀次郎、銅三郎を眺め、妙に粘っこい声で喋るキサラギ。顔を赤らめ、宇宙服の股間ははち切れんばかりに張っていた。その魔法は結局のところ、高性能な光線兵器や防弾装甲、迎撃兵器が巷にあふれるこの時代において、ただの鉛弾をいかに実用するかといった目的のためだけに用意された、歪な戦術だ。
火薬に酔い銃撃に欲情する両性は、舌なめずりをして銅三郎のマシンガンを蹴り飛ばした。
「君どうしようか? 元康は何て言ってたっけなあ。忘れちゃった、御免ねえ。とりあえず撃ち殺そうか」
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