第10話 お姉さん×お迎え
「なんで学校まで来ちゃったんですか……」
入学式も、その後のレクリエーションみたいなのも終わって校門を出ると柚乃さんが手を振ってこっちに駆け寄って来た。
「待った〜?」
突然そんなことを聞く柚乃さん、えっとこれ、どういうシチュエーションなんだ……?
俺が返し方に困っていると柚乃さんは、ちょんちょんと俺のシャツの生地を引っ張って、俺の顔を覗き込む。
「……」
それでも返さないでいると頬をぷく〜っと膨らませて
「そこは、待ってないの一言でしょう……これじゃあ女の子と待ち合わせた時が心配だわ」
とため息まじりに言った。
「そこ、普通逆ですよ、俺が男なんですから」
思わず突っ込むと
「それもそっか、なら待ったって訊いてくれない?」
そういうのって人に求められて言う言葉なんだろうか……。
というか、校門前でこんな密接な距離でこんなやり取りしてるから周囲から奇異の視線を注がれている。
「あの、とりあえず移動しません?」
視線に気づくと途端に、居心地が悪くなったのでそう言って強引にお姉さんの手を引いて移動しようとする。
でも、それが悪手だったのか
「え、あの人たちってどんな関係なんだろ……」
「学校前に彼女連れてきてんのかよアイツ……」
「大学生の彼女かぁ……羨ましいっ!」
「歳は十も離れて無さそうだから、カップルね!忌々しいっ!」
そんな感じの声まで聞こえてきた。
「やだぁ〜私と和哉くんがカップルに見えるって!私もまだ捨てたもんじゃないわね!」
ズルズルと引きずるように連れてきた柚乃さんは何故か上機嫌だ。
そのまま校門からしばらく離れた所まで柚乃さんを連れてきてとりあえず人目から逃れた。
「なんで、学校にまで来ちゃったんですか!?」
「えっとバイトの帰りで……それに和哉君が高校生デビュー上手くできたかなって気になって」
申し訳なさそうな顔をして若干伏し目がちに答えた。
そんな顔されるとこちらも強く出れないしどこか申し訳なく感じてしまう。
「おかげで散々な、高校生活スタートになりそうだよ……」
ただでさえ、俺は一人暮らしで学校に通う身、それだけで随分、人から見たら変わった奴に見えるだろう。
それに加えて彼女がいたなんて風に見られたら、多感で思春期な高校生だ、きっと同棲してるだとか家でイロイロしてるだとかそんなことを考えるに決まっている。
あ、決して、俺がそんなことを考えているわけじゃないからね?
「それは本当にゴメン……」
柚乃さんが、若干震えたような声音で再度謝ってくる。
空気感は、とってもシリアスだ、このままじゃなんだかいたたまれない気さえする。
「そういえばさ、バイトはどうだった?」
柚乃さんは、今日がバイト初日だ。
生活必需品の購入費用とか食費とかのお金は自分の稼ぎから支払いたいというのが理由らしい。
俺も家計が楽になるからその提案は、ウェルカムだ。
なんでもバイト先は、俺の通う高校近くの喫茶店らしい。
そこを選んだ理由は、昼間の時給が調べた中ではそこそこ良かったかららしいが、接客業となれば心配してしまう。
なぜなら、こう見えて柚乃さんは幽霊だからだ。
食事と俺の精気とで実体を持ってしまっているが……。
「まぁ、上手く出来たよ!」
ところどころおっちょこちょいなところはあるけど、基本的に柚乃さんは何でもこなしちゃうタイプだ。
「お、上手く出来てるなら良かった」
「このお姉さんに、いっぺんの隙もないのですよ!」
ふふん、と得意そうに胸に手を当てて柚乃さんは言った。
ホントかよ……と疑わしく思うところもない訳では無いが、本人がそうだと言うならそういうことにしておこうか
「柚乃さんさえ良ければ、今度お店に行って見てもいいかな?」
コーヒーとか好きだし喫茶店とかチェーン店以外じゃ行くこと無いから行ってみたいと思った。
「えぇ…っと、あはは……」
あ、これはやっぱり何かを隠してるやつだな……。
まだ出会って数日だけど段々と俺は、柚乃さんがどんな人なのかをわかってきた気がした。
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