第11話 お姉さん×クラスメイト


 「今日、クラスメイトが来るんですよ」


 そう、仲良くなったクラスメイトが中間テストの勉強会と称して我が家に来るらしい。

 というのも、


 「え〜和哉君、一人暮らしなの?」

 「そうなんだよね……」

 「お、それじゃ溜まり場にするにはもってこいだな!」

 「なんかやましい物とかいっぱいありそう……これは家宅捜査するべきかも……」


 といった具合に、仲良くなった人達とどこの中学校にいたのか的な話になって、そのまま流れで俺が一人暮らしのことが露見したわけで……それ自体は別に問題は無いのだが……。

 やましい物が……正確にはやましい者が……我が家では生活しているわけであって……。

 おそらくクラスメイトは、ただ珍しい一人暮らしの人間がどんな生活をしているのかということが気になるだけだろう。

 だから、色んなところが無遠慮に漁られそうだ。

 でも幸いなことに柚乃ゆのさんは、幽霊だから姿を隠すことが出来る。

 なので計画では、一旦姿を消してもらう予定だ。

 でも想定通りに事が運ばないのが計画というもの。

 柚乃さんのことだ、絶対途中で出てくる。

 ならいっそ最初から身内として普通に部屋にいてもらおうか……。


 「あ、お客さんだわ」


 インターホンの音に柚乃さんはモニターで様子を窺う。


 「さっき言ってたクラスメイトかしら?」

 「あ、いいですよ、俺が行きますから」

 

 制止するために言ったのだが柚乃さんは、意に介さずスタスタとスリッパを履いて玄関に言ってしまう。

 

 「ちょっ、待ってぇ」


 慌てて走るも、フローリングの床で何も無いのにつまずく。

 そしてガチャッと音がして無情にも柚乃さんは、玄関のドアを開けた。

 あ、これ終わるやつだ……。


 「こんにちは、話は聞いてるよ?クラスメイトなんだって?」


 一人暮らしって言ってあったから出てきたのが俺以外の人物であることに驚きを隠せないクラスメイト達は、ただ黙ってポカンとしている。


 「えぇっと……入る家間違えたかな……?」


 クラスメイトの一人が表札を確認した。

 

 「えぇっと…高森ってなってるから間違いないはず……」


 これ、既視感デジャブだ。

 俺が初めてこの部屋に来た時も、中から柚乃さんが出てきて戸惑ったんだよな……。


 「あってるよ」


 いつまでもクラスメイトを玄関の外で待たせるわけにもいかないから仕方なく俺も出ていくことにした。

 

 「おぉ和哉!いやービビったぜ!いきなりこんな綺麗なお姉さんが出てくるもんだから……てっきり同棲してるのかと思っちまった」


 クラスで一番仲のいい男友達、野崎のざき幸樹ゆうきが開口一番に言った。

 彼は超身長イケメンの部類なのだが、ところどころ残念なところがあってモテるようでモテない。


 「ほんとそうだよ〜で、この人は誰なの?」


 矢継ぎ早に、槻村つきむら煒月いづきさんが訊いてきた。

 槻村さんは、人当たりの良さと運動や勉強もできることから、クラスだけではなく学年の女子ではまだ、ゴールデンウィークが始まったばかりというのに競走倍率が高い。


 「この人、入学式の日に見た気がする……」


 そしてその槻村さんにもたれるように気だるげにたっているのが、佐倉さくら美琴みことさん。

 中学時代から槻村さんと仲がいいらしく、いつも気だるげで授業中は、寝てばっかりだ。


 「あらやだー、同棲だなんて」


 柚乃さんは、まんざらでもなさそうにでへでへと笑っている。

 そして佐倉さんには、見られてたのか……要注意人物に乗せとこう。

 俺は、柚乃さんという爆弾を抱えながらも平穏に暮らしたいんだ。


 「ってことは高森君に対して恋愛感情みたいなのは無いんですね〜?じゃあやっぱり高森君のお姉さん?」


 そうそう俺の姉だよ、そういう認識で今日のところは帰ってくれ。

 これ以上ボロを出したら俺の平穏な生活が……年上の女の人とみだらな関係なんだってーとか、アラサーと付き合ってるらしいよーとか、あらぬ噂とか立てられて消え去ってしまいそうだから。


 「えへへへ姉ではないんです」


 だらしなく笑ったまま、柚乃さんは槻村さんの言葉を否定した。


 「彼女でもなくて、姉でもないならなんなんだよ。はっまさか……」


 幸樹が何かを察したような顔になった。

 おい、頼むから間違った理解してくれるなよ……?


 「なんと言ったらいいか分からないけど……強いて言うなら……健全な同居人ってとこかしら……、ね?高森君」


 柚乃さんは、そうだよね?とばかりに俺の方に視線を送ってくる。


 健全な同居人って同棲してるのと意味変わらなくないか?


 「男女が一つ屋根の下……間違いが起こらないはずもなく……」


 さっきまで気だるげだった佐倉さんは、アホ毛をにょんにょんさせて目を爛々と輝かせている。


 「おめぇ、既に卒業してたんだな……俺達男子クラスメイトを置いてけぼりにして……」


 幸樹は幸樹で変な理解してるし……。


 「間違いなくスクープの香りがする〜」


 仮にもこの話を拡げられたらと考えると、さしずめ俺は、熱愛報道がなされた有名芸能人の気分だ。


 「いや、勝手な妄想しているところ悪いが、その予想は全部違うぞ」

 「そんなこと…もごもごもご!」


 否定しようとした柚乃さんの口を手で押えて、俺はクラスメイト達に口からでまかせの言い逃れをすることになった。

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